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リアクション
ザンスカールの地下水道を突撃軍の兵士たちが駆け回る。
ハンドライトの光線が行き交い、軍用犬の声がこだまする。
「静かに。やり過ごすんだ」
やがて水路を照らし出す光芒が、彼らのすぐ目の前を通り過ぎ、何人かの兵士の軍靴の音が近づき、そして去っていく。
ザンスカールの地下には枯死した樹木の根をくり抜いた地下水路が網の目のように広がっている。一度迷い込んだら二度と出られない複雑な構造から、そこは闇商人たちの取引の場にもなっている。
「それにしても遅いですね。今日入稿しないとマジケットに間に合いませんよ」
「あいつのことだ。道にでも迷ってるんだろ」
そう言って彼、グラハムはたばこに火をつけた。
ふたりはただの印刷会社の社員だ。各自が短機関銃で武装している点を除けば。
やがて、引きずるような足音が近づいてくる。ふたりは銃を構え、闇をにらむ。
「ハンス?」
グラハムはたばこを水路に投げ込むとその男に駆け寄る。
「少し待たせたか?」と笑って、ハンスは壁にもたれた。
「弥涼 総司(いすず・そうじ)先生の原稿は?」
「原稿より俺を心配しろよ」
ハンスは分厚い大型封筒を鞄から出して苦笑した。
「やられたのか?」
「連中の犬っころとじゃれてきただけだ。絆創膏をはっときゃ治る」
原稿を差し出すハンスの手には薬指と小指が無かった。
「……! おいフレッド、包帯持ってたな?」
「あ、はい!」
フレッドがポケットを探っているそのとき、フレッドの携帯電話がけたたましい音をたてて鳴る。
「うわっ!?」
「このバカっ!」
「す、すみませんっ」
「気づかれたかな?」
「ああ、間違いなくな。フレッド、その携帯と銃をよこせ」
フレッドは言われたとおりに銃と携帯を渡す。グラハムはその代わりに原稿の入った封筒を渡した。
「こいつを持ってあっちに走れ。俺らが連中を引きつける」
「でもグラハムさん?」
グラハムは何も答えず電話に出て、仕草で早く行けとフレッドをせかした。
「……はい大シャンバラ印刷株式会社です。ええ。もちろん大丈夫ですよ。今日の営業時間内入稿でしたら、マジケットまでには必ず仕上げますとも」
グラハムは短機関銃のコッキングレバーを引いて撃鉄をおこした。
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