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リアクション
13.ウェディングドレスと互いの気持ち
「うーん」
崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)はドレスを見ながら、顔をしかめていた。
バレンタインにリコルートのウェディングドレス展に神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)を誘って訪れたのだけれど、なんだかしっくりこない。
「亜璃珠、ドレスのモデルでも頼まれたか?」
そして側でドレスを見て回っているこの連れも、なんだか素っ頓狂な事を言っている。
「薄らとした光沢の白いレース生地の、白金色のレース。その時だけは引き締まった体を見せない、でも華やかさを主張し過ぎないすらりとしたエンパイアライン」
ドレスを手にとって、広げて眺めてみる。
素敵なデザインと作りのドレスだった。
「ぶっちゃけ優子さんにはこれを着せてみたいわ」
「……は?」
途端、ドレスを見ていた優子が訝しげな顔をする。
「きっと似合わないと思うけど、それをぎこちなく着たあなたの顔がどんななのか、ベールを上げて見てみたい」
「今と同じ顔が出てくるだけだ」
答えた優子は仏頂面だった。
「はあ……」
亜璃珠は大きくため息をついた。
確かにそれは楽しいだろうけれど――いつもの事。結局日常的な楽しみ方しか思いつかないというか。
「特別なものなんてもうそんなに必要ない、のよね」
一緒ならなんだっていいんだと、亜璃珠は優子を見ながら思う。
「……いっそのこと内緒で籍だけ入れてみたりしない?」
突然の言葉に、優子は驚きの表情を浮かべて亜璃珠を見た。
「あ、着たいとか着せたいとか、要望があるなら受け入れるわ」
「いや……唐突すぎて、意味が分からないぞ」
「いえ別にね、周りの友人は皆ゴールに向かってるから焦ってるとか、何より小夜子に先を越されてるのが意外と心に来てるとか、そういう事じゃないわ」
亜璃珠は優子に背を向けて持っていたドレスを片付けながら言う。
「……何よりそういうのって、馬鹿じゃない、人の気持ちも考えないでさ。
あなたのこれからの事も聞いてないのよ?」
「焦ってるようにしか聞こえないんだけど?」
優しい声が耳に入った。亜璃珠はなんだか恥ずかしくて優子に顔を向けられなかった。
「きちんと話していなかったけれど、私は百合園卒業後、ロイヤルガードとして、シャンバラ宮殿で女王に仕えるつもりだ。代王のセレスティアーナ様もロイヤルガードの守護対象だが、私が直接ヴァイシャリーでお守りする機会は減るだろう」
それから、と。
優子は自分のパートナーである、アレナとゼスタのことについて、亜璃珠に話した。
将来、2人を自分の家族として神楽崎の籍に迎え入れる可能性がある、と。
「機会が10年以上後に訪れたのなら自分の養子に。近年なら実家に頼んで父の養子に……つまり、アレナとゼスタは私の妹と弟になるかもしれない」
「……」
亜璃珠は背を向けたまま、黙って優子の話を聞いていた。
「ダークレッドホールの事件を経て、私は神楽崎の名前を継いでいきたいと考えるようになった。自分の結婚相手にも、神楽崎の籍に入ってもらいたいと思っている」
亜璃珠の肩に手を乗せて、優子は亜璃珠を自分の方へと向かせる。
「籍を入れる――婚姻関係を結ぶということは、家庭を築き支え合っていくものだと思う。
もし、亜璃珠が私と結ばれて側で支え合って生きることを真剣に考えてくれるのなら、私も真剣に考えていきたいと思う」
優子はこれからもロイヤルガード隊長として危険な任務に携わっていくだろう。シャンバラと地球と、人々のために身を粉にして精力的に働いていくのだろう。
亜璃珠は今は妻として、家事や優子の身の回りの世話をする能力には長けていない。
また、本決まりではないが就職もヴァイシャリーでと考えていたところだった。
2人の歩んでいる道は、今はまだ同じではなかった。
だから。
卒業を機に、道が大きく離れてしまうことに。
交わることがなくなってしまいそうなことに、亜璃珠は不安を覚えていた。
亜璃珠は優子の真剣な眼差しを受けながら、何も言えずにいた。
「試着してみますか? こちらのドレス、とても似合うと思います」
女性スタッフに声をかけられて、2人は我に返る。
「とにかくもうやめ! ここは、まぶしすぎるわ! センチメンタルは心の毒よ」
突如、亜璃珠はそう言うと、優子の腕を引っ張って歩き出す。
「そうそう、この時期ならきっとフェア中のチョコカフェがわんさかあるはずよ、そっちを巡りましょう」
強く腕を引いて、亜璃珠は会場から逃げるように走り出した。
それからその日は普通に過ごした。
親友としての楽しい時間を満喫した……。
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