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リアクション
第八章 誘拐
英彦が宿に戻ってみても、呪詛子の姿はなかった。必死になってアイアイ中を探し回ったものの、手掛かりは掴めない。
完全に日が落ちて、街に人が消えて聞き込みも出来なくなった真夜中になるまで英彦は呪詛子の捜索を続けた。
だが結局、彼が再び宿に戻ってきたのは夜中になっていた。どんよりとした気持ちで部屋のドアを開けようとすると、ドアの隙間にカードが挟まっていた。
「今晩12時、100万ゴールドを用意して時計台の前までこい。さもなければお前の大切な人間の命はない」
英彦はその文面を見てから急いで部屋の時計で時間を確認した。現在の時刻は午後11時45分。彼は猛然と部屋を飛び出した。
(ま、間に合ってくれ!)
英彦は心の中でそう叫ばずにはいられなかった。
「お嬢ちゃん、大人しくしてないと綺麗な顔に傷が出来ちゃうよ」
黒き閃光(葉月ショウ(はづき・しょう))は、呪詛子を峰打ちで気絶させた刀を上段に構えながら、油断なく周囲に注意を巡らせる。
「ま、わらわがしっかりロープで縛ってるから動けないと思うけどねぇ」
相棒の紅き稲妻(リタ・アルジェント(りた・あるじぇんと))は、呪詛子の近くに立って彼女の首筋に鋭く光るダガーを当てる。
現在呪詛子は口に布をあてられながらも、何か喋ろうとモゴモゴという音を出す。
「ふふっ、あんまり抵抗すると虐めたくなっちゃうなぁ」
紅き稲妻はそう言うと、ダガーを下に滑らして呪詛子の服を少しずつ引き裂いていく。
「あらら、こんな可愛らしい下着付けてたのね。もうこれは彼氏には見せたのかしらぁ?」
「いや、調べによるとあの男とはまだそういう関係じゃないようだ」
黒き閃光は赤き稲妻と呪詛子の方をチラリと見やりながら答えた。
「ふーん、じゃあこれはまだ彼氏にも見せたことないんだぁ。ってことはこの下はもちろんねぇ……」
紅き稲妻の目が妖しく光る。
呪詛子は身の危険を感じたのか、一層激しく抵抗するがロープが手首に食い込むばかりで効果がない。
「おや、いい所で救世主登場だね。もしかして今まで物陰でタイミング測ってたんじゃないの?」
黒き閃光は軽口を叩きながらも油断なく刀を握りなおす。
その視線の先には、暗闇でも光り輝くブライトシャムシールを構えた英彦の姿があった。
「金は用意していない。だが、呪詛子さまは解放してもらう」
英彦はきっぱり宣言すると、闇を泳ぐようにして黒き閃光にスーっと近付いていく。
「ま、あの身代金って時間稼ぎのために吹っかけただけだから、初めから期待してないんだけどさ」
黒き閃光も、タンっと地面を蹴って英彦の懐に飛び込んでいく。
「あんたの持っている光条兵器ブライトシャムシールの弱点は、防御に適さないこと。攻撃を攻撃で跳ね返すことで今までは凌いでいたようだが、ではこれはどうかな」
黒き閃光の斬撃を、英彦は同じく斬撃で受け止める。だが、闇の中からふいに別の攻撃が伸びてきた。
「子供のお守りは飽きちゃったなぁ」
いつのまにか呪詛子から離れていた紅き稲妻のダガーが英彦の首筋に迫る。
それを咄嗟に躱しながら、英彦はブライトシャムシールを黒き閃光に向かって振り上げる。
「弱点その2、闇夜ではその剣は剣筋がバレバレなんだよ」
黒き閃光はひょいと英彦の攻撃を避けて懐に潜り込む。
「ムウウ!!!」
その様子を見ていた呪詛子が言葉にならない悲鳴をあげる。
だが、黒き閃光の斬撃が英彦を捉える前に、何故か黒き閃光と赤い稲妻が地面に倒れていた。
「てめえ! 剣をフェイントに使いやがったな」
黒き閃光が苦し紛れに英彦に吐き捨てる。
数秒前、英彦は闇夜に光るブライトシャムシールに二人の意識を集中させ、彼は宿から持ってきていた呪詛子の杖を取り出していたのだ。そして、もう一方の手で杖を振り、二人の足払いに使った。
「見えるものに気を取られすぎたな。本当に大事なものは見えないのだよ」
「ふん、中々やるようだな。今日のところはこれくらいで引き揚げてやろう。いくぞ赤い稲妻!」
二人は次の瞬間には、闇夜に溶けたかのように姿を消した。
「お怪我はありませんか……? 呪詛子さま」
英彦は一目散に呪詛子の元に駆け寄り、彼女を解放する。
「……なぁにが、『本当に大事なものは見えないのだよ』! かっこつけちゃって、見てるこっちが恥ずかしかったわよ馬鹿」
呪詛子は英彦にお礼ひとつ言わず、そっぽを向いてしまう。
「ふふっ、お元気そうでなによりです。まあ、私の呪詛子さまへの愛も見えないのですから、中々気付いてもらえないのかもしれませんね」
「な、なに馬鹿なこと言ってんのよ!」
呪詛子は英彦のストレートな告白に、この暗がりからでも分かるほど赤面してしまった。
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