校長室
地球に帰らせていただきますっ!
リアクション公開中!
男子三日会わざれば 実家に帰る気なんて無かった。 パラミタに来る時にも、家族には何も言わずに飛び出して来ている。今更連絡を取るなんてことも億劫になっていたのだけれど。 夏休みになり、里帰りをする生徒の話が聞かれるようになると、レイオール・フォン・ゾート(れいおーる・ふぉんぞーと)は篠宮 悠(しのみや・ゆう)にこう言いだした。 「里帰りすべきではないか?」 レイオールは悠が最初に契約したパートナーである。それ故、悠が家を飛び出してパラミタに移ったのは、自分にも理由があることだと責任を感じてもいた。 そんな面倒なことはお断り、と言っていた悠だったけれど、そのうちに他のパートナーたちもレイオールに味方して、里帰りして家族に顔を見せるべきだ、と強硬に説得しようとするようになった。こうなると、いちいちパートナーに反論している方が面倒になってくる。 「久しぶりに帰ってみるか」 これまで連絡1つ取っていなかった。今のうちに行っておくのも手かも知れないと、遂に悠は重い腰を上げたのだった。 悠の里帰りにはレイオールが同行することになった。 いざ地球に来て見ると、レイオールの巨体はかなり目立ったけれど、まあそれは気にしないことにする。 悠はふらっと行こうかと思っていたのだけれど、それはあまりに失礼だからと、レイオールがあらかじめ家に帰ることを父親の篠宮 晋太郎に連絡してくれてあった。 さあ、父親はどう出るだろう。 大工職人の晋太郎は典型的な江戸っ子。口より手の速い頑固親父だ。 ひと悶着起きることは覚悟の上で、悠はがらりと玄関を開けた。 「ただい……」 ま、を言わないうちに、晋太郎の拳が悠の顔面に飛ぶ。 「このどら息子が! 何処に行ってやがったんでぇ!」 突然姿を消した悠を心配し、家族は警察に捜索願いを出した。それでも行方はようとして知れず。何かの事件に巻き込まれたのか、それともあの悠のことだからふらっと気ままにどこかを放浪しているのか。 もう会うことはないのかもしれない。そんな風に諦めかけたところへの突然の帰宅だ。これまで積もりに積もった様々な気持ちが原動力となった父の怒りは激しかった。 「どこに雲隠れしてやがった! 連絡の1つもよこさせねぇとは、ふざけた了見じゃあねえか。その性根、叩き直してやろうじゃねぇか」 容赦なく、晋太郎はげんこつを悠にみまう。 「いや、それに関してはワタシにも咎がある。実は……」 「てめぇが糸引いてやがったのか?」 悠をかばおうとしたレイノールにも晋太郎はげんこつを食らわせ、 「痛ぇなこん畜生!」 と1人で怒っている。それに対してなおも説明をしようとするレイノールを、悠の手が制した。 「いいから」 「しかし……」 「いいんだ。ここは黙って聞いててくれ」 父親の怒りは尤もだ。それは黙って受けるべきだからと悠は激しくぶつけられる父親の言葉と拳に耐えた。 けれど。 「糸の切れた凧みてぇにふらふらしやがって。もう2度と外には出さねぇから覚悟しろい!」 その言葉にだけは肯けなかった。 「勝手ついでで悪いが、もう途中抜けする訳にいかねぇ」 「んだとぉ? てめ、何寝言言ってやがる!」 一層激しさを増す晋太郎の怒声。 けれど悠にも譲れないことはある。 怒鳴り散らすと抑えがきかなくなる父親に面と向かって噛み付くのは、思えばこれがはじめてかも知れない。 「オレは家にはまだ帰らない。他にも相棒がいる。仲間もいる。パラミタも放って置くことはできねぇんだ」 「なにぃ?」 いつもなら、怒鳴り付ければ諦めたように聞いていた悠が反論してきたことに、晋太郎は目をむいた。すべてのことがどうでもいいように、無気力だった自分の息子。それがこうして面と向かって自分に相対して来るとは。 (死んだ魚のような目ぇしてやがったくせによ) 絶対に引き下がらない様子をみせて対抗してくる悠を、晋太郎は心中見直す思いだった。 悠を変えたのは何だろう。それが悠が消えていたこの期間にいた場所、出会った人々に起因するものなのかと、興味も出てくる。 口は止まらないから罵声をがんがんに浴びせかけながらも、晋太郎の目は悠とその隣に立つレイノールを交互に見比べているのだった。