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リアクション
6.2日目・夜〜回廊前〜
夜になって、回廊前は静かになった。
演劇要員達は資材を片付け、テントへ帰る準備をしている。
舞台となる簡易野外劇場は形にはなってきたが、完成まではまだ数日かかりそうだ。
■
ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)はフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)と共に、野外劇場に近い場所で人を待っていた。
フレデリカとルイーザの間はやや離れている。
長い赤毛を風になびかせて、荒野を眺めるフレデリカを見つめて、ルイーザはほうっと息をついた。
(フリッカはきっとたいむちゃんの事が放っておけないんでしょうね。
彼女を通じてもうちょっとフリッカも素直に甘えられるようになってくれれば……)
3年前の事故を思い出す。
あれさえなければ、今頃フリッカは私にも甘えられて……
いえ、とルイーザは頭を振った。
(今は調査を優先しなければいけませんね。
たいむちゃん、フリッカそしてパラミタのためにも)
フレデリカはニルヴァーナの荒野にたいむちゃんの姿を重ねていた。
(たいむちゃん……彼女も世界が空虚で灰色に見えてしまっているのかしら?)
3年前の自分と重なる。
彼女との違いは、「自分は確定してしまっている事実」ということ。
(状況は限りなく悪いかもしれないけれど、まだ全ての希望が断たれたわけじゃないわ。
だって私達、まだ半径1kmしか見てないじゃない)
だから、「演劇」や「お茶会」で彼女を励ますのも大事だけど、
今の彼女に一番必要なのは、明るい希望を見出せるような情報じゃないかしら、と彼女は思うのだ。
その為には、どうしてもあの、オクタゴンにあった大型映像装置の謎を解き明かさなければならなかった。
待ち人が来たのは、野外劇場が完全に静かになってからだった。
その者、ロザリンド・セリナは「機晶技術」をもつゆえに、ヘクトルから紹介された学生だった。
「あなたが、フレデリカ・レヴィさんかしら?」
「ええ、お願いしますね」
「こちらこそ!」
ロザリンドは軽く一礼すると
「私も、ここに来るまでに簡単に調べてみたのですが……」
先ず自分の知り得るあの装置の見解を述べた。
「現在遺跡で発掘される『機晶技術』より高度な技術で、薄型テレビが再現されている、結局それくらいしかわかりませんでしたね」
残念そうな顔。
そう、でしたか、とフレデリカは小さく息をついた。
技術を持つ者が分からない以上、操作方法についてもお手上げだ。
「私かも質問してもいいです?」
「ええ、なにかしら?」
「どうして、あの映像装置にこだわるのですか?」
「たいむちゃんに、私みたいになって欲しくなかったから……」
「たいむちゃん?」
フレデリカは事故で兄を無くしたことをはなした。
その兄がどんなに自分にとって大切な人だったかも。
「私の希望はもう潰えてしまったけど、少しでも可能性があるうちは出来る限り足掻いていてもらいたいから」
「それで装置のことを調べれば分かるかもしれない、って。
そう考えたのですね!」
「ええ、そうよ、ロザリンド」
「……私に、何かできることはないでしょうか?」
ロザリンドは、フレデリカの勧めに従い、ルイーザから話を聞いてみた。
彼女は「記憶術」をもつ。
彼女のデータから、何か引き出せないものかと考えたから。
けれど、ロザリンドの持つ知識では、それが限界だった。
「サイコメトリで情報を引き出そうにも、これだけ年月がたつと難しかろう、て。
お話があった時、ヘクトルさんがおっしゃってました」
「そう……完全に手がないのね? ニルヴァーナの過去を知る手だては」
「でも、たいむちゃんにはきっと届くと思いますよ。
あなたのやったことは、きっと無駄じゃないです。
想いは、いつか、届くものだから」
ロザリンドはフレデリカの笑みを合図に辞した。
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