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リアクション
第五章 鼻血
「ぐはっ……わらわに手を出すとは愚か者が」
苦悶の表情を浮かべた房内。貴仁と夜月は彼女の元に駆け寄ろうとするが、同じように吹き飛ばされてしまう。
「…………汝、この世の理を知るものか?」
「ふん、せいぜいわらわが知っているのは色の理くらいじゃのう」
房内は苦しそうにお腹を押さえながらも、にやりと笑って答える。
「…………では死を」
魔王の手が房内の顔に被さりそうになった瞬間、彼女は大声をあげた。
「呪詛子!!! 起きるのじゃ!!!」
房内は体のヌメリを使って魔王からつるりと逃れながら、さきほどから地面に伸びている呪詛子に声をかける。
「……ふああ? 何の用よ」
寝ぼけ眼をこすりながら、起き上がった呪詛子が魔王と房内の方を見る。
「細かいことはいい、とにかく魔王を誘惑するのじゃ!」
「……ゆうわく?」
何の事だかさっぱりといった様子で、呪詛子はとりあえず周りの状況を確認する。すると、近くに英彦が気絶しているのを発見した。
「英彦! あんたいつまで寝てるのよ」
ボスっといつものように肩を叩くが、英彦は一向に反応を示さない。
「冗談は辞めなさいよ!」
バシンバシンと呪詛子は英彦の顔を引っぱたくが、彼は起き上がる様子を見せない。
「まさか……呼吸が止まってる?」
呪詛子は急に顔からサーっと血が引いて青ざめた。
いつも殴っても殴っても、注意することすらせず困ったような笑顔を浮かべていた英彦から、今は何も反応が返ってこない。
必死で、呪詛子は以前英彦から教えてもらった心肺蘇生法を思い出す。
「指を組んで重ね、手の付け根の部分で胸の真ん中で強く押し込む。これを素早く30回程度繰り返す」
英彦の服を脱がした後、震える手で彼の胸に手を置いて胸骨圧迫を行う。気付くと、ポタリポタリと呪詛子の瞳から滴が砂に落ちては蒸発していった。
「その後、気道を確保して相手の鼻を押さえて人工呼吸を行う……」
呪詛子はゴクリと息をのんでから、覚悟を決めた。そしてゆっくりと英彦に口を重ねて空気を送り込む。
(この馬鹿、起きなさいよ!)
呪詛子は心の中でそう叫びながら、人工呼吸を続ける。すると、英彦の口から少しだけ息が吐き出されてきた。
「英彦! 英彦!」
夢中になって呪詛子は呼びかけた。
少しずつ英彦の顔に表情が戻っていく。
「……どう、したんですか、呪詛子さま?」
英彦は困ったような笑顔を浮かべて、自分の主人を眺めた。
「し、知らないわよ! ……と、とりあえず、あんたもう私に勝手で死にそうになったりしないこと!!!」
呪詛子はそう言うと、つんと顔を逸らしてしまった。
「……あれ? あたしたち何やってたんだっけ」
呪詛子の声に反応したのか、シャーレットがパートナーのミアキスとともにやっと起きだす。
「たしか魔王に襲われていたはずじゃ? あれ、だけど姿はないわね」
ミアキスが辺りを見回しても呪詛子たち以外誰もいない。だが、注意を凝らしてみると砂の地面に一か所だけ変色している部分があることに気付いた。
「これ、まるで大量の血が落ちた後みたいね……うん? その隣には砂に文字が書いてあるわ」
「うーんどれどれ、『魔王はそなたの熱烈な接吻を目撃して……』」
シャーレットとミアキスが砂文字を読んでいると、砂嵐が辺りを襲い、無情にも文字は一瞬にして消えていった。
「ああ、もう最後まで読みたかったのに!」
二人が地団太を踏んでいると、後ろの方から「オアシスが見つかりましたよ!」 という英彦の声が聞こえてきた。
二人はすっかりと砂文字のことを忘れて声の方向へと振り返った。
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