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リアクション
第十章 アイラル城地下書庫
英彦が自暴自棄になっていた頃、呪詛子たちより一足早くアイラル城に侵入している者たちがいた。
「ウェーイwww 置き忘れちまったマスター取りに来たぜwww っても深夜だから他に誰もいねえけどなwww」
小柄な猫のような姿をしたクロ・ト・シロ(くろと・しろ)は地下書庫の通路を歩きながら、一つ一つ部屋を確認して自分のマスターであるラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)の姿を探していた。
「……ねえ、クロ。キミってどうしていつもそんなにうるさいの? ボクみたいに常に他人のことを思いやる慈悲深い人間からすると、例えキミのような生きる価値のないゴミにも、その存在自体に疑問を感じてしまうね」
沈鬱げな顔をした翳りのある美少女ラヴィニア・ウェイトリー(らびにあ・うぇいとりー)が、憐れむような視線をクロに投げる。
「うーるせwww てめえは年がら年中、そんなことばっかりいいやがってwww うぜえんだよwww」
「……はあ、元より意思疎通など望めぬゴミと思ったいたけれど、まさか粗大ゴミだとは思わなかったよ。捨てるにもお金がかかるとは驚いた」
ウェイトリーはクロと話すのを諦めたのか、黙って通路を歩き始めた。
「おうおうwww 今度は無視かよwww 元はといえば、てめえが呪詛子たちより先に地図を手に入れて高く売りつけようって言ったから、こんなことになっちまったんじゃねえかwww」
「…………黙れゴミ」
「逆wwギwwレww 糞ワロタwwwwww」
クロはウェイトリーを囃し立てるが、彼女はそれを無視して黙々と通路を歩き続けた。
「おwww そろそろマスターを置いてきちまった場所じゃねえか?www」
クロがそう言うと、ウェイトリーも足を止めた。
「……あいつの気配がする」
ウェイトリーは華奢な腕には不釣り合いな巨獣狩りライフルを構える。
「ちょwww その武器は反則だろwww」
クロも口調こそ変わらないが、しっかりと手には硬焼き秋刀魚を握りしめられていた。
二人は口こそ悪いものの、マスターへの忠誠は固い。だが、そんな彼らがマスターを置き去りにしなければいけないほど、ここにいるあいつは凶悪だった。
息を殺して周囲を観察していたウェイトリーは、わずかな獣のうなり声に気付いてとっさにクロを床に押し倒した。
「ちょwww」
次の瞬間、凄まじい速さでクロがいた場所に黄金色の獣が突進していた。
「……出たな、キングチーター。ラムズを返して貰いましょうか」
ウェイトリーはキングチーターの着地点目掛けてライフルを発射した。
が、キングチーターの足が一瞬床についたかと思うと、次の瞬間にはしなやかに筋肉を使って床を蹴り、通路の10メートルほど先までジャンプしていた。
「はwwやwwすwwぎww チーター自重しろwww」
「……クッ、次こそ当てます」
ウェイトリーは悔しそうに唇を噛みしめ、キングチーターが次の行動に移る前に狙いを定めようとする。
だが、あまりにそのスピードが速すぎてとても目で追うことすら出来ない。
「ちょwww やべえよwww」
クロも必死になって硬焼き秋刀魚を振るが、銃弾で捉え切れない敵を剣が捉えられるはずもなく、むなしく空を切り続ける。
キングチーターは二人の攻撃を掻い潜りながら、虎視眈々と攻撃のタイミングを窺うでもなく、ひたすら避け続けていた。
「……どうやらボクたち遊ばれてますね」
ウェイトリーの青白い肌にじっとりと汗が浮かび始めた。
「正直やばいなw」
クロの顔からも笑みが徐々に消えていく。
そして、二人の集中力が少しだけ途切れた一瞬、今まで積極的に攻撃してこなかったキングチーターが突如ウェイトリーに牙をむいた。
ウェイトリーは反射的に、手に持っていたライフルを盾にするが、キングチーターはライフルを咥えると、そのナイフのような鋭い牙で噛み砕いてしまった。
「人生オワタ\(^o^)/」
クロはとうとう笑うのをやめて、床にへたり込んで呆けてしまった。
ウェイトリーは粉々になってしまったライフルを呆然と眺めている。
「おーい、諸君。それくらいで諦めなさんな」
カツンカツンと足音を響かせながら、二人の元に見慣れた男が現れる。
「マスターwww 来るの遅せえんだよwww」
「……性懲りもなく生き残っていましたか、ラムズ」
二人の様子を見て、ラムズは快活に笑いだした。
「はは、君たちやっぱり誤解しているようだね。ほらおいでチィくん」
ラムズがこいこいと手招きすると、キングチーターはくぅうんとノドを鳴らしながら彼に擦り寄ってくる。
「あはは、よしよしいい子だ」
「マ、マスター危ないぜ」
クロは無邪気にキングチーターと戯れるラムズにドン引きしていた。
「うん? まだ分からないのか。チィくんは人を襲ったりしないのよ。彼にとってはさっきのはちょっと遊んでただけなのさ」
ラムズはそう言って、クロの手から硬焼き秋刀魚をひょいと奪うと、キングチーターに食べさせた。
「ちょwww オレの武器がwww」
「……じゃあ何故、地下書庫から出てこなかったのですか?」
ウェイトリーにそう聞かれると、ラムズはこともなげに言った。
「うん? 金儲けに決まってるだろ」
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