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リアクション
5.2日目・昼〜荒野の別働隊〜
ここでは、北の探索隊とは別に行動したPCの結果についてみて行くことになる。
彼等はどのように考え、どのように行動し、どのような結末に至ったのであろうか……?
■
アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)はヘクトルに断りを入れた後、調査向かった先は北ではなく、予告通り「西」であった。
その動機は、同じ所を調べてもしょうがないだろう、という至極まっとうな考えに基づく。
気まぐれな割に、用意周到な彼はまた、準備も怠らなかった。
出立前にルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)と携帯電話やティ=フォンとの連絡、篭手型HC、魔界コンパス、が使えそうかどうかを試したのだ。
結果は、携帯電話やスマートフォンの連絡は、回廊の半径1kmを出るとパートナー間以外の連絡はとれなくなることが判明した。
インフラの整備が間に合わなかったためだ。
「だが、方位が分かるだけでもありがたいことじゃ!
少なくとも、回廊前のベースキャンプまでは戻れるからのう」
ルシェイメアは冷静な見解を述べる。
彼女の意見はもっともで、回廊前のベースキャンプまで戻れば、「回廊周辺の調査」要員達がまだ残っているはずだった。
場合によってはオクタゴンまで退くことになるにせよ、一先ずそこまで辿り着ければ安泰である。
「では、わしは空の上から探してみるのう。
地上の方は頼んだぞ、アキラ達」
光る箒に跨ると金の長い髪を風になびかせて、ルシェイメアは大空に飛びたって行った。
残されたアキラは2人のパートナー達を眺める。
アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)は肩の上に乗り、ニッコリと笑う。
「アキラが行くのなら、
もちろんワタシも一緒よネ☆」
「すまねぇな、アリス」
アキラもつられて幸せそうな笑顔。
「トレジャーセンスを使ってもらえないか?
金属の欠片とか見つけて、サイコメトリで情報を知りてぇんだ。
それと、日があるからもう『焔のフラワシ』はいい」
「アキラ、寒くないの?」
「あぁ、これから動くからな」
アリスは素直に頷いて、野営中に暖をとるために使用した焔のフラワシをしまった。
「ではいってらっしゃい、アキラさん」
セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)はにこやかにアキラたちを見送った。
ほんわかした剣の花嫁である彼女の片手にあるのは、光条兵器ではなく、金の卵だ――3つもある。
「何か、美味しいものでもつくりましょうか?」
眠い目をこする。
野営用のテントは2人用で、1つしかなかった。
数時間おきに睡眠と見張りを交替しなくてはならなかった。
さすがに、疲れがとれるまでゆっくりと熟睡、という訳にもいかない。
「あとは……お水ですね。動いたら、喉も渇くでしょうし」
えいっ! と氷術で氷を作り、火で溶かしてみる。
わずかばかりではあったが、無いよりはましであろう。
セレスティアはアキラ達が調査に向かった彼方を見た。
すでにアキラ達の姿は見えず、光る箒に至っては空に溶け込んでしまっていた。
荒野に風が吹き抜けて、彼女の足下に小さな渦をつくる。
(静かですね……静かすぎます……)
セレスティアは懐にそっと手を当てた。
(いざとなったら、私はこれでアキラさん達を……)
セレスティアの嫌な予感は、まずルシェイメアの「殺気看破」という形で現れた。
3名の中で先行していた彼女は、「殺気看破」でまず周囲の危険を確かめた……確かめるつもりだった。
っ!!
ルシェイメアは一瞬大きくバランスを崩す。
だが、我に帰ると素早く体勢を立て直した。
「大丈夫か? 何があったぁ?」
アキラが遠くから大声を張り上げた。
「な、なんでもないぞ!」
ルシェイメアは反射的に答えて、いまのはなんだったんだろう、と考えてみる。
それは凄まじい殺気なのだ。
だが、どこからとはいえない。
まるでこの辺り一帯が、総て敵のように思える様な、
ニルヴァーナの大気に溶け込んでしまっているかのような、
……いいや、それもちがう。
とにかく強過ぎて、本能が反応すら敬遠してしまうような――例えるのならば、そんな巨大な「黒い空気」のようなもの。
(これ以上アキラ達を進めては、いかんっ!!!)
今すぐ、とめなければっ!
ルシェイメアは急旋回して、アキラとアリスの姿を探す。
だがルシェイメアに言われなくても、アキラ達は既に「強大な敵」と遭遇してしまっていた。
「トレジャーセンスの『勘』って、ホントに単なる『勘』だったんだなぁ〜〜〜〜〜〜」
この期に及んで、ノー天気な感想を述べたのはアキラ。
ハッキリ言って、絶体絶命のピンチである。
「お宝は『金属の欠片』ではなく、『珍しい生物だった』というオチのようネ☆アキラ」
もっともらしい事をアリスはアキラの方でいってのけるが、実はそうではない。
彼等は「コブつき蟻」の群れに囲まれていた。
この蟻は司が発見した、水をコブに蓄えているあの「蟻」である。
トレジャーセンスの「勘」に頼って穴を掘っていった結果であるが、この場合は荒野では貴重な「水」に反応したと言ってよいだろう。
しかもこの蟻は、一匹が人間の子供程の大きさがあるのだ。
イナンナの加護が作動した頃には遅かった。
そもそもは蟻たちに彼等を襲う気はなかったからだ。
蟻たちが攻撃をはじめたのは、アキラ達によって、散々に巣穴を壊されてしまったためである。
「3匹のスナジゴクで土の中掘り返されちゃったんだヨ。
もうめっちゃくちゃネ!」
しかも、巣穴はアキラのもつ野生の感、トレジャーセンス、アンダーグラウンドドラゴンの嗅覚、アリスのトレジャーセンスで無駄なく掘り返されてしまった。もはや、言い訳の余地すらない。
そんなこんなで、急に反応し始めたイナンナの加護に基づき、アンダーグラウンドドラゴンで地中から脱出した後、追手の先兵に囲まれてしまったのだった。
この分ではまだまだ出てきそうだ。
「私の行動予測によると……絶体絶命ネ☆アキラ」
アリスの予測は正しい事は分かっているが、あまり有り難くないものだ。
空を見た。ルシェイメアが速度全開で急降下してくるのが見える。
アキラさん! という必死の声が響いたのは、直後のことだった。
「アキラさん! 早くこちらへ、走って!」
駆けつけたのは、野営地に残ったはずのセレスティア。
彼女は懐からインフィニティ印の信号弾を取り出すと、サッと蟻たちに向けて投げつけた。
パンッ!
信号弾は破裂して、強烈な光を周囲に生み出す。
蟻たちの進行が止まった。
地下生物だが、眩さに目が眩んだらしい。
「いまです! 全力疾走で逃げましょう!」
アキラ達の体力を命のうねりで回復させると、セレスティアは空を見る。
「おぉ、大丈夫じゃ。
これがあるからのう」
ルシェイメアは誇らしげに、篭手型HCや魔界コンパスを掲げてみせる。
「ベースキャンプまでの逃げ道は、わしに任せておけ!」
「頼んだぜぇ、ルーシェ」
アキラの疲れ切った声が、吐息のように小さく流れるのであった。
アキラ達が、(『金属の欠片』ではなかったが)小さな瓦礫にサイコメトリを使っても、過去が見られなかった火村加夜の話を知ったのは、回廊のベースキャンプに戻ってから、ずっとあとになってからのことである。
■
だが、ルシェイメアが感じた「強大な殺気」は、果たして本当にこの蟻たちによるものであったのだろうか?
■
こんなデータがある。
北に向かった探索隊の一員である、国頭武尊(くにがみ・たける)からの報告だ。
彼は小型飛空艇オイレを駆って、偵察の名目でヘクトル率いる本隊から離れて行動した。
手柄を立てようとしたためであるが、結果気がついた時には本隊の影すらも見えぬまでに遠くに来ていた。
つまり――『完全な単独行動』である。
彼は勇猛にして大胆な「パラ実S級四天王」だ。
そして、あの夜露死苦荘の住人でもある。
少なくとも学習能力だけは人一倍……のはずだ(受験勉強の園だし)。
幸い、目印となる滝がある。
魔界コンパスをもっている彼だが、道具がなくとも、方角を間違うことはなさそうだ。
そして滝があるということは、水は確実に有るだろう――という見解に至った。やはりパラ実生といえど、彼の知恵は侮れない。
「人が生活するに最低限必要なものとして、どうしたって水と食料が必用になってくるだろ!」
今はパラミタから持ち込んだ物に頼っているが、それらは全て有限だ。
何れは底を突くだろう。
実際に、物資の管理係は、ヘクトルに現地調達の必要性を報告書に書いてきたっていうじゃないか。
つまり、今回の調査で水源と食料になりそうな植物か動物を見つける事が出来れば凄い手柄になる。
今は荒廃しているが、かつては文明が栄えていた訳だし……
「自然の湖や、農業用の溜池なんかがどっかにあるかも知れないから、
それを探してみるべきだな」
彼は「ホークアイ」を活かして、目的物を探し始めた。
パラ実がニルヴァーナ探索で確固たる地位を築き、
将来的にニルヴァーナ分校を設立する為にも頑張るぞ。
そんな夢が現実になる事を夢見つつ……。
……っ!!
オイレの動きが急に止まったのは、殺気看破に反応があったからだ。
だが、不思議なことに女王の加護に反応はなかった。
「ということは、今すぐどうこう、という訳ではなさそうだけどよぉ……」
ごおっと風が流れた。
やや離れた位置の青空で、空飛ぶイルカが数匹、オイレをからかうように泳いでいる。
そのイルカは、間もなくすべて無くなった。
奇妙な形をした、巨大な「甲殻鳥」に食われたのだ。
ゴツゴツとした岩の塊のような大きな飛行生物で、
口の部分が以上に発達した深海魚にもみえる。
翼は特徴的で、たくさんのトンボの羽のような半透明なものが、ばたばたと動いていた。
そいつが、大きな口を開けて、丸ごと飲み込んだ。
一瞬のことで、イルカたちは逃げる間もなかった。
大きく膨れた鳥の腹は、暫く蠢いていたが、やがて収まって行く。
この世の物とも思えぬおぞましさを、見る者に与えるには十分過ぎた。
「……いや〜な予感がするぜ」
武尊はぶるっと身を震わせる。
鳥に脅えたのではなく、これは「不吉の予兆」のような気がした。
「先にひとりで行動」は、命取りになるような気がする……。
「こいつらを発見しただけでも、儲けものさ。
第一発見者って、命名の権利ってあるんだろ?」
にやりっと笑う。
「さ、迎え待つとするかな」
インフィニティ印の信号弾を打ち上げて、本隊に合図を送る武尊であった。
「ま、少なくとも水源だけは、先にいけば見つかるだろうし。
こいつらの肉だって、食えるかもしれねぇしな!」
■
こんな報告もある。
彼等2人はルカルカ・ルーのパートナーだ。
本来の目的は、仲間達と共に回廊から北東と北西に向かって通信用の「中継器」設備を整えることであった。
彼らの名前は、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)と夏侯淵(かこう・えん)という。
■
彼等の結果を伝える前に、残念なことを申し伝えなければならない。
誠に残念であるのだが、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が長曽禰に根回しをした通信塔、サーバーについては、今回は調達できなかった。
橋頭堡の建設用資材が優先されたため、さすがの長曽禰にも、急なことでもあり都合出来なかったらしい。
中継器については都合出来たが、数が足りないため、回廊周辺1km圏内の設置に留まった。
だが、長曽禰にしても、彼女等の気遣いに思うところがあったらしい。
「北への通信施設作りは、今後長曽禰に打診して欲しい」
との報が、ルカルカに直接届くこととなった。
冒険はまだまだ続く。
彼女達の今後の活躍に、期待したい。
■
そういった次第で、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は数少ない中継器を携えて、それでも回廊の周辺くらいの最低限の通信設備はカバーしようと、北東方面に尽力していた。
回廊の学生達から「ありがとう!」と携帯電話を通じて、礼を言われた時は照れ臭かったが、嬉しかったのも事実だ。
「でも、ここまでだぜ……」
最後の1個の中継器を施工管理技士と共に設置し終わると、肩をこきこきとならす。
地平線を眺めて、「あれの終端はどうなっているのだろう?」とふと思う。
「ここから先は、先遣隊が調査をしてない、未踏の地か……」
少し行ってみようか?
カルキノスは一歩踏み出す。
ディテクトエビルに反応があったのは、そんな時だ。
な……んだ? この感覚はっ!?
ぞくぞくする、などという可愛らしいものではなかった。
圧倒的で強大な「邪悪」の気配が、北東の果てから流れてきて、カルキノスを飲み込まんとする。たとえるのならば、「真っ黒な奔流」だ。
一方で炎の聖霊に反応は無い。
「今すぐ攻撃してくるものではない、ということか???」
だが、それ程の「邪悪」。
1人で立ち向かうことは危険すぎる。
彼は好奇心が強く、豪胆で気楽な気質だった。
面白い事に目がない、楽天的なドラゴニュートなのだ。
もちろん、力にも相応の自信はある。
それでも「危険だ!」と感じた。
それほどの「邪悪」だ。
その時、タイミング良く携帯電話に着信があった。
夏侯淵(かこう・えん)とある。
淵に相談、というよりも説得されたカルキノスは、数分後ルカルカ達と合流すべく、本隊を追いかけるのであった。
「空飛ぶ箒シーニュ使えば、ひとっ飛びだろう!
なに、いざとなったら、天の炎で壁を立てて、
不滅兵団をぶつけてやるぜ!」
■
夏侯淵(かこう・えん)はカルキノスを説得すると、折り返しルカルカに連絡を入れた。
「俺もすぐそちらに向かう。
……ああ、詳しい話は、あとで」
携帯電話を切る。
その手は僅かに震えていた。
いや、これはきっと、武者震いさ……。
だが、この邪悪が仲間に危害を与えようものなら……と思うと彼はいてもたっても居られなかった。
勇敢な彼は、それにもまして仲間大事な男なのだ。
彼が「それ」に気づいたのは、予定通り北西に進んで、最後の中継器を施工管理技士と共に設置し終わった時のことだった。
回廊周囲の1km圏内を一歩出た瞬間に、やはりディテクトエビルに反応があった。
こんな反応は、かつてなかった――そう思えるくらいに「強大」なものであった。
既に野営の準備を整え、夜は教導のレーションと飲料をのみ、あとは断熱材の毛布に包まって夜空を眺めるだけ……そう考えていたのだが、予定が狂った。
不幸中の幸いは、既に「中継器」を総て設置し終えていることだろう。
「ひとりでいたら、危険だ……そうだ、カルキ!」
慌てて携帯電話を入れた。
彼は無事だった。だから仲間の下に向かわせた。
1人は危険なのだ! 本能が叫ぶ。
「あとは、そうだ、ルカ!」
感性派で、
快活で、
なのに、時にブライドオブヴォラーウォンドを預かって台座に納める、などという芸当もこなしてしまう。
頼もしくて、自慢の、唯一無二の、かけがえのない仲間――。
「ルカ! 無事か?」
淵はルカルカの携帯電話に連絡を入れる。
無線でもない、定時連絡でもない連絡にルカルカは驚いたが、
本隊と合流することで、話がついた。
詳しく話を聞く必要がありそうだ――そう感じたようだ。
「本隊に戻る。
野営は中止だ、いくぞ!」
そうして淵も空飛ぶ箒シーニュに乗って、ルカルカの待つ本隊へと直行した。
■
以上の報告から、「強大な邪悪」の存在が探索隊にもたらされることとなった。
だが、一隊それが何を意味するのかまでは、今回の発見には至らなかった。
■
さて、先にルカルカ・ルーのパートナー達の話が話題となったが、ここから先は、彼女達の本来の「任務」の経過についてお話したい。
彼女達・【情報網構築隊】の任務――それは「荒野に通信設備を整えること」。
■
探索班のルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、施工管理技士4人の力を借りて、回廊周辺・北側に中継器をおいていた。
数が足りないためこれが最後の一個だが、少なくとも回廊周辺にいる仲間達達の為に、必要最低限の設備は整えることが出来た。
「あとは、パートナー通信で何とかしなくちゃね」
公式の回答で、「今後の簡易通信施設(中継器)作りについては、長曽禰に打診して欲しい」旨が得られている。
今後は彼からの助力が得られそうだ。
中継機の設置が終われば、今度は地図の作成に移る。
地形のデータ収集も、探索活動を行う上で、重要な任務の一つだ。
彼女達に思い煩っている暇はない。
「ルカルカさんは本当に前向きですね?」
探索班のザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が笑う。
「やらなければならないことは山程あるもの。
それにね」
と北を見た。
そこには巨大な滝の壁があり、似た様な荒野が延々と続いている。
「何があってこうなったのか、それが知りたいわ」
とても高度な文明がさかえた場所だとは思えなかった。
「データを集めたら、この風景が地球のどこに似てるのか、知識に照らしてみるの。
どこかに街とか隠された入口があるか、何か痕跡や手がかりが残ってるかもしれない」
「なるほど、それも一理ありますね」
「空に行こうよ! 空撮のデータが必要なの」
デジタル一眼POSSIBLEを掲げて、小型飛空艇アルバトロスを指さした。ついで、ザカコの光る箒も。
「時間がないの。
それに、ここにはアルバトロスを整備できる人もいないし……」
「機晶技術ですか……」
ここにダリルはいない。
そのために彼等は単独行動は出来ず、本隊と往復しなければならなかった。
「まぁ、まってください。
まだ頑張っている人もいますので」」
ザカコは苦笑して、中継器を眺めた。
強盗ヘル(ごうとう・へる)が中継器に迷彩塗装を施してカモフラージュしている。
「ええ、彼の力も必要よ!」
作業が終わる事を見届けて、3人は空へ去った。
■
拠点班のダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は一瀬瑞樹(いちのせ・みずき)と共に「オクタゴン」内部に大規模・通信機器設置しようとしたが、機材が足りない。
しかたなく回廊周辺で建設中の橋頭堡内に、長曽禰の許可を得て、必要最低限の通信設備――つまり携帯電話やスマートフォンで連絡を取れる程度のものを、設置していた。
彼らを神崎輝(かんざき・ひかる)とシエル・セアーズ(しえる・せあーず)が手伝う。
「私ああいうのよくわからないし、邪魔しちゃ悪いから見張りとかでもやろうかなー」
苦笑して、技術的活動を早々と離脱したのはシエル。
周辺の見張りと仲間のサポートに努めるつもりだ。
「輝も多分忙しくなるだろうから、私もしっかり頑張らないとね♪」
輝に禁猟区をかけて、自分は殺気看破とイナンナの加護を使う。
これで、万一の襲撃に備えようというのだ。
「まぁ周りに何もないみたいだから大丈夫だと思うけど」
笑って、シエルは見張りに入った。
残された輝は2人の手伝いに、橋頭堡に向かった。
(ボクだって、その辺の知識はそこまで詳しくはないけれど……)
行く道で、輝は北を見た。
(これが……ニルヴァーナ?)
滝の壁以外は、草1つない台地が延々と続く。
予想外の光景に、始め見た時は本当に不安になったものだ。
正直、不安な気持ちがやや大きくなりはしたが、輝はアイドルだった。
(仮にもアイドルやってる人間が、そんなこと言っちゃダメですよね!)
自分達に出来ることがあるなら、全力で頑張ろう! そう思った。
だからルカルカの考えに共感し、ダリルを手伝おうと思ったのだ。
橋頭堡に入ると、ダリル達は4人施工管理技士達と共に、落ち着いて作業を進めていた。
サーバーや通信塔の設置を想定していた彼らにとっては、きっと造作もない簡単な作業なのだろう。
ダリルは先端テクノロジー、機晶技術、博識、特技に指揮を持ち、理数も得意だ。
瑞樹も博識、機晶技術、先端テクノロジー、シャンバラ電機のノートパソコンに、情報通信の特技をもつ。
その為だろう。大きな混乱もなく、輝は予想していたよりもずっと楽な仕事で終わることが出来た。
「簡単でも、気を抜いては駄目ですよ、マスター」
瑞樹が輝に説明をしながら、作業を教える。
(こういった作業は苦手だとばかり思ってましたが……)
時間が取れた為に、輝は2人の専門家から分からないことを、教えてもらうことが出来た。
それはとても楽しいことのような気がする。
きっかけはどうであれ、輝は通信技術のことについてもっと勉強したいな、と思った。
作業が終わって、休憩に入る。
ダリルは拠点班の全員を呼んで、自作の菓子で慰労した。
「結構いい筋をしているんだな? 驚いたぞ」
ダリルに褒められて、輝はへへへと笑った。
冷静ドライな彼が言うのだから、きっと本当のことだと考えた。
歌って踊って、理系もOKなアイドルも、いいかもしれない――。
「ボク、少しはお役に立てました?」
「ああ……と、話してなかったかな?
俺達の役割は、とても重要な任務だったのだ……」
ダリルは自分達拠点班の「本来の」効果を語る。
これが成功すれば、以下のようになるはずであった。
1.周辺一帯の地図を全員が活用可能となる。
2.入手情報を全員が記録し引出す事が可能となる。
3.HC等による通信が探索した範囲において可能となる。
「すなわち、探索の大幅な効率化がなせるはずだった。
まあ、今回は諸事情から総ては難しかったが、千里の道も一歩からだな」
ぽんと、軽く輝に肩をたたく。
頑張れよ、と言う意味だろう。
輝は、今度はもっと、自分の力でもっと多くの事を出来るようになれればな、と思うのであった。
■
その頃。
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は強盗ヘル(ごうとう・へる)は、ルカルカ・ルーと協力して地図データ作成の為、撮影活動を行っていた。
ザカコは光る箒に跨っており、ヘルは地上から歩いて行く。
ヘルが見上げると、ザカコはデジタルビデオカメラで地上を撮影していた。
未開の地では実際に自分の目で確かめないと、本当に重要な情報は得られませんからね――といったところなのだろう。
そうでなくとも、この地は彼の好奇心と探究心の双方をくすぐる。
その証拠に出掛ける前、ザカコはヘルにワクワクする目を向けて。
「あの滝の元へと辿り着けたら、是非一番上まで登って周囲を一望してみたいですね。
誰も見たことがない景色が広がっているのかどうか、実に興味が湧いてきます……」
などとも言っていた。
「滝か……お宝でも眠っているとか?」
双眼鏡『NOZOKI』でみた。
ここからでは、ちょっとあるかどうかまでは分からない。
「しかし、アホみたいにでかい土地だよなぁ」
滝までの風景を眺めて、ヘルは舌なめずりをする。
「こんだけスペースがあればお宝も色々と眠ってそうだぜ
この土地の先にどんなお宝が俺を待ってるのか、楽しみだぜ」
だが当面はザカコ達の手伝いだけで精いっぱい。
お宝は2人で調べたこの土地に関するデータ、と言うことになりそうだ。
それに、と思う。
(あんなに遠い滝まで、本当にたどり着けるのか? 俺達)
ヘルが見た所、なんだか初日と全く大きさは変わってないように見えるのだ。
「さ、戻りますよ、ヘル」
ザカコはふわりとヘルの前に降りたった
「我々は本隊に戻って、この撮影データをまとめなければなりません。
仲間達と、銃型HCでの情報共有も行わなければ」
■
携帯電話やスマートフォンでの通信が可能となり、回廊周辺での生活はやや快適になった。
【情報網構築隊】の面々に御礼メールが届くのは、夜になってからのことである。
また彼等の地図は、後述する他の面々と同様、貴重なニルヴァーナのデータとして重用されることとなる。
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