校長室
地球に帰らせていただきますっ!
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庭園でお茶を しばらくぶりに歩く英国の街。 以前住んでいた館から近かったので、ここには良く来たものだ。 馴染みの本屋を覗き、新しくできた雑貨屋の店先にある小物に目を奪われ。 前来た時から変わらないもの、変わったもの、全部を楽しみながらレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)は街を回った。 そうして街を懐かしんだ後、レイナは館の跡地へと歩を進めた。 ずっと帰っていない、あの館……。 幼い頃、レイナはその館に住んでいた。けれどレイナの6歳の誕生日に、ある事件によって起きた火事は館を全焼させた。 その後13年……館は人の手が入ることもなく、放置されたままのはずだ。 「……このあたりはあまり変わりませんね……ほとんど昔のままです……」 館の付近は、時の流れから取り残されたように何も変わりなかった。 レイナにとって館は思い出深い場所であるとともに、トラウマの場所でもある。 気が逸るような……やはり行きたくないような……そんな気持ちを持て余しながら、それでもレイナは館跡へ向かった。 記憶にある通りの大門。 その前でレイナは簡単な追悼を行った。 ほんのしばらく逡巡したあと、レイナは館の敷地へ足を踏みいれた。 放置されていた館は、ちょっとした外観を残しただけの廃墟となっていた。 レイナはその上に、美しかった頃の館の面影を重ねてみる。もう二度とは戻らぬ過去の幻影を。 庭は火事の被害からは逃れていたけれど、手入れされない草木が茂り、打ち捨てられた無残な様を晒している。 「……この辺りでよく遊んでいたんでしたっけ……」 もはや見る影もないですが、とレイナは寂しく笑った。 どこもかも変わってしまった。 何も残っていない。 もう、何も……。 変わり果てた館に打ちのめされながら、レイナは重い足取りで歩いて行った。 そこに。 「お帰りなさいませ、お嬢様」 メイド服にフリルのエプロン。 リリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)はレイナに満面の笑顔を向けて迎えた。 やりたいことがあるからと、リリはレイナより1日早く地球にやってきた。そして中庭の一部をできるだけ掃除し、荒れた草木を整えて、レイナを迎える準備をしたのだ。 ほんの一部ではあるけれど、以前のようにきれいになった中庭に、リリは小さなテーブルと瀟洒なイスを設置した。ささやかだけれど、小さなお茶会ができるようにと。 ――昔……館がまだ笑顔に彩られていた頃、よく庭でお茶会をした。 小さなテーブルに季節にあわせた茶器をのせ。 何時間もお喋りを楽しんだ。 そんな昔の思い出が、一気にレイナの中に蘇る。 「お嬢様? どうかなされましたか?」 不意に泣き出したレイナに驚き、リリが駆け寄ってくる。 「いいえ。ただ……とても懐かしくて……ここでもうこんな景色を見られるとは思わなかったから……」 「お嬢様……さあ、どうぞお席に」 リリはレイナに手を貸して、イスに座らせるとお茶を淹れた。 幸せだったあの昔。皆で集ったお茶会を模して。