リアクション
※ ※ ※ 蒼空学園でも、同様な失踪事件が起きていた。 ショートカットに緑の瞳を持つ美少女、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は、今日もまぶしいミニスカート姿で、友達と下校中だった。 その姿を、物陰からじっとうかがう存在があることに、彼女は気がつかない。 「じゃあね、バイバイ」 そういうと、アリア・セレスティは友達と別れ、一人になった。 そのとき、不意に吹雪が舞い、アリア・セレスティの姿はその場からいなくなってしまった。 ティファナ・シュヴァルツ(てぃふぁな・しゅう゛ぁるつ)も、同様に突然失踪してしまった生徒だ。 彼女の容姿も、色白ではかなげと、やはり周囲から見て「美少女」と呼べる資質を備えていた。 このほかにもまだある。 鳳凰院 輝夜(ほうおういん・かぐや)も、最近、忽然と姿を消してしまった。 といっても、輝夜は、相次ぐ女子生徒の失踪事件の噂を耳にしていたのだ。 「うーん、物騒な事件が起きてるなあ。輝夜も気をつけないとね」 パートナーの神童子 悠(しんどうじ・ゆう)は、つねづねこういって、美しい輝夜を気づかっていた。 「まあ、一人にならなければ大丈夫みたいだし、暫くは待ち合わせして一緒に帰るようにしておこう」 一緒に下校していた数日は、何もおきなかった。 しかし、今日に限って、悠は補習が長引いてしまった。 「まだ終わらないのか・・・・・・輝夜、待ってるだろうなぁ」 夕方近くになってようやく補習を終え、悠は待ち合わせ場所に走っていく。 だが、そこには輝夜の姿はなかった。 「あれ? おかしいなぁ。輝夜、ひとりで帰っちゃったのかな? そうだ、電話してみよう」 悠はおもむろに携帯を取り出し、輝夜に電話をかける。 『・・・・・・ただいま電話に出ることができません。発信音の後に・・・・・・』 「ダメだ。何度かけてもいない。これはもしや・・・・・・?」 悠の脳裏に、底知れぬ不安感が駆け巡っていた。 ※ ※ ※ 「最近、突然人がいなくなる事件が相次いでいるらしいな。これ以上被害を出さないためにも、放置しておくわけにはいくまい」 失踪の噂を聞きつけた夏候惇・元譲(かこうとん・げんじょう)は、こうつぶやくと、胸にひとつの決意を秘めたのだ。 「私も英霊だ。己の鍛錬のためにも、解決に手を貸すのは必定であろう・・・・・・『そうすれば、リッシュも少しは違う目で私を見るかも知れないし・・・・・・』」 夏候惇・元譲は、そう意気込むと、パートナーには内緒で、ひとり調査を開始した。 しかし、ミイラ取りがミイラになるとはよくいったもの。 成果を得られるどころか、彼女も行方不明者の一員となってしまったのだ。 ※ ※ ※ 「セツヤ、また行方不明事件の被害者が出たわよ。今度は、イルミンスール魔法学校の夏候惇・元譲だって! これで何人目なの?」 こう声高にパートナーへ訴えかけているのは、ベルセリア・シェローティア(べるせりあ・しぇろーてぃあ)だ。 「しかもね、いなくなったのが、みんな美少女ばかりなのよ。これっておかしいと思わない? 絶対になにか邪悪な意志が働いているに違いないわ。きっと誘拐犯よ・・・・・・これ以上の被害を出してはダメ。悲しみを増やしてはいけないわ」 パートナーの月森 刹夜(つきもり・せつや)は、持論をまくしたてるベルの横顔をぼんやり眺めながら、思いをめぐらしていた。 『美少女? といわれても、なんだかよくわからないですね。単に容姿がきれいだったり、愛らしかったりする少女のことを「美少女」と呼ぶのでしょうか? そういうのどうかと思いますが・・・・・・』 月森 刹夜は、周りが短絡的に口にするその言葉に、抵抗感を覚えていた。 単純に認めてしまったら、何か大事なものを失くしてしまう気がする。 幻想とか純情とか、うまくいえないけど、そのようなもの・・・・・・。 刹夜の正面では、パートナーのベルが不気味なくらいニコニコしている。 『確かに、ベルは可愛らしいと思います。みんな、彼女の容姿を褒めますしね。世間一般では、彼女は美少女と呼ばれるのかもしれません・・・・・・が、認められません。こんな性格の「美少女」など、とても認められませんよ』 「セツヤ! なにひとりでブツブツ言ってるの? ほら、これを着て。セツヤが囮役になって犯人をおびき寄せるのよ」 「え? これって、女装じゃないですか? 俺、こんなフリフリのドレス着られないですよ」 「それじゃあセツヤは、ベルに囮役をやれっていうの?」 上目遣いに射抜くような視線を浴びせかけるベルセリア・シェローティアに、月森 刹夜は逆らえない。 結局、なし崩し的に、コスチュームを着せられた。 「ああ、月森様。かわいい〜。よくお似合いですよ」 イルミンスール魔法学校から来ていたアリア・ブランシュ(ありあ・ぶらんしゅ)に誉められた月森 刹夜は「そうですか?」と恥ずかしそうにうつむく。 「よかったぁ。私もこの事件のことは気になっていたの。蒼空学園には友達に会うために来たのですが、そうしたら最近変な事件が起きてるって聞いて・・・・・・」 「そうだったんですか」 「で、友達が用事を終えるまで少しかかりそうだったから、この事件に関わりのあるものがなにか見つからないかなと思って辺りを探索してたんですけど・・・・・・月森様みたいな方法も面白くていいですわね。お互いがんばりましょ!」 「それじゃあアリアさん、俺と一緒に犯人を探しませんか?」 「そうね。うーん、悪いけど今回はひとりでやってみるわ。私、いつもパートナーのアドバイスで動いてるから、パートナー無しでどこまで出来るか頑張ってみたいの。蒼空学園の友達に被害が出る前に、事件を解決したいしね」 「そうですか、それでは別々にがんばりましょう」 といって、アリア・ブランシュと月森 刹夜は、学校を出て行った。 「さて、どこから調べましょうかね? うーん??? よく考えたら一人でウロウロしてるべきじゃなかった・・・・・・かも。 あっ!」 突然、吹雪が巻き起こったかと思うと、一瞬のうちにアリア・ブランシュの姿は消えていた。 同じく、月森 刹夜も、放課後にひとりでウロウロしていたところ、失踪事件に巻き込まれた。 吹雪を巻き起こす「何か」は、女装の刹夜を「本当の美少女」だと思い込んだのだろうか? ※ ※ ※ 闇咲 阿童(やみさき・あどう)、後光 皐月(ごこう・さつき)、アーク・トライガン(あーく・とらいがん)の3人も、顔を合わせればこの話でもちきりだ。 「可愛い子ばかりが行方不明!?・・・・・・誰だ! そんな羨ましっ、じゃなくて酷い事をするのは! 俺様も混ざりてー! なあ阿童ちゃん」 「トライガン、おまえ何を言っているんだ。皐月も狙われるかもしれないんだぞ・・・・・・皐月がいなくなったらもう美味い飯が食べられなくなる、もう話しが出来なくなる。何があってもそれだけは許さない!」 その横で、当の後光 皐月は、行方不明者たちを心配している。 「いなくなった人たちは大丈夫かな? 怪我とかしてないかな? どうしよう・・・・・・心配だな・・・・・・だって独りはすごく恐いもん。それにすごく寂しいもん」 「皐月、俺はおまえを絶対に渡さないぜ。だって、そんなことになったら、もう腹一杯食べられなくなる、もう抱きついてもらえなくなる。ぐわあああ!!」 「まあまあ、落ち着いて・・・・・・『阿童ちゃん、かなり殺気立ってるなあ。いつもは冷静なのに・・・・・・皐月ちゃんのことになると途端に暴走するんだから。落ち着かせるのも一苦労だぜ。これで皐月ちゃんがいなくなったらどうなるんだろう?』」 しかし、運命は闇咲 阿童の心配をあざ笑うかのように、後光 皐月をもいずこへか連れ去ってしまったのだ。 阿童が狂乱したのは言うまでもなかった。 ※ ※ ※ 大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は、パートナーのコーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)を伴って、ツァンダを訪れていた。 「ああ、やっとこれで教導団の任務も無事に終わった。 さあコーディリア、帰ろう」 「剛太郎様、せっかくツァンダに来たんですから、蒼空学園に行ってみませんか? 私、一度でいいから蒼空学園を見てみたかったの」 「そうか、うーん、じゃあしょうがないな。ちょっとだけだぞ」 「やったー!」 ※ ※ ※ 「わあ、ここが蒼空学園のある街ね。すごーい」 コーディリアは、はしゃいでいた。 彼女にとっては、見るものすべてが珍しく、おもしろい。 でも、一番うれしかったのは、剛太郎とゆっくりデートが楽しめたことなのかもしれない。 「ねえ剛太郎様、これは?」 そう呼びかけるコーディリアに、返事はなかった。楽しさのあまり、つい剛太郎の側を離れてしまったようだ。 「あれ? 剛太郎様、どこに行っちゃったのかしら?」 コーディリアは剛太郎を見失ってしまった。 一方、残された大洞 剛太郎は、どこを探してもはぐれたコーディリアが見つからない。 「まさか誘拐では!?」 妙な胸騒ぎを覚えた剛太郎は、とりあえず近くにある蒼空学園へと足を運んで、情報を集めることにした。 彼が声をかけたのは、神野 永太(じんの・えいた)と、武装した彼のパートナー燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)だった。 彼らは剛太郎の事情を聞くと、彼の不安を落ち着かせるようにこう語り始めた。 「そうですか。最近、蒼空学園では美少女ばかりが誘拐される事件が起きているんですよ・・・・・・大洞さん、大切なパートナーがいなくなって心配するお気持ち、よくわかります。永太も昔、両親と妹を事故で亡くしましたから・・・・・・いや、おふたりのパートナーは生きておられると信じてますよ」 と、話をしている永太を遮るように、ザイエンデが口を開く。 「わたくしが囮になって、犯人を捕まえてみせます。みなさんに仇なす一切衆生の存在が、目障りでなりませんからね」 これを見た剛太郎は、いぶかしがって顔をしかめた。 「って、あなたのいでたちは武装姿でしょう。さらわれているのは美少女ばかりなのでは?」 しかし、言われたザインは自信たっぷりだ。 「わたくし、犯人を捕まえたいから、この格好をしているのです」 そういってザインは、出て行った。 しかし、いくらザイエンデが人気のない場所を歩き回っても、何の変化も訪れない。 「うーん、ダメですね。わたくしは美少女とみなされないのかしら?」 こうつぶやきながら歩く武装姿は、一種異様な光景であった。 パートナーの神野 永太ですら「その姿じゃ絶対さらわれないだろう」と呆れていたことを、ザインは知る由もない。 「フフフ、あんな格好じゃムリよね」 神野 永太たちの後ろから声をかけたのは、大人びた雰囲気をただよわす背の高い女性だった。 キャリア風のスーツを着込んだ彼女の名前はガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)。 なにか面白い事がないかと蒼空学園にやってきたガートルードは、美少女ばかりが行方不明になるという事件を知って、興味を示したのだ。 「今回の事件は美少女が狙われているのよ。ということは、ターゲットは当然、私のような『少女』に決まっているじゃない」 ガートルードが「少女」という部分をやたらと強調するのには理由があった。 彼女は、高い身長と、持ち前の妖艶さで、いつも24歳位の大人に見られていた。 でも、実際はまだ13歳なのだ。 だから、老けて見えるのを気にしているため、少女という言葉には敏感に反応するのだ。 『私は少女として見られるのかな? よし、まだ外見は少女で通用するかどうか確かめてみよう。危険がせまったらスキルを使って避ければいいしね』 そうやって、意気揚々と校舎のまわりを歩き始めた。 と、なにかがガートルードを窺っている気配を感じた。 そのなにかは、「判定」に戸惑っているかのように、ためらいをみせたが、次の瞬間、吹雪がガートルードを覆った。 ガートルードは「やったわ! 私も少女よ」と思った直後、意識を失っていた。 |
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