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イコン最終改造計画

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イコン最終改造計画

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「え、合体?」
「ああ、すでに琴音ロボを乗せておいて言うのもなんだけどよ、巨大化させるなら合体が一番手っ取り早くていいじゃねーか」
 高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)が要に提案したのは、イコンの合体であった。
「ところで、パラ実のイコンが何で顔だけなのか知ってるか?」
「ううん?」
「つまりな、あれは合体した時に『顔の部分』になるようにできてんだよ。合体ロボのリーダーは顔の部分ってのが常識だろ?」
「な、なんだってー!?」
 面倒くさそうだがそれなりに説得力のある悠司の主張に、要は無理矢理世界滅亡に結び付けようとする調査団のような叫びを上げる。
 実際のところ、それは完全なでたらめである。パラ実のイコンはたまたまあのような形になったというだけであり、別に大した意味は無い。まして現状のイコンには明確な合体能力など無いのだ。
 ではなぜ悠司がこのようなでたらめを教えるのか。答えは簡単、「暇潰し」である。
(まあ仮にこの後説明する計画が失敗したところで俺に被害が来るわけじゃねーし、暇潰しにゃもってこいじゃねーかね……)
 だが100%の嘘を言ったところでかえって信用されない可能性が高い。うまく嘘をつくためのいい方法は、嘘の中に少しだけ真実を混ぜることにある。悠司のそれは完全な嘘だったが、魔改造に熱中気味の要はそれをあっさり信じてしまった。
「でも合体っていったって、実際にどうすればいいの?」
「そりゃもっともな話だよなぁ」
 要が完全に話に食いついたところで悠司は具体的な方法を発表する。
「まず合体させるにはパーツが足りない。それを集めなきゃな」
「例えばどんな?」
「そうだな……。とりあえず胴体部分として、そこそこゴツい教導団のアグニなんかいいんじゃねーか?」
 ここでアレックスから痛烈なツッコミが入った。
「……教導団はアグニじゃねえだろ」
「……あれ?」
 シャンバラ教導団――現在、国軍の所有するイコンは、マシンガンを装備した地対空・地対地専門の近接タイプ【鋼竜(機体コード:211C)】、そしてバズーカが標準装備の支援タイプ【焔虎(機体コード:212F)】の2種類である。そしてその鋼竜をベースに、主に都市防衛を目的としてマシンガンの代わりに火炎放射器を装備させるなどしてカスタムしたのが「空京大学」のイコン【アグニ(機体コード:SCUV-IGN)】なのだ。ついでにマニュアルを見ればそれなりにわかるが、どちらかといえばゴツいのは焔虎の方である。
「一体どのイコンのことを言ってたんだ?」
「えっと……、教導団だな、うん」
「なるほどね。つまり鋼竜を胴体に見立てて、その上に離偉漸屠を乗っけちまおうと、そういうことなんだな?」
「そうそう、そういうこと。後はまあ、胴体部分の両手両足にトラックでも取り付けて手足にしようかと……」
「それで合体ってわけか」
「つまりはそういうことだな」
 ただ単に教導団イコンに要の離偉漸屠を乗せるだけでは面白みが無い。だからこそ、手足を巨大化させる意味で出虎斗羅や輸送トラックも合体させてしまおうというわけだ。
 だが悠司にとって最大の誤算があった。
「そういえば、誰も鋼竜とか焔虎とかアグニとか持ってきてないよな……」
「えっ……?」
 品評会の参加者、及び魔改造のメンバーの中に上記のイコンを持ち込んだ者はいない。つまり胴体部分が用意できないということになる。
「……だったら、どこからか調達すればいいんじゃね?」
「そんなことしたら俺ら間違いなく国家犯罪者になるだろ!」
「まあさすがの私も軍隊にケンカは売りたくないしね〜」
 中国軍を単独で撃破したドージェ・カイラスならともかく、たかが3メートル強の巨大剣を振り回すしか能が無く、コメディ補正が無ければほとんどの契約者にあっさり倒されるであろう高島要ごときでは、シャンバラ国軍とケンカして勝てるわけがない。
 悠司の作戦は完全に失敗となったが、「合体」という案だけは受け入れられ、機会があればやってみようということになった。

 そうして改造計画が進む中、次にやってきたのは【ラストホープ】に乗った伏見 明子(ふしみ・めいこ)レイ・レフテナン(れい・れふてなん)であった。
「最近ロボにも手を出すようになってねー。いい機会だから私のラストホープのお目見えってことで参加させなさいな」
「お〜、どんどん参加しちゃってね〜」
「最後の希望」と銘打たれたラストホープは特に大掛かりな改造を施していない【S−01】なのだが、明子としては搭載した武装にこだわりがあるらしい。
「まあとにかく見てよ、この武装。ビームランスに蛇腹剣、ついでにアサルトライフル! 結構いけてると思わない?」
 戦闘機の機首部分はビームランスを改造した衝角となっており、尾翼の部分には展開式の蛇腹剣が搭載されている。
「機動力重視なもんだから、普段はこの戦闘機形態ね。でまあ戦闘機の癖に尻尾振り回してぶった斬る機体になってるってわけ」
「……なんだろう。昔そういうシューティング無かった? 尻尾が生えた龍みたいな戦闘機みたいな……」
「……相当古そうね、それ」
 そのシューティングの尻尾部分は、どちらかといえばバリアに近い機能を持っていたような気がするが、今はそんなことはどうでもいい。
「それにしてもさ、カスタマイズはいいけど、なんか小さくて地味で弱そう……」
 何度も書かれている話だが、要という女は基本的に大きさにこだわるところがある。その観点からすると、明子のラストホープは「小さい」部類に入るという。
「チッチッチッ、わかってないわね……」
 そんな要に明子は指を振って応える。
「いい? ビームランスってね、他のソードとかと比べて長いのよ。接近戦においては通常の倍の長さ。このビーム衝角のサイズがどうなっているか論理的に考えてみなさい……!」
「?」
「そもそも戦闘機形態で使ってるから出力大きくして面積広げるしかないのよ!」
「あ、なるほど〜」
「なるほど〜、じゃないわよ! これを地上で使ったらどんなことになるかわからないわ! 魔改造するって言ってたわよね!? だったらこれ貸してあげるから一辺試してみなさい!」
「ち、ちょっと明子さん! いきなり何を言ってるんですか!?」
 ビームランスの性能を力説する明子のその発言に、隣にいたレイが慌てた。
「何言ってるって、武装を貸そうと思って」
「貸そうとかそういう前に、一体この状況は何なんですか! 僕はイコンの技術研修に呼ばれたと思ってここに来たんですけど、これじゃあ本気で単なる魔改造博覧会じゃないですか!」
「だから本気で単なる魔改造博覧会なのよ」
 技師見習いのヴァルキリーであるレイは、ラストホープの修復に関わった1人であり、今回の集まりはそういった技師たちによる研修会のようなものだとばかり思っていた。つまり、この時点で彼の想像は完全に外れたということになる。
「まったく、地球人ときたら……! イコンのことを何も考えずにこんなところで遊んでるなんて……!」
「いくらなんでも場所が違いすぎるでしょ。本気で研修会やるなら、イコンの本場、海京に行くに決まってんでしょーが。シャンバラ大荒野でやるってこと自体、おかしいと思いなさいよね」
「……やれやれ」
 レイとしてはこのようなふざけた催しに関わりたくはないのだが、パートナーである明子が乗り気でいるため、断るに断れなくなっていた。
「はぁ……、まあいいです。ここまで来て何もしないというのも癪だ……」
 ならばイコン技術がどの程度の無茶を許容するのか、勉強した方がいいかもしれない。大きくため息をつき、レイは頭を振った。
「さて、ランスを貸すとして……、イコン用に調整し直したら面白くないですね。これは空戦仕様のままで行きましょうか」
「そうね、元々そのつもりだったし」
 ビームランスは要の離偉漸屠の右手に装備されることとなった。
「それから次は蛇腹剣ね! 私が思うに時代は弁髪リーゼント! 剣は伸びるからその分長くなる、イコール大きい、イコール完璧!」
「おお〜、その手があったか〜!」
「弁髪リーゼント」という部分だけはどうも賛同する気になれないが、明子の主張は素直に喜ぶ要である。
「蛇腹は弁髪、ね……。それならいっそのこと、1つ1つの腹に何かしら細工でもした方が見目がいいかもしれませんね」
「まあそれは今度にしましょ。さすがに時間かかりすぎるのは避けたいわ」
 蛇腹の剣は離偉漸屠の左手に装備される。
「そしてこれはオマケよ! ロボといえば必殺技!」
「必殺技はすでにあるんだけど――」
「すでに1つあるなら2つあったっていいじゃない! 超機晶スピンでも持っていきなさい! 大きいのもパワーだけど回転もパワーなのよ! ロボ学が言ってたような気がするから間違いないわ!」
 一体どこの誰がそのようなことを言っていたのかは不明だが、確かに超機晶スピンは命中さえすれば相手を粉砕できる程度の威力を持っている。そういう意味では明子の主張はあながち間違いではないといえる。
 だが、彼女には1つ誤算があった。
「明子さん、それだけは無理です」
「は!?」
 平然とした風のレイの言葉に明子が素っ頓狂な声を挙げる。
「超機晶スピンって、それ『技』なんですよね。さすがに『技』を譲渡するのは無理ですよ」
「……そうなの?」
 残念ながら超機晶スピンは1つの技であって、武装ではない。さすがにそれを譲渡するというのは不可能なのだ。
「……しょうがないわね、だったらそれは諦めるか……」
 スピンを貸すことは不可能だったが、その代わり2種類の武器を貸すことはできた。後は実践テストでそれを使ってもらうだけである。
「……まずい。これ結構楽しいかもしれない」
 一方で、この魔改造計画を楽しいと思い始めたレイがいた……。