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間章【調理場の様子】




 海岸には簡易テントがいくつも張られ、その下ではミリアを始めとする料理担当の人々が着々と料理の下ごしらえを進めていた。
 その中の一角、そこでは宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)那須 朱美(なす・あけみ)が蟹雑炊の下準備をしている。
「ご飯、ちゃんと炊けてる?」
「大丈夫、問題ないよ。にしても、まさかこんなたくさんお米を炊くことになるなんてね」
 朱美が火がかけられている二つの巨大な大釜をしみじみと眺める。結果的に百人近い数が食材調達から戻ったらご飯を食べるのだ。これでも足りるかどうか不安なくらいであった。
「まあ、料理を作るのは私たちだけじゃないから、きっと大丈夫よ。私たちは美味しい蟹雑炊を作ることに全力を注ぎましょう」
「そうだね、あーあ。早く蟹届かないかな」
 そんな他愛もない会話をしながら、祥子は鍋にダシを取るために昆布入れ、朱美は大釜の下の火加減を調節し始めた。
 少し経つと、簡易テントの下からは続々といい匂いが漂い、さらに活気づいてきたことが目と鼻でわかるようになった。



 歩いていたら思わずヨダレが垂れてしまいそうな場所に変わりつつある砂浜を、先程から何回もあたふたとミリアのテントと一つの簡易テントとを往復している三人組がいる。
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)紫月 睡蓮(しづき・すいれん)、それにプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)だ。
 彼らは今、料理を作るために激しく燃えるようなやる気を見せているエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)のため、調味料やら料理器具やらをミリアのところから貸してもらっては、それをエクスの所へ届けていた。
「最近はシリアスな経験ばっかりだったからな、たまには美味しい物たくさん食べてリフレッシュするぞ!」
 唯斗の言葉に嬉しそうに頷く二人。何せエクスが凄い気合のいれようなのだ。美味しい物が食べられないはずがない。
 三人はミリアがいる他よりも少し大きめのテントにたどり着くと、その下でテキパキと動くミリアを見つけて慣れた調子で話しかけた。
「ミリアー、悪いんだけど今度は大きめのボウルを貸してくれないか?」
「いいですよ、申し訳ないですけど今私手が離せないので、ボウルは棚の下にありますから自分で取ってもらってもいいですか?」
「了解、料理の邪魔はしないよ。ありがたく借りていくな」
 そう言ってプラスチック製の棚から唯斗がボウルを探し始める。その間手持ち無沙汰になった睡蓮はふとしゃがみこんだミリアが何をやっているのか気になって厨房を覗き込んだ。
「それはオーブンレンジですか?」
「そうなんです、親切な方達が運んできてくれて、しかも電気まで通ってるんですよ!」
 睡蓮の質問に、嬉しそうに答えるミリア。そこへボウルを見つけた唯斗がやってきて、かねてから聞いてみたかったことを思い切って聞いてみることにした。
「気になってたんだけど、あの目がチカチカするような色をしたハッピを着てる、あいつらは一体何者なんだ?」
「確か……ミリタァ親衛隊とか言っていた気がしますけど、実は私もなんでも手伝ってくださるとても心の優しい方達。としかあの人達を知らないんです」
「それはミリア親衛隊じゃふっ!」
 謎の縁の下の力持ち集団の正体を暴こうとした睡蓮が、とっさに唯斗に口を封じられる。
「知らないほうがいいこともあるんだ……」
 実は心なしか、唯斗は近くから凄まじい自転車をこぐ音が微かに聞こえている気がしていた。
 唯斗はミリアに礼を言ってテントを後にすると、これから出てくる美味い料理を想像することで、さっきの考えを追いやりながら、エクスの元へ戻ることにした。





 ミリアが手際よく料理の下ごしらえをしていると、砂浜の向こうから、巨大な毛ガニをずるずると引きずってこちらに向かってくる久世 沙幸(くぜ・さゆき)の姿が見えた。
 彼女は引きずってきた毛ガニをミリアの前に差し出すと、ふっと一息吐いて毛ガニの上に疲れたように座り込む。
「お疲れ様です」
「ホントおつかれさまだよー」
「他の方々は?」
「それがね、実は岩礁にパラミタ毛ガニが大量に発生してて、みんな凄い喜んでたんだけど、倒しても運ぶ人がいなかったら食材はいくら倒してもミリアたちのところに届かないじゃない? だから私、『倒した毛ガニを運んであげるよ!』って宣言したら……」
「宣言したら……?」
「みんな一斉に毛ガニの群れに突っ込んでいって、きっと今頃乱獲状態……お仕事大変だよお……」
 べたっと砂浜に力なく寝転がる沙幸。その姿をミリアは優しそうな目で見ると、テントの中に入って行き、少しすると中からコップを一つ持って戻ってきた。
「それは何?」
「本当はみなさんがお戻りになったら配ろうと思ってたんですが、宿り木に果実特製スポーツドリンクです」
「飲んでいいの?」
「ええ、もちろんです」
 ミリアのその言葉を聞いた途端、沙幸はコップを受け取ると、一気にコップを口に持って行ってグビグビと飲みほす。
「ぷはー! ミリア、これ凄いね! 一気に元気でた、ありがとう!」
 さっきまでのダレようはどこへやら、沙幸は急に持ち前の元気を取り出すと、再び東側の岩礁に向かって駆けて行った。
「さて、じゃあ私も厨房に戻ってみなさんのために準備しなければです」
 ミリアはそう言うと、ミリアと何故か毛ガニを引きずったハッピの男が、厨房へとごく自然に入って行った。