百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

世界終焉カレンダーを書き換えろ!

リアクション公開中!

世界終焉カレンダーを書き換えろ!

リアクション


『終戦の序章』


“世界の終わり”まで、あと2時間



 終焉が、近づいている。
 一刻の猶予も許されない状況で、立ちはだかったのは、遺跡内最強のモンスター。
 弩級のガーゴイルであった。
「みんな、一旦下がって。詩穂のスキルならガーゴイルにも有効なはず!」
 敵を見上げながら、詩穂が叫ぶ。彼女は『絶対領域』を発動させて足止めを狙っていた。
 だが、疲労の溜まっていた彼女は遅れをとった。ガーゴイルがなぎ払った右腕をもろに受け、詩穂の体は後方へと吹き飛ばされる。
「だ、大丈夫?」
 走り寄ったアゾート。すぐさまヒールを使い、詩穂の傷を癒していく。
「グォォォォ……」
 彼女の様子を見下ろしながら、ガーゴイルは嗤っていた。人の心配なんてしている場合じゃないぞ、と言いたげに。
 もはやここまでなのだろうか。
 世界の終わりより先に、自分たちの死期を悟ったアゾートだったが――。
「待たせたわね!」
 アゾートの前に颯爽とあらわれたのは、ビキニ姿の女戦士。
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)であった。
 彼女は二丁拳銃を撃ちまくり、ガーゴイルを牽制していた。両手の拳銃が火を吹くたび、彼女のツインテールは荒ぶっていく。
「味方のピンチにタイミングよく現れてこそ、真の英雄よ!」
「暴走して、罠にハマってただけでしょう」
 セレンの隣に立ったセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、ため息混じりつっこんだ。
「う、うるさいわねっ。それよりも、世界を終わらそうなんて輩は、あたしが絶対に許さないんだから!」
 啖呵を切りながら、セレンはクロスファイアをぶっ放す。ふたつの銃口から放たれた弾丸は、交差しながら突き抜けていき、ガーゴイルの刑具となる。
 クロスファイアが直撃したガーゴイルは、その場にひざまずいた。
 怒り心頭にあるセレンの勢いは止まらない。
 つづけざまトゥルー・グリットを放つと、ガーゴイルへまくし立てた。
「世界を終わらそうだなんて、なに考えてるのよ! この世にはね、かけがえのない命がたくさんあるの。より明るい未来が待っているの! 私なんかまだ、女の子の胸であんなことしてないし、女の子の脚でこんなことをしていないし、女の子の唇でそんな……」
「いい加減にしなさい!」
 セレアナが、暴走をやめないパートナーを小突いた。
「まったく。珍しくまともなこと言いだしたと思ったら……。後半、煩悩がダダ漏れじゃないの!」
 彼女たちが夫婦漫才を繰り広げていると。
 損傷したガーゴイルが立ち上がり、残りの力をふりしぼって、天井を攻撃しはじめた。
 遺跡中が激しく揺れ、瓦礫が次々と降り注いでくる。
「危ない!」
 落ちてくる瓦礫を、セレンとセレアナは背中合わせで迎撃する。死角を防いだふたりのコンビネーションにより、瓦礫は砂のように粉砕されていった。
 だが、ほんの一瞬、砂ぼこりに視界が奪われた。刹那の隙をついて、ガーゴイルの反撃が飛ぶ。
「くっ……」
 石の拳をまともに受け、ふたりは大きなダメージを負った。倒れこむ彼女たちへ、アゾートがすぐにヒールをかけたが、戦線に復帰するのは難しそうだ。
「ま、まだまだ……」
 セレンが立ち上がろうとするが、もう力は入らない。
 最後の切り札を使い果たした。
 いよいよ、手詰まりなのだろうか――。


「まだ、投了には早いですよ」
 静かに言い放ったのは、“深智の探求者”近遠である。
「遅れてすみません。地下一階のハンコ探しに、手間取ってしまいました」
 階段を駆け下りてくる近遠の後ろには、イグナとアルティアも追走している。
 状況を理解したイグナは、すぐに戦闘態勢をとった。ここで勝たなければ、すべてが終わる。
 相手は膝をついているとはいえ、見上げるほどのガーゴイルだ。
 それでもイグナに恐怖はない。
「我に護るべき者達がある限り、強くあらねばならぬのだよ」
 潔く剣をとると、敵へ突進していく。
 後衛からは、アルティアが怒りの歌を発動し、イグナの攻撃力を高めていた。
 巨大な石像に向けて、イグナのポニーテールが滑走する。その姿は、伝説の天翔ける馬かと見まごうほど、神々しかった。
「グォォォ!」
 ガーゴイルの雄叫びが、最終決戦の合図になる。
 振り下ろされた石の拳をかいくぐると、イグナは渾身の力を剣に込めた。
 敵の体を横切っていく剣戟。
「――我はこれまで、誰かを守る度に強くなってきた」
 なぎ払った刃の軌跡に沿うように、ガーゴイルの上半身が、ずるずると崩れ落ちていく。
「今は世界を守るために戦っている。我にはどこまでも、強くなる理由があるのだよ」
 イグナが剣を収めたとき。
 ガーゴイルはすでに、物言わぬ石塊となっていた。