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雪祭り前夜から。

リアクション公開中!

雪祭り前夜から。

リアクション

 一方その場での迎撃は、雪像へ被害を出すと判断した裁達は、四体目のスノーゴーレムを、イコン用ナックルを駆使して誘導しながら移動していた。
 ――戦闘に雪像を巻き込んでは意味がないもん。だから雪像が無くかつ戦闘に支障の出ない場所まで誘導したいよ。
 そんな心中で裁が、ゴッドサンダーを繰る。
『アリスから連絡だよ――! 雪像を造っているみんな!! 雪像に、スノーゴーレムが紛れ込んでいるみたいなんだよね』
 イコンを用いて雪像制作をしている皆へと向けて通信しながら、アリスが悩ましげに瞳を揺らした。
『皆で作ったものを壊されるのは、やっぱり我慢できないからな!』
 同様に誘導しながら垂がそう声をかけると、誘導を手伝っていた孝明が溜息をつく。
『それにしても何体いるんだ』
 そんな彼の声に、レーダーを凝視していたアリスが、不意に思いついたように目を伏せた。彼女の持つスキルであるディテクトエビルは、邪念を抱いている存在や、自分や味方に害をなそうとする存在の居場所を感知する事が出来るのである。
『五体、五体だもん』
 スノーゴーレムの数を確認したアリスの声に、垂が息をのんで、イコン用羽子板を用意した。彼女が乗る是空のサブパイロットであるライゼが、運用しながらカラーボールを用意する。
「作った雪像を壊すのは、お祭りが終わった後の楽しみなんだから、まだ我慢して無くちゃだめでしょ」
 冗談めかしてそんな事を呟いた彼女の正面で、羽子板とボールを構えながら垂が一人頷く。
『だとすると、もう三体出現しているんだから、残るは二体ね。今、目の前にいる分と、レーダーで捕捉できた1体に、とりあえず色をつけて、目立つようにすれば完璧ね』
 パートナーにも周囲にも聞こえるように告げた垂は、羽子板を振りかぶった。
 ベシャ――そんな音が谺する。
 垂の手腕により、残るスノーゴーレムの一体一体に、的確に色が付着したのだった。
 それを見守っていたアリスが、再び会場全体へと通信を流す。
『アリスから連絡――! スノーゴーレムに、ペイントボールみたいなので色をつけて貰ったから、それ以外のゴーレムっぽい雪像とは区別して!!』
 そんなやりとりをしながらも、彼らは五体目にも色が付いたのを確認しつつ、四体目を誘導する先を必死に探していたのだった。
『何処か、広場みたいな所ないか?』
 シリウスが、地上にいるリーブラへ向けてそう声をかける。すると彼女は思案するように、周囲を一瞥した。遠目に、露天風呂制作のため、雪も岩も撤去された空き地が見える。
「あそこはいかがです?」
 彼女の返答に、誘導していた一同は、それぞれ頷いたのだった。


 その少しだけ前のこと。
 エメトが出現場所を指示し、ジガンが真正面から五体目と思しきスノーゴーレムへと突進していた。彼らが乗り込んでいるのは、晃龍オーバーカスタムの、この頃は未だ極端なカスタムが施されてはいなかった、211C――鋼竜であり、彼らの間では、この機体を晃竜と呼んでいた。
 闘いと暇つぶしこそが全てであり、面白いことが大好きなジガンは、真っ先に他のスノーゴーレムよりも僅かに小さい敵に対し、徹底した零距離戦闘を挑んでいった。突撃からの突撃という無茶苦茶な機動を描く攻撃だったが、これも一種の特攻戦法であるようだ。
 そこへ近隣にいた千歳とイルマが搭乗するユースティティアが加勢する。純白のクェイル型の機体が鮮やかなパンチを決めた時、小さなスノーゴーレムは怯むように体を揺らした。そのままユースティティアが、タックルして組み伏せにかかるか。
「んー、やはり雪像造りよりは、こっちの方が性にあっているな」
 コクピットの中で千歳が呟くと、イルマが嘆息した。
「正直率直な感想としては、イコンなど用いない、誰もが楽しめる雪祭りが穏やかに開催された方が良かったのではと思いますわ」
 確かにそれもそうだなと千歳が小さく頷きながら、モニター越しに晃竜の機体へ目を向けた。アサルトライフルとイコン用光条サーベルを装備した晃竜のコクピットの中では、戦えることを心底楽しむように、ジガンが声を上げていた。
「エメトオオオオオオォォォ! 出力全開!! っでえええいくぞおおお!」
 ――獅子奮迅、疾風怒濤、侵略すること烈火の如く。
 そう表するにふさわしいジガンの闘志がこもった声に、エメトがイコン用光条サーベルの用意を完了させながら応える。
「いやァん――マスター素敵! 抱いてっ、もっと強く――! 壊れるくらいいいいいいいいいぃぃぃぃ!!」
 会話は一切通じ合っていなかったが、この両人、息はぴったりである様子であった。
 千歳達のユースティティアが押さえ込んでいるゴーレムに対し、晃竜が、イコン用光条サーベルを炸裂させる。闇夜に鮮烈にはしった光に、地上で見守っていた人々は目を細めたのだった。
 暫しの沈黙の後。
「――終わったのか?」
 そう口にしながら、千歳がユースティティアから地上へと降り立った。イルマもまた、それに続く。すると同様に、瓦解したスノーゴーレムの様子を確認するように、エメトも晃竜から降りてきたのだった。念のためなのか、あるいは他のゴーレムの姿を探してでもいるのか、ジガンは愛機に搭乗したままである。
「そのようですね」
 イルマが確認しながら頷くと、エメトがその正面で指を組み腕を伸ばした。
「良かったぁ、これもマスターのお・か・げ」
 そのどこか桃色がかった声を放っているエメトを一瞥しながら、千歳が不審そうに首を捻る。
「確かにあのイコン用光条サーベルは有用だった。――それにしても、なんだかこのスノーゴーレムは、他のものと比べると小柄じゃないか?」
 先程まで別のスノーゴーレムを移送していた千歳の声に、エメトが虚を突かれたように目を見開く。
「え? 他? ボクはこのクマゴーレム像にしか細工なんてしてな――……」
 咄嗟に漏れた様子のその声に、千歳とイルマが言葉を失った。
 黒い瞳を揺らしたエメトはといえば、慌てたように口元を手で覆っている。
 厳しい目付きに変わった千歳が、腕を組んで、エメトに詰め寄った。
「どういうことだ?」
「詳しいことをお聞かせ願いませんとね」
 千歳に同意して退路を断つようにエメトの背後へとイルマが回る。
「え、ええと、そ、の」
 エメトが言いよどんだ時、ほぼそれと時同じくして、アリスの放送が雪祭り会場に響き渡った。
『アリスから連絡――! スノーゴーレムに、ペイントボールみたいなので色をつけて貰ったから、それ以外のゴーレムっぽい雪像とは区別して!!』
 色など付いてはいなかった今しがた倒したばかりの小型のスノーゴーレムを、息をのんで千歳とイルマが一瞥する。その瞬間、エメトは走り出したのだった。
「おい待て! まさか雪祭りの雪像に細工したのか!? それは法を犯している。スノーゴーレムの暴挙と違って司法に問える犯罪行為だ」
 慌てて追いかけながら千歳が叫ぶ。
「法は守る為にあるんだからな。そのような行為、見過ごすわけにはいかない」
 逃走を始めたエメトを千歳とイルマが追いかけ始めた。
 その頃ジガンはといえば、他のスノーゴーレムの姿を探して、晃竜の内部から遠方へと視線を向けていたのだった。


 垂の手により色づけされた本物の五体目は、露店が軒を連ねる側へと向かっていた。
突進してくる白い巨体が、雪とも氷とも判別がつかない投擲を始める。それまで会場内の喧噪には我関せずで、黙々と作業に励んでいた知恵子だったが、その飛礫が、つばめや葉月達が残っている軒先へと直撃しようとした寸前に、思わず號弩璃暴流破の機体を動かした。
『あたいが防いでる間にさっさと避難しな』
 彼女の言葉に、突然の事態に困惑していた露店開催者達が避難を始める。コクピットの内側では、フォルテュナが、パイルバンカーの用意をしていた。その準備が整うよりも一時早く、スノーゴーレムが再度露店へと襲いかかろうとする。
 そこへ、それまで事態を静観していた天音が打撃を阻むように、オリヴィエ博士改造ゴーレムを前進させた。今回は、イスナーンを即ちSIPAHI――シパーヒーを、情報漏洩防止のため持参していなかった彼だったが、そのイコンが持つワイヤーロープを偶然手にして会場へと訪れていた為、彼はそれを駆使することにした。雪原では、ワイヤーが必要な自体が多いための配慮だったのだが、天音は端整な顔立ちの上で、黒い瞳に気まぐれそうな笑みを宿すと、そのワイヤーロープの先端を輪にした状態で、オリヴィエ博士改造ゴーレムに託す。
 オリヴィエ博士改造ゴーレムは、スノーゴーレムめがけてそれを投げつけた。
 それにより拘束されたスノーゴーレムは、身動きがとれない様子ながらも、僅かに勝っている巨体で、前進を続けようとした。しかしオリヴィエ博士改造ゴーレムも負けてはいない。だが純粋な力比べとなったところで、一歩、二歩と、スノーゴーレムが露店へと近寄ってくる。そこへ、準備の整ったパイルバンカーを、知恵子とフォルテュナが放った。その物理的な打撃と、ワイヤーの効果で、スノーゴーレムが僅かに後退する。
 その時のことだった。
 彼らのすぐ傍にあった雪像と考えられていた物体が、不意にライトアップされる。
「ビッグロー、ショウタイム!」
 自身の腕時計を見据えながら放ったエヴァルトの声が、会場中に響き渡る。
 何事かとブルーズ達が顔を向けると、雪、そしてブルーシートをマントを脱ぎ捨てるかの如く華麗に拭い取り、パラデウス ビッグローがその機体をあらわにしたのだった。
 演出のために内部で操作をしながら、ロートラウトが嘆息する。
「あーあ……早く、イコンの武器に内蔵火器類が追加されないかなぁ」
 そんなパートナーの呟きはつゆ知らず、エヴァルトはドラゴンアーツを用いた身のこなしでイコンへと乗り込んだ。またスキルである『肉体の完成』と『龍鱗化』がパイロットスーツ代わりだと彼は念じながら目を伏せる。
 乗り込んだ直後、ロートラウトが嘆息混じりの声を漏らした。
『途中で整備してもらえたからこそ、万全の状態なんだけどね』
 そんな彼女の呟きもまた、通信機から漏れ聞こえてくる。
 しかして会場中の目を惹くような出現をしたビッグローのおかげで、スノーゴーレムまでもが一時足を止めた。その最中、知恵子の誘導で、露店組が無事に避難をしていく。
 だがいつまでもスノーゴーレムが足を止めているわけでもなく、再度一歩足を踏み出したその巨体の前に、唐突に一本のランスが突き刺さった。イコン用のスピアである。そうして足止めをしながら、七緒が機体内で鮮やかな黒髪を揺らしつつ警告するように呟いた。
『雪の巨人よ……その雪像はお前の敵ではない……その怒りを鎮め、速やかに在るべき場所へ帰れ……』
 露店以外の周囲の雪像へも投擲を繰り返そうとしていたスノーゴーレムに対し、七緒は諭すように声をかけた。
『ビッグロー、アクション――どうやら、交渉の通じる相手ではなさそうだな。ネゴシエイションに値しない相手には……こうするまでだ!』
 銀星の交渉を見守っていたエヴァルトは、一人かぶりを振ると、攻撃を止める様子のないスノーゴーレムに対して、前腕部の装甲がシールドと一体化している機体を駆使して、攻撃をブロックしながら皆を守った。続く手撃もまた隙を見て受け流し、反撃に出ようと試みる。
「――止むを得ない、か……ルクシィ」
 見守っていた七緒が、スノーゴーレムと応戦する事を暗に告げるように振り返った。
「脚部スラスター、スラストビッカー、スタンバイ済みです。いつでもいけますよ、ナオ君」
 スラストビッカーとはソードの事であり、アザルト・ケントゥリオンのサーマルソードである。
「上出来だ……!」
 ルクシィの準備の早さに半ば驚嘆しながらも、七緒がその黒い瞳に力を込める。そして言葉を返すと同時に脚部スラスターを展開し、ソードを抜いた。エヴァルトらと共に応戦を始めた七緒は、雪像や露店から遠ざけるようにスノーゴーレムを誘いながら連撃を行う。
「ルクシィ、レーダーで雪像の位置を表示できるか…? 戦闘中にうっかり壊してしまっては元も子もない……」
「やってみますね」
 戦闘中、雪像を巻き込まない様にと配慮した七緒の声に、深く頷きながらルクシィがレーダーに雪像の位置表示を試みる。
 彼らのそんな様子を確認しながら、天音がオリヴィエ博士改造ゴーレムを一端ひかせ、避難誘導を始めた知恵子達の元へと向かう。
「大丈夫かい?」
 彼の声に、知恵子は笑み混じりに吐息した。
『何とかね。助かったよ』
「それは良かったと我も思う」
 ブルーズが傍らで深々と頷きながら、再度スノーゴーレムへと赤い瞳を向けた。
 彼らのそうしたやりとりを後目に、エヴァルトは想定していたよりも俊敏なスノーゴーレムの動きに唇を噛んでいる。
 ――これは、損傷覚悟でクロスカウンターを狙うしかないのかもしれない。
 エヴァルトは、操縦そのものは不慣れでも、格闘戦の経験があった。イコンが人型である以上、それも応用できるはずだ。少なくともその可能性はある。これもイコンの一つの活用法だろう。未知である部分が多いからこそイコンは、いかようにでも用いることが可能であるという明るい未来があるのだ。無論使い手次第ではあるだろうが、エヴァルトはこれまでの経験を生かして、ボクシングのようなな拳闘でカタをつけようと考えていた。
 それを見守っていた七緒がルクシィへと振り返る。彼は既に突進を始めていて、先程投げたランスを拾っていた。
「……ルクシィ、機体出力最大……ヤツに一番重い一発をくれてやる……!」
「……わかりました、出力最大……!」
 槍を手に断言した七緒は、ルクシィの返答が終わる前に機体を風のように翻していた。エヴァルトのパンチが決まったすぐ後のタイミングで、フルパワーを出し切りスノーゴーレムの胸の中心にランスを叩き込む。その衝撃にルクシィは、思わず目を伏せた。それ以上に、最大出力にしたことで、七緒の体調も心配でもある。
 七緒の攻撃で動きを止め、瓦解を始めたスノーゴーレムの体を、とどめとばかりにエヴァルトが持ち上げた。そして露天風呂制作のために空き地になっていた遠方へと放り投げる。こうして無事に五体目は倒されたのだった。


 残っているのは、四体目として確認されたスノーゴーレムである。
 五体目の残骸が転がる中、シリウスや孝明、垂達皆で、この空き地まで誘導しているその最も体躯の大きなスノーゴーレムは、両腕を激しく動かし暴れようとしてやまない。


 それは遠目からも目視でき、雪像の傍に残った彩羽やリーブラが心配そうに見守っていた。
 そんな時、不意に気がついたようにリリアが首を傾げる。
「そういえばリーブラさんって、十二星華のティセラさんに似てますね」
 リリアはリリアなりに、緊迫した状況下で、精一杯話を変えようとしていたのだが、それはリーブラの痛ましい心中を刺激したようだった。俯いた彼女は、美しい銀色の緩く波がかかった髪を揺らしながら、切なさを滲ませるように赤い瞳を揺らしている。
「もしかして、似ていることが嫌?」
察した彩羽の声に、純情さが滲む柔らかい声音でリーブラが静かに応えた。
「そうかもしれません――ですが、『わたくし』は『わたくし』なのだといつもシリウスが言ってくれますから……平気ですわ」
 儚く微笑したリーブラに対し頷きながら、彩羽が腕を組んだ。
「同じ人間など、例え一卵性双生児であっても一人とて、いはしない。これは遺伝環境論争にも繋がることだけれど――だけどね、私も双子の姉がいるから、なんとなくだけど、そしてこれは論理的でも理論的でもない事柄だけど、その『痛み』のようなものはわかるかもしれないよ」
 才女である彩羽は、自身の双子の姉のことを想起しながら、思わずそんなことを呟いていた。
「特にこんな風にイミテーションを――模造品を沢山構築する場にいると、つい、考え込んじゃうんだよね」
 理知的な彩羽の口から響いた感傷的なその声に、リリアもリーブラも揃って視線を向けた。
「だけど、それを見て楽しんでくれる人がいる。制作することで技能を高められる人間もいる。そういった一つ一つのことに意味を見いだせることは、とても素敵なことなんじゃないかな――だから、無事に開催するためにも、スノーゴーレムの暴挙は止めないといけないと思うんだよね」
 どこか追憶に耽るような彩羽の横顔を見守りながら、二人もまた頷いた。
 そしてそれから、彼女たちは、未だ動きを止めていない最後の一体の行方を見守るべく、遠くの空き地へと視線を向けたのだった。


 誘導が終わった段階で、裁がゴッドサンダーの中から皆へと声をかけた。
『ごにゃ〜ぽ☆ ボク、ヒット&アウェイ戦法が良いんじゃないかと思うんだよね』
 無邪気さが滲む可愛らしい彼女の声だったが、放浪の旅を続けていたという生い立ちを持つ彼女の特技にはサバイバルがあるほどだ。彼女が提案したヒット&アウェイ――あるいはヒット&ランとも言われる戦法は、打撃を加えては待避をし、再度攻撃を加えるという手法である。なお、ごにゃ〜ぽの意味は、その時々で変化する、裁のみぞ意図を知る、一種の挨拶のような言葉である。
 告げながら彼女がコクピットの中で黒いショートの髪を揺らした時、後部座席でアリスが同意した。
「アリスも、この場所からじゃまだ、流れ弾が雪像に危害を加える危険が残っているから射撃武器の使用は控えた方が良いと思うんだよね」
 まだ幼さが残る顔立ちの中で、妖艶な赤い瞳を瞬かせたアリスは、思案するように裁を見る。
「ボクもそう思うよ、だから、だからこそのイーグリットの機動と飛行可能な特性を活かしての作戦なんだもん」
 そう応え無邪気に黒い瞳で笑った裁は、ゴッドサンダーの迫力ある手で、マジックソードを握り直したのだった。
『俺も賛成だ。イーグリットならば、ソードで打撃を加えてから逃避できるからな』
 孝明がそう応え、イーグリットのコクピットの中で、椿に振り返る。すると彼女は絹のような黒髪を揺らしながら、激情的な性格を赤い瞳の中にあらわにするように、イーグリットがビームサーベルを装備するサポートを淡々と行っていた。
「せっかくの雪祭りだって言うのに、本当に信じらんないわ」
 椿の声に、孝明が微笑を漏らす。
『俺の是空も飛行型だから、賛成。じゃあ俺はイコン用光条サーベルで核を狙う。どうも胸部に核があるらしいからな』
 垂が綺麗な髪を揺らしながら、勇敢に言い放った。先程三体目のスノーゴーレム戦を目視していた彼女は、漏れ聞こえてきた同校のフェイトの声を思い出していたのだった。
「頭部に激しい攻撃を加えると、全体的にスノーゴーレムは崩れるみたいだよね」
 コクピット内でライゼが、子供らしい声ながらも冷静に分析して垂に伝える。
『センチネルは歩行型だから、こっちも適度に待避しながらチャンバラするよ』
 サビクがそう応えるのを見守りながら、シリウスが腕を組んだ。
「サビク、だいたい基本はつかめてるんだよな?」
 供与されたセンチネルを試し中であるサビクに対し、彼女は混乱した内心を鎮めるように尋ねた。
 ――サビクに引っ張ってこられたんだけど……魔法少女がロボはねぇだろ。ロボは。
 ただでさえそんな心境だったシリウスは、つい先程までは、こんな心境だった。
 ――……って、なんか騒がしいな。ゴーレムが出た、だぁ!? 
 と、目を剥いていたのである。
 シリウスの属するクラスは、魔法少女なのだった。
「ボクが知ってるものとはだいぶ違うからなぁ……ま、元が元だししょうがないか。それにさっさと、実戦訓練といこうか」
「そうだな。兎に角、怪我人が出る前に食い止めにいくぞ! 言っとくが、目的は雪祭り会場を守ることだぞ。周りは気ぃ使えよ?」
「ったく、信用ないなぁ……ふぅ。ねぇそうだシリウス、もうちょいマシなイコン知らない?」
「――もっと別の、イコン? そんなもん個人で買えるかーっ!!」
 センチネルの中で賑々しくそうしたやりとりがかわされていた時、まずは裁達が搭乗するゴッドサンダーが、マジックソードを振り下ろした。そして咄嗟に待避した機体を襲おうとしたスノーゴーレムを別位置から、孝明達のイーグリットがビームサーベルで狙う。その一撃は、スノーゴーレムの腹部を薙いだ。辺りに淡い光がはしる。今度はそちらへ体勢を崩しながらも反撃しようとしたスノーゴーレムに対し、体制を整えたシリウス達が載るセンチネルが、今度は背後からマジックソードを叩き込んだ。そうしてよろめいた白い巨体の真正面へ、是空が朱い機体を飛翔させながら立ちはだかる。是空は、大型の日本刀による突撃を前提とし『攻撃を受ける前にぶった斬る!』『腕の一本持っていかれても、敵を落とす!』といった考えでカスタマイズされた機体である。その為、装甲を犠牲にして機動性を上げているので耐久性は下がってはいるのであるが、こうした場面では実に心強い。手を加えているため想像以上に扱い難い機体となってしまっているのだが、イコン用光条サーベルをしっかりと装備しつつ、コクピットの中で垂は唇の端を持ち上げて笑う。
「当たらなきゃ良いんだろ? ――こっちは、当てるけどな」
 瞬間、イコン用光条サーベルのまばゆい光が、既に明け方に近づきつつある雪の闇夜の中で閃光を放った。真っ直ぐにスノーゴーレムの核を付き動きを停止させたようである。


 こうして無事に五体……及びエメトが細工した小さな一体を含め、計六体のスノーゴーレムは全て打倒されたのだった。