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【冬季ろくりんピック】激突!! フラッグ争奪雪合戦バトル!

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【冬季ろくりんピック】激突!! フラッグ争奪雪合戦バトル!

リアクション


〜試合開始前〜


 ツァンダから南へと向かった所にある草原――いや、今は雪原というべきか。
 そこに作られたろくりんピックの会場に、多くの学生達が集まっていた。
 彼らは東西シャンバラチームによる対抗戦「フラッグ争奪雪合戦」の参加者達だった。

「……で、俺様が呼ばれたって訳か?」
 東シャンバラチーム陣営、その中でE−40というゼッケンを着けたアッシュ・グロック(あっしゅ・ぐろっく)が隣にいる永倉 八重(ながくら・やえ)と話をしていた。
「そう。あなたならこういう勝負事は好きだと思ったから」
「直接攻撃無しの雪合戦か……いいじゃねぇか、俺様の腕の見せ所だぜ。足引っ張るなよ、八重!」
「あなたこそね」
 ケンカ友達といった間柄の二人が気合を入れる。そこに涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)がそれぞれの連れを伴ってやって来た。
「二人共元気が良いね。これなら攻めは任せても大丈夫そうかな?」
「今回は人数がかなり負けてるし、どんどん攻めて行かないとね」
「涼介さんにカレンさん。お二人も出場されるんですか?」
「あぁ。出るのは私だけで、ミリアさんとエイボンは観戦だけどね」
 涼介の後ろにはミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が立っていた。二人共青を基調とした、東シャンバラチームのユニフォームに身を包んでいる。
「私達は応援する事しか出来ませんけど……涼介さんにも、皆さんにも頑張って頂きたいです」
「兄様、奥様がこう仰っているのですから、良い所を見せて下さいませね」
「やれやれ、これでは下手な所は見せられませんね」
「あははっ、女の子二人に応援されてるんだから、期待は裏切れないよね」
 笑うカレン。そんな彼女にも応援の為にやって来ている者がいた。火口 敦(ひぐち・あつし)だ。
「俺はカレンさんに期待してるっスよ。これぞカレンさんっていう所を見せて欲しいっス!」
「オッケー! 派手に散ってみせるよ!」
「アウトになる事前提っスか!?」
 敦の反応で再び笑うカレン。勝負は真剣に。でも敵味方問わず、楽しめる試合を。カレンは皆で盛り上がってこその大会だという考えを持っていた。

「参加登録が締め切られたわ。人数は東40に対し……西79。正直、圧倒的に不利と言わざるを得ないわね」
 同じく東シャンバラチーム陣営。ジェニファ・モルガン(じぇにふぁ・もるがん)が試合の情報を表示していた端末を仕舞い、そうつぶやいた。人数を聞いたマーク・モルガン(まーく・もるがん)が苦い表情をする。
「厳しいですね、姉さん。どうします?」
「守っていては勝てないけど、守りも大事……ジレンマね。最低限、E3地点にあるこちらの3点フラッグは取られないようにしたいわ。マーク、それから……シャウラさん、頼める?」
 ジェニファは今回の試合に当たり、パッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)にも参加を依頼していた。他の皆と同様に東シャンバラチームのゼッケンを着けたパッフェルが静かに頷く。
「……分かった。旗と味方の護衛、頑張る」
「姉さん、姉さんはE3には行かないんですか?」
「さっきも言ったでしょう、守っていては勝てないと。だからわたくしは最初、無所属のフラッグを狙ってみるわ。だからマーク、そちらはお願いね」
「は、はい! 絶対にフラッグを守って見せます!」
 いつもジェニファに護られてばかりの為、いつか自分が他者を護れる男になりたいと思っていたマーク。そのせいだろうか、試合という形ではあるものの、ジェニファに頼られた彼はカニの甲羅を構えて意気揚々と宣言するのだった。
「……マーク、盾、それしか無かったの? もう」
「……臭い」
 残念ながら、女性陣には不評のようだった。

「――作戦は以上。アンタが戦況を読む必要は無いわ。アタシの指示を黙って実行すれば、それでいい」
 更に東陣営。グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)はパートナーのシィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)に向けて今回の競技のポイントと、自分達が取るべき行動の大まかな内容を告げた。
 その内容をシィシャが飲み込む僅かな間、二人の間には静寂が訪れる。そして、シィシャが了承を意味すべく両手を上げて丸を作――るかと思いきやその手を下ろし、胸の前でバツを描――く直前で再び手が上げられ、大きな丸を作った。
「そういうのいいから」
「古典芸能です」
「いいから」
 鉄壁な表情でしれっと言い放つパートナーに、どこで覚えてきたのかと疑問を抱くグラルダ。ともあれ気を取り直し、試合が始まって別行動となる前に指示を再開する。
「アンタの行く方向に味方がいたら、優先して守りなさい。アタッカーの被弾は重大なロスよ。場合によっちゃ身体張ってでも守れ」
 人数によってはフラッグより優先。そう伝えるグラルダにシィシャは再び無表情で頷いた。そして――
「お腹が空きました」
 ――駄目だこりゃ。


 一方その頃、西シャンバラチームの陣営でも試合前の準備が行われていた。
「しかしまぁ、オレを雪合戦に呼ぶとはな」
 W−76というゼッケンを着けた長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)と話をしていた。マーゼンは赤い髪という外見とは裏腹に、氷のような冷静さを保ったまま淡々と話をする。
「少佐にはアムと共にAラインの防衛をお願い致します。恐らく他の選手もそちらに向かわれると思いますので、人員を有効活用して東軍の侵攻を阻んで頂けたらと」
「まるで演習だな……まぁいい、ともかくこいつと動けばいいんだな?」
 広明がアム・ブランド(あむ・ぶらんど)を指差す。アムはただ頷くだけだったが、隣の本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)が代わりに答えてくれた。
「アムはちょっと無口だけど、あたしも近くで一緒に守るからよろしくね、おやっさん」
「オレをおやっさんと呼ぶなっての。ったく……ん?」
 振り返った広明が陣営に見知った顔がいる事に気が付いた。それは、自分が所属するシャンバラ教導団の団長、金 鋭峰(じん・るいふぉん)だった。

「団長、精一杯頑張ってきます。西チームを応援して下さいねっ」
「うむ。君の活躍と、西軍の勝利に期待しよう」
「はい! 必ずや勝利を!」
 鋭峰の前で敬礼をするルカルカ・ルー(るかるか・るー)が元気良く答えた。鋭峰は広明とは違い選手として出場する訳では無いが、自分達西シャンバラチームの勇姿を見て欲しいというルカルカによって観覧を勧められ、この場に来ていた。
鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)中尉、君にも期待している。力を尽くしたまえ」
「心得ています、団長。ですが勝敗は兵家の常。それにせっかく殺伐した空気とは無縁な、スポーツ競技に参加する訳ですから。あくまでも正々堂々、楽しませて頂きますよ」
「レクリエーションという事か、それも良かろう。では、私は観覧席から試合を見させてもらう。競技終了後にまた会うとしよう」
 参加者達に背を向け、フィールドの周囲に作られた観戦スペースへと去って行く鋭峰。それを見送り、真一郎がルカルカへと向き直った。
「さぁ、もうすぐ試合開始ですね。団長の期待に応えられるように頑張りますか」
「うん、真一郎さん♪ ルカ、この試合が終わったら真一郎さんと……」
 周囲を放っておいて自分達の世界に入り出す二人。それを見て、夏侯 淵(かこう・えん)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は若干呆れた表情をしていた。
「……何か、怪しいフラグが立っているぞ。主に死亡的な」
「放っておけ。如何に競技といえど、あのタンポポ頭が簡単に墜ちる事は無いだろうしな」

「ねぇ、本当に私も出ないと駄目なのかしら?」
 別の場所ではコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)によって呼び出された雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)が不安な表情を見せていた。彼女はW−77というゼッケンを着けている。つまり、西側での参加者だ。
「もちろんだ。それに、もう参加者は確定しているからな」
「それはそうなんだけど……」
「雅羅、君が自身の体質に悩んでいるのは分かる。だが、だからこそこういった物で少しでも楽しんでもらえればと思う。童心に帰って雪玉を投げ合う……君にとっても意義はあると思うぞ」
 目の前に広がる真っ白な雪原を見る。自分の為を想って言ってくれている事は間違い無いコアに対し、雅羅は小さくため息をついてから答えた。
「……はぁ、分かったわ。そんなに言うなら試合終了まで付き合ってあげるわよ」
「そうか、ありがとう。皆が楽しめる試合になるといいな!」
「そうなるといいわね。それで……私達はどこを攻めるつもりなの?」
「もちろんC3地点のフラッグだ。3点は大きいからな!」
 C3地点とは、今回のフィールドの中央に位置する場所だ。3点の旗は全部で三か所あるが、最初の時点で両チームとも占有していないのは中央のここだけだった。更に言うなら、スタート地点から一番到達し易い3点フラッグである。
 ――当然、激戦が予想される。
「……何だか、物凄く嫌な予感がするわ」
 カラミティの異名を持つ雅羅が先ほどとは違う意味でのため息をついた。
 ――うん。その予感、まず当たってます。

「ねぇねぇリョウ、まだ始まらないの?」
 『西』シャンバラチームの陣営内。そこでニゲル・ヘレボルス(にげる・へれぼるす)久我内 椋(くがうち・りょう)の袖を掴んでいた。
「もう少しだとは思いますけどね。それより……そろそろ機嫌を直されてはどうですか?」
 椋が後ろのモードレット・ロットドラゴン(もーどれっと・ろっとどらごん)を見る。
「……暇だからとついては来たが、何故俺までこんな血も流れない競技なんぞに出なければならないんだ」
「たまたまエントリーシートを三枚もらってしまいましたからね。ニゲルが参加する気になってましたし、丁度良いかと」
「何が丁度良いだ。全く……」
 文句を言いながらも、既に勝負の舞台に上げられた以上は引き下がろうとはしないモードレット。結局モードレットを含め、三人はそのまま競技に参加する事にしたのだった。
 ――『西』チームとして。

「雪合戦か〜、子供の頃に良くやったな〜」
「ふ、やるからには勝利あるのみじゃ!」
 桜葉 忍(さくらば・しのぶ)織田 信長(おだ・のぶなが)は陣営の後方で競技の開始を待っていた。のんびりと過去を懐かしがる忍と気合の入っている信長、好対照な二人だが、開始を待ち望んでいる気持ちは同じだ。
 そんな二人の横で榊 朝斗(さかき・あさと)が旗の配置が記されたマップとにらめっこしながらどう行動するべきかを考えていた。
「一番激戦区になりそうなのはやっぱりC3地点か……でもA3に力を入れてくるかもしれないし、相手の展開によっては逆にE3が狙えるかもしれない。この戦略、どう読むべきか……」
「朝斗、まだ悩んでるのか?」
「えぇ……人数で勝ってるとはいえ、油断すると足下をすくわれそうですから。やっぱり基本はC3とA3を相手に取らせない事、ですかね」
「そうだな。俺達でその二か所を守るか――ん?」
 マップを覗き込む形で朝斗と議論をしていた忍が気配に気付いて振り返った。そちらからは同じ参加者の一人であるローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)がやって来ていた。
「今戻ったわ。まだ始まってないわよね?」
「あぁ、まだ大丈夫だけど……どこに行ってたんだ?」
「ちょっと木がある所までね。これを作ってたのよ」
 ローザマリアが手に握った木の棒を見せる。それはY字を形作り、その間にゴム板が通される事で物を発射する事が出来るようになっていた。
「あぁ、パチン――」
「スリングショット、よ。ルール上これで雪玉を射出する事は認められてるはずだから、有効活用させてもらうわ」
 軽く二、三回空撃ちをして感触を確かめるローザマリア。どうやら出来は上々のようだ。
「ところでローザさん、ローザさんはどう動くつもりですか?」
「私達はC3ポイントの確保と防衛をするつもりだけど……朝斗、まだ決めかねてたの?」
「一応A3かC3までは絞ったんですけどね。でもローザさんがC3に回るなら僕はA3に向かおうかな」
「そうね。忍はC3に来るんでしょ?」
「信長には自由に動き回ってもらうけどね。俺はC3に行くつもりだよ」
「ならやっぱり朝斗には動き回ってもらった方が良いわね。何かあったらテレパシーで連絡を取り合いましょう」
「分かりました。じゃあ僕はA3に向かうとして……他の二人もそれぞれ別で動いてもらいますね」
 マップに忍達の行動予定とA3地点近辺での注意を書き込み始める朝斗。相手による旗の奪取の妨害、それが朝斗達の基本的な目標となった。

「透矢君、今日はよろしく頼むよ」
 更に別の場所では無限 大吾(むげん・だいご)が、協力相手として呼んだ篁 透矢(たかむら・とうや)と話をしていた。
「あぁ。結構集まってるみたいだし、足を引っ張らないようにしないとな」
 二人が辺りを見回す。西シャンバラチームは人数が多く、80人近くがエントリーを行っていた。中でもやはり、蒼空学園に所属する学生が一番多い。
 その蒼空学園生が何人か、こちらに気付いて近づいて来るのが見えた。加岳里 志成(かがくり・しせい)双葉 みもり(ふたば・みもり)だ。
「透矢さん。透矢さんも参加されてたんですね」
「やぁ、志成も来てたんだな。それにみもりも」
「はい。こういう皆でやれる競技は楽しいですから。加岳里様や皆様と一緒に参加させて頂きます」
「皆で頑張ろうな……そうだ、もしかしたらもう知り合ってるかも知れないけど、俺の友人を紹介するよ」
 透矢が隣の大吾を手で示す。
「透矢君と同じで大学部に通ってる無限 大吾だ。よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします、大吾さん」
 志成達と会釈を交わす大吾。そんなやり取りが目立っていたのだろう。今度は火村 加夜(ひむら・かや)山葉 涼司(やまは・りょうじ)がやって来た。
「こんにちはっ。皆さんお揃いですね」
「ここは蒼学一色みてぇだな」
「火村様。お二人もご参加ですか?」
「参加するのは私だけです。涼司くんは応援に来てくれたんですよ」
「加夜だけじゃねぇ、蒼空学園の奴らには気合入れてもらわねぇとな。お前達の姿は観客席からしっかりと見させてもらうぜ」
 涼司がみもり、志成、大吾、透矢と視線を移す。それが合図になったかのように、東西陣営に放送が流れた。

『え〜と……参加者の皆に連絡だよー! もうすぐ試合開始だから、スタート位置についてね〜!』

「おっと。じゃあ俺は戻るぜ。加夜、しっかりな」
「はい、涼司くん」
 最後に加夜へと手を振り、観覧席へと戻る涼司。彼に小さく手を振り返し、加夜が皆へと向き直った。
「それじゃあ行きましょうか。皆さん、頑張りましょうね」
「あぁ。涼司の期待に応えないとな」
 透矢の言葉に皆が頷き、それぞれ思い思いの場所へと散って行った。

 競技開始まで、あと少し――