校長室
地球に帰らせていただきますっ!
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ディア マイ パパ☆ 久しぶりに近所のおばちゃんたちの顔を見たい。そう思いたって鈴木 周(すずき・しゅう)は故郷に帰ってきた。 母親は物心つく前に逝去しているし、父親は飛び回っていてろくに家にいなかったから、周の面倒は近所のおばちゃんたちが交代で見てくれていた。だから里帰りして会いたいのはそのおばちゃんたちだ。 父親は顔も見たくないけれど、どうせまたどこかを飛び回っていることだろう。 そんな風にたかをくくってふらりと家に帰ってきてみれば。 「ふははははっ、帰ったか。我が最愛の愚息よ!」 屋根の上から高笑い。 線の細い美形だが目つきは鋭く冷酷そうで、腰まで届く長さの髪を靡かせ……となれば、堂々たる悪の親玉登場シーンなのだけれど。 「このクソ親父!」 そう……これが周の父、鈴木 修一郎その人なのだった。 「違う! 親父ではない! 2人きりの時は……『パ・パ☆』と呼ぶがいいと言ったはずだな?」 「うっせー! パパって顔でもキャラでもねーじゃねぇか! てめぇなんだって今日に限って家にいやがる!?」 「くくく、貴様の帰郷を知り、休暇をとってやったのだ。この私自らの出迎え、有難く思え!」 「いらねーーよっ!」 思いっきり屋根に向かって叫び返すと、周は盛大にため息をついた。この時点で気分は最悪だが仕方が無い。 とりあえず修一郎に構うのはやめて、家に入って茶でも飲むことにした。 けれど、周が茶を淹れ終ったのを見計らったように、修一郎も家に入ってくる。 「うぬ? 我が娘候補のレミちゃんがいないようだが見捨てられたのか?」 レミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)の姿が見えないことをいぶかる修一郎に、自分の分の茶だけを淹れた周は、あっさりと答える。 「あいつがいたら羽伸ばせないから置いてきた」 けれど父親がいたら、羽を伸ばすどころの話ではなさそうだ、と思えば折角帰郷に躍らせていた心もしぼむというものだ。 むっつりと茶をすすろうとした周だったが、次の瞬間、ぴとっ、と横にくっついて座ろうとした修一郎に向けて叫んだ。 「ちょっと待ちやがれ、卓袱台なのに隣に座るんじゃねぇよ、うっとうしい!」 「嫌なのか。ならば膝の上に座るがいい。この甘えんぼさんめ」 「熱っ! その発想はなんだ? どっから出てきた!?」 お茶をひっくり返しかけて慌てる周の顎に手をかけて、修一郎はくくくと笑う。 「照れる貴様もなかなかに愛らしい……!」 「やめろ! 俺に必要なのはそっち方面じゃなくて女の子成分なんだー!」 家に帰ってきてまだそれほど時間が経っていないのに、この疲労度は一体何だろう。 ぜいぜいと息を切らして、それでも修一郎のいるのと反対側に位置を移動してから、周はべったりと卓袱台に肘をついた。 このままでは父親のペースに巻きこまれっ放しになってしまう。何か別の話題は……と考えて、周は父親に聞いておきたかったことに思いあたった。 「あ、そうだ親父。レミのことなんだけどさ、剣の花嫁って使い手にとって大事な人間に似た姿になるらしいんだけどな、少なくとも俺はレミに似てる人間は知らねぇ。てめぇなら何か分かってんじゃねーのか?」 以前から気にはなっていたのだけれど、なかなか聞く機会がなかったのだ。 周の問いに、修一郎はふと笑った。 「流石は愛しい周、いい目のつけどころだ。貴様には、義理の母が亡くなった後に生まれた妹がいた。海外だ。もっとも、生まれてすぐに母親ともども事故で死んでいる。まだ赤子の内に亡くなったが、その娘の成長した姿かもしれぬ、そう推測している。愛した女に2人も先立たれるとはな……やはりパパには貴様しかおらぬな」 「妹、って……うわ重大な話をさらっとしやがったな!? つかそれ全く聞いてねぇぞ!」 「仕方あるまい! パパだって寂しかったのだ!」 「可愛い子ぶるんじゃねー!」 今明かされる衝撃の事実! ……も、修一郎にかかってはまるでお笑いの一環だ。 驚きと納得。その中で周は思う。 (ったく……まぁ、何でもいいや、相棒は相棒だしな) 顔も知らぬまま死んでしまった妹と似ていたとしても、レミはレミ。そう割り切って、周はとくとくと修一郎の語る海外での恋愛秘話から意識を逸らすのだった。