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第1章 湖上の街ヴァイシャリー


 シャンバラ北部、コンロンから流れ込むサルヴィン側の水は東に折れてヴァイシャリー湖に注ぎ込まれ、やがて太平洋に落ちていく。
 ヴァイシャリー湖はシャンバラで最大の湖だ。中央には島が浮かび、そこには古代シャンバラ王国の離宮があったとされる都市ヴァイシャリーがある。
 六首長家にとっては、シャンバラ女王の血に最も近いといわれるヴァイシャリー家の領地である。
 そしてシャンバラで最も風光明媚な街としても知られる。湖面に留まらず、街全体を縦横に走る大小の運河は、遠目にも街を輝かせる。古王国時代から残る建築物は当時の技術の粋を凝らし贅を尽くし、現代の科学を以てしても再現できないものも多い。
 しかし、確かに政治には重要な要素なのだが……経済的には、現在色々と押され気味である。
 ヴァイシャリーにはこれといった産業がない。工業や農業もあまり発達しておらず、交易でまかなっているような状態だ。その交易もツァンダには及ばない。ツァンダには飛空挺が比較的多く残され、空京ができるまではシャンバラで一番栄えていた都市である。更にその空京は新シャンバラ王国の首都建設予定地として空前の繁栄の最中にある。しかも、空京は結界のおかげで、契約者でない地球人が流入。シャンバラと地球の文化が混ざり合って独特の文化を形成している。
 そこである日、そんな中でもヴァイシャリーの魅力を伝えようという(表向きの)理由で、観光マップ作りのボランティアが募集された。

 休日の午前八時。
 百合園女学院の校門前に、ボランティア募集に応じた生徒達が集まった。
 その多くはヴァイシャリーに住む百合園女学院の学生だが、他校生や男子生徒の姿もちらほら見える。理由は様々で、以前ヴァイシャリーに来たけれどゆっくり見ている暇が無かったが、もう一度観光を兼ねて訪れた……という者もいれば、人には言えない理由で訪れた者もいる。なんだか後者の生徒が多いような気もするけれど。

 百合園女学院生徒会本部白百合会会長の伊藤春佳は、全員が集まったのを名簿で確認して門の前に立った。
「皆様には貴重な休日にお集まりいただき、ありがとうございます。本日の予定は一つ、校門から各自出発しまして、夕方にこちらにお戻りいただくこと、だけです。それ以外はご自身の判断でご自由に過ごしていただければと思います」
 ただそれだけでは不親切なので、と彼女は各地域ごとに案内役を付ける旨を発表する。
 白百合会は学校で待機、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)は高級住宅街、桜井静香(さくらい・しずか)村上 琴理(むらかみ・ことり)が職人街、フェルナン・シャントルイユ(ふぇるなん・しゃんとるいゆ)が大運河を始めとした水路……。
「それから、他校生の皆様ももし分からないことがあれば、皆さんにお配りしたこちらのしおりをご覧下さい」
 春佳は左手を挙げて示す。彼女と生徒達の手には、白百合会お手製のしおりがある。中綴じに製本テープで留められた十数頁あまりの薄い小冊子だ。中は地図に加え、有名な観光地・店が紹介がされていて、簡単な観光パンフレットになっている。
 ……今から作成予定の観光ガイドも、飛空挺発着所やゴンドラ乗り場、観光スポットや百合園女学院の来校者用の受付などで配布されることになっている。これだけでも充分なのかもしれない。
 けれど、通り一遍のガイドではなく、地元民が選ぶ知る人ぞ知る名店や、学生ならではの感性でのピックアップや、それに多分契約者達が──シャンバラの未来を担う地球との和解の象徴が──やることに意味があるのだろう。
「だけど、もし迷子になっても、それも素敵な場所との出会いになるかもだよ?」
 春佳に替わり、今度は静香が校長として締めの挨拶をする。
「みんながどんな場所をオススメしてくれるのか、楽しみにしてるね!」