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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの行方

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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの行方

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「えーっと……卵とトマトで大丈夫でしょうか?」
「ああ、卵は鉄板汚れるからなぁ、ウチが何か別のもんにしてあげるわー」
 別の鉄板では、双葉 みもり(ふたば・みもり)八重咲 桃花(やえざき・とうか)がバーベキューの準備をしていた……実際はみもりはバーベキュー初体験のため、ほとんど桃花が働いているが。
「二人とも、何か手伝えることは無いか?」
 皇城 刃大郎(おうじょう・じんたろう)が暇を持て余し、声をかけるが、
「今の所はあらへんからおとなしく待っていてくださいな」
ときっぱりと断られてしまう。
「いや……しかし……こう、なんというか、待っているだけでは落ちつかぬ」
「あはは、ややわぁ刃太郎はん。落ち着きのない子供みたいやわ」
 桃花に笑われ、「ぬぅ」と刃太郎は言葉を詰まらす。
「……みもり」
 かったるそうな声で鴉真 黒子(からすま・くろす)がみもりを呼ぶ。
「あ、はい、なんですか?」
「かったりぃからバーベキュー始まったら起こしてくれ……それまで寝てるわ」
「あ、ホクロはんの分は無いから安心して寝ててええよ」
「はあ?」と桃花に黒子が詰め寄る。
「なんで俺の分が無いんだよ。あとホクロじゃねぇ」
「いややわぁ、『働かざる者食うべからず』って言葉、知らないん?」
「まあ、少しは君も働いた方がいいな」
「……ちっ、わかったよ……」
 桃花、刃太郎に言われ、渋々というか嫌々、という感じで黒子が動く。
「あ? 飲み物紅茶しかねーの? 飯っていったら麦茶、ほうじ茶の類だろ……」
 そう言いながらテキパキと飲み物を作っていく黒子。
「……この人、やれば出来るかもしれないっていうのがタチ悪いわぁ」
 その姿を見て、桃花が呟いた。

「もうすぐできますのでもうちょっと待っていてくださいね」
「ええ、任せてしまって申し訳ありません」
 風間 宗助(かざま・そうすけ)が言うと、「気にしないで下さい」とみもりがほほ笑む。
「まだかなー、まちどおしいなー」
「……ちょっとは辛抱しなさい、アキラ」
 そわそわと我慢しきれない様子を隠そうともしない小鳥遊 アキラ(たかなし・あきら)を宗助が窘める。
「あの……私も何かお手伝いを……」
「いいんですよドロシーさん、私達がお誘いしたんですから」
 申し訳なさそうに言うドロシーに、みもりが笑いかける。
 ドロシーは宗助とみもりに誘われ、バーベキューに来ていた。
「私達も混ぜてもらってるのに何もしないでごめんなさいね」
「大丈夫ですよ、気にしないでください」
 イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)が頭を下げるのを、みもりが止める。
「ありがとう……ほら、ジヴァもお礼言って」
 イーリャがジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)に促すが、ジヴァはただドロシーをじっと見つめていた。
「……何か?」
「……あんたも作られた存在ね」
 唐突に、ジヴァがドロシーに言う。
「え? は、はい……そうですが……」
「なら聞くけど、あんたが作られた目的は何?」
「……私が、作られた目的?」
「ちょ、ちょっと! ジヴァ!」
 イーリャが止めようとするが、ジヴァは知ったことかと質問を続ける。
「劣等種が作るからには何かしら目的はあるものよ。私にはあるわ。正直、実力もないくせに命令する劣等種は気に食わないけど、作られた目的……私に与えられた使命は誇りに思うわ……あんたはどんな使命があるの?」
 ジヴァの言葉に、ドロシーは少し顔を俯かせ、やがて口を開いた。
「……考えた事がありませんでした」
「……考えた事がない?」
「ええ、その様な事を、考えた事がありません。なので……わかりません」
「……そう」
 そう言うと、ジヴァは興味を無くした様に、皆から離れる。
「じ、ジヴァったら……ごめんなさいドロシーさん、気を悪くしないでね」
「いえ、大丈夫です……そうなんですよね、一度も考えた事がありませんでした」
 ぽつりと、さびしげにドロシーが呟く。
「ドロシーさん……そういうのは簡単にはわかりませんから」
 宗助がフォローしようと声をかけるが、ドロシーは首を横に振る。
「いえ、思ってみれば自分のことを考えた事がないんですよね……皆様の言うとおり、パートナーもいませんし……目的もわかりません」
「別にいいんじゃないかなぁ、それで」
 アキラの言葉に、ドロシーが顔を上げる。
「え? あ、アキラ……またそんな簡単に……」
 宗助が止めようとするが、アキラはんー、と眉根を寄せながら言う。
「あんまり難しいこと私わかんないけどさ、今ドロシーって妖精の子達の世話とかしてるわけじゃない。そういうのでいいんじゃない? 昔は昔だし、今は今ってことで」
「そ、そうですよ。ドロシーさん、子供達のためにお話を作ったりとか、それで十分だと思いますよ!」
 アキラに続いて、みもりも言う。
 ドロシーは少し呆気にとられた表情をしていたが、ふっと、笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。少し、気が楽になりました」
「うん、よかったよかった」
 アキラがうんうんと頷いた時、「そろそろできますえー」と桃花の呼ぶ声がした。
「あ、出来たみたいですね。それじゃ持ってきます」
「運ぶのは私も手伝います」
「……ええ、お願いします」
 少しためらったが、ドロシーの申し出にみもりは頷いた。

「んー美味しいねー……って、どしたの? 人の顔じろじろ見て」
「いえ、今回はアキラのその能天気な具合に救われたかなーと」
「……なんかバカにしてない? っていうかバカにしてるでしょ?」
「今回限りは褒めているんですよ」
「ムキーッ! そんなのに騙されないわよ!」
「スパニッシュオムレツ焼けたぞー。食う奴は適当に来いやー」
「食べるー!」
 一瞬にして怒りは何処へやら。アキラは黒子が焼いたスパニッシュオムレツを貰いに飛んで行ってしまった。
「……やはりただのバカかもしれない」
 その光景を見ていた宗助がぽつりと呟いた。