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世界終焉カレンダーを書き換えろ!

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世界終焉カレンダーを書き換えろ!

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『終焉の予言』


“世界の終わり”まで、あと23時間



「こんなところで終わってたまるかよ。明後日には、ルミーナさんとのデートがあるんだ!」
 地上一階の遺跡内で、風祭 隼人(かざまつり・はやと)が息を巻いていた。探索用のスキルに恵まれた彼は、トレジャーセンスが有効である『世界救済ハンコ』を探している。
「とにかく急いで世界を救おうぜ。デートのために色々と準備しなきゃいけないんだ」
 つかつかと進んでいく彼の後ろを、ふたりの美男子が追いかける。
「それにしても。カレンダーにハンコとはねぇ。……子供のおもちゃじゃないんだから」
 トラップを解除しながら肩をすくめたのは、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)だ。呼応するように、サイコメトリで遺跡を調べていたメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)がつぶやく。
「作りこまれた内壁。人工の松明……。おまけに、サイコメトリが無効化されている。どうも作為的な感じがしますねぇ」
 彼らはいぶかしげに遺跡内を見回した。紳士なふたりは、世界の終わりに懐疑的な様子である。

「ひゃっほう! ルカ、ハンコ見つけちゃったよー!」
 底抜けに明るい声。ルカルカが、ひとつめのハンコを発見したのだ。
 スタンプラリーと勘違いしていた彼女だが、事情を理解した今でも、モチベーションは変わらない。ダリルに手伝ってもらいながら、壁に埋まったハンコのパーツを上機嫌で取り出している。
「俺も、ルーに負けちゃいられねぇぜ」
 思いがけないルカルカの活躍が、隼人のやる気に火をつけたようだ。トレジャーセンスを使い、最も反応している場所を探し当てる。
「奥の方から、ハンコの気配をビシビシ感じるぜ!」
 そういって走りだそうとした隼人だが、彼の行く手を阻むものが現れた。
 細長い八本の脚で立ちふさがる、まだら模様のモンスター。
 巨大蜘蛛である。
「どっけどけー! ルミーナさんとのデートを、邪魔する輩はぶっ飛ばす!」
 まるで路傍の石でも蹴るように、巨大蜘蛛を蹴り飛ばした隼人。序盤で出てくる雑魚モンスターなど勢いに乗った彼の敵ではないようだ。
 なかば八つ当たり気味に巨大蜘蛛を粉砕した隼人は、そのまま奥へ向かって走りつづける。
「ねーねー。お兄さんたちは追いかけなくていいの」
 ルカルカが、紳士なふたりに話しかけた。
「おいしいところ、持ってかれちゃうよ」
「これが俺たちのやり方だからね」
 洗練された仕草で、探索をつづけるエースとメシエ。
 いまひとつ納得しないルカルカへ、エースは端正な顔を崩さない程度に微笑みかける。
「戦いを避けられるなら、それに越したことはないだろう。こんなふうにさ」
 彼がしなやかな指で示した先では、メシエが『奈落の鉄鎖』を発動させていた。
 天井からぶら下がるジャイアント・バットは、とつじょ襲った重力の変化に耐え切れず、為す術もなく落下する。
 不時着した場所には罠が仕掛けられており、無数の矢がジャイアント・バットを襲う。もがく羽音。そして、甲高い断末魔。
「おー。すごぉい」
 ルカルカがぴくりとも動かないコウモリへ近づいていく。巨大な黒い羽には、ハンコがひとつ抱かれていた。


 ふたつめのパーツを手に入れたところで、奥の方から隼人の叫び声が聞こえてきた。
「な、なんだこりゃ……。ちょっとみんな来てくれよ!」
 尋常ではないその様子に、すぐさまメンバーたちは隼人のもとへ向かう。
 たどり着いた彼らが目にした光景は、ハンコを手にして立ち尽くす隼人の姿。そして、彼の背後に広がる、壁に書かれた異様な文字だった。
「この文字……。あるプログラミング言語に当てはめれば、解けそうだ」
 ダリルが、壁一面にびっしりと書かれた文字を解読していく。
「……すべての意味を理解したわけではないが。ここに記されているのは、どうやら予言のようだ」
「予言?」
 小さく頷いてから、ダリルはつづける。
「この壁には、世界の終わりに関する記述がある。――本日をもって、このパラミタ大陸は……消滅すると」
 あくまでも冷静に言い放つダリル。あらためて世界終焉を突きつけられ、メンバーの間に緊張が走った。
 一瞬の沈黙を破ったのは、エースである。
「そういえば。かつて地球にも似たような噂があったね。民族による予言。途切れているカレンダー。たしか、『マヤ暦の終わり』とか言われていたそうだが」
「それって、どうなったの? 本当だったの?」
 ルカルカが身を乗り出して聞いた。エースは苦笑を浮かべながらも、上品に応える。
「本当なら、今ごろ地球は存在しないだろう」
「あ。それもそっか」
 えへへと頭をかくルカルカ。
 彼女の天然のおかげで、いくぶん場の雰囲気が和んだ。
(しかし……)
 メンバーの中では最も、世界の終わりに懐疑的だったメシエは思う。
(かつて、遺跡として造られた遺跡など無い。だがこの場所に感じる作為はなんだ。予め、何らかのモニュメントとして建てられたような……)
「いま、兄の優斗から連絡がきたんだけどさ」
 メシエの思考を中断させたのは、隼人であった。彼はテレパシーを受信しながら無邪気に言い放つ。
「どうやらこの地下。墓地みたいな造りになっているらしいぞ」
「えー。なにそれ、不気味ー」
「いいから。俺たちも行ってみようぜ!」
 カレンダーの眠る地下へ向けて、走りだしたメンバー。
 彼らの背中を追いながら、メシエには不吉な考えが浮かんでいた。

――この遺跡は、私たちの墓場として用意されているのではないか。

「まさか、そんなこと」
 メシエは走りながら、優雅に肩をすくめてみせる。口元には笑みさえ刻まれていた。
 だが、彼の胸中を陰らせた不安は、消えないままであった。