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イコン最終改造計画

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イコン最終改造計画

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 セクハラ第2号を地面に埋めたその10数秒後、どこからともなくトラックのエンジン音が聞こえてきた。
 音の聞こえる方からやってくるのは出虎斗羅であった。
「出虎斗羅? 今度は誰だろう……?」
 その出虎斗羅【出虎八(でこはち)】に乗って現れたのは、【波羅蜜多実業高等学校二代目総長】こと夢野 久(ゆめの・ひさし)と、そのパートナーのフマナ平原の洞窟の精 ちゃぷら(ふまなへいげんのどうくつのせい・ちゃぷら)であった。
 出虎八から降りた久は要の姿を認めると、その不機嫌そうな顔を逆に歪め、非常に嬉しそうな表情を作った。
「よう高島! おまえの漢気、しかと俺の胸に響いたぜ!」
「へ?」
「イコン魔改造するんだろ? 全力で協力させてもらうぜ!」
 久のその申し出は非常にありがたいのだが、要としてはなぜこの男からこのように言われなければならないのか理由が想像できなかった。
 久が要に協力しようとしたのにはもちろん理由がある。
 最初、久はイコン魔改造それ自体にはなんら興味を示さなかった。引きこもりでネット廃人パートナーのちゃぷらを外に連れ出す理由が欲しかっただけであり、単に見物するのが目的だったのだ。
 だがそのちゃぷらからこのようなことを言われたのである。
「久さん。ひょっとすると要さんには深遠な考えがあるかも知れませんよ?」
「深遠な考え……?」
「いいですか? イコン、サロゲート・エイコーンは『代理の聖像』。つまり神の写し身であり代理なのです」
「……それがどうかしたのか?」
「よく考えてみてください。パラ実の要さんが、パラ実のイコンを改造して作る『巨体』。それはすなわち何でしょう。要さんは一体何の神を象ろうとしているのか?」
 ここでちゃぷらは一旦息を切り、今までに無いほどに真剣な表情を見せる。
「そう! 高島要の真の目的とは! ナラカに去ってしまったドージェの代理の聖像の完成。ソレによるかの神の再臨なのですよ!!」
「な、なんだってー!?」
 まさかそれがちゃぷらによる真っ赤な嘘であるとは気がつかず、久は調査団の叫び第2弾を挙げた。
「……なんてこった。高島の奴……、好き勝手やってるだけに見せかけてそんな事を……。パラ実の、いや、大荒野全体の事を考えていやがったんだな」
 久はその瞬間、考えるより先に体が勝手に動いていた。こうしてはいられない。要の漢気を知ってしまったのだ。これに応えなければ漢ではない!
 そうして久は出虎八にちゃぷらを放り込み、全速力で駆けつけたのである。途中で援軍として「顔見知りのヒャッハーたち」にも声をかけようと思ったのだが、それ以上に出虎斗羅を走らせることに集中してしまったため、結局2人でこの場に到着してしまった。
 だが幸いなことに改造を行えるだけの人材が揃っているらしく、その辺りは心配する必要は無かったようだ。
「よし、それじゃ装備の提供だ! まず仏斗羽素2つ! こいつは足に1つずつつけるんだ。これでどこまでもぶっ飛べるぜ!」
「おお〜!」
 トラックだろうが何でもぶっ飛ばす、とのふれこみである「仏斗羽素」があれば、現在重量のかさんだ離偉漸屠もうまくぶっ飛んでくれるだろう。
「次にスピアだが、これはまあ背中にでもつけておけ!」
「背中にはシールドがあるんだけど……」
「まあその辺は後でどうにかすればいいさ。そして最後、これが本命だ! 『激突』を持っていけ!」
「……へ?」
 今、この男は何を言ったというのか。要は自らの耳を疑った。
「だから『激突』だよ! これを貸すぜ!」
「え、いや、あの、『激突』は技だからさすがに……」
「車両による体当たりだから無理だと言いたいのか? 馬鹿言ってんじゃねえぜ! 武装として装備できるんだから武装に決まってるだろうが!!」
 確かにシステム的には「武装」として装備できるものだが、あくまでも「激突」は超機晶スピンと同じく技であり、譲渡は不可能である。
「この装備は出虎斗羅の質量! 硬さ! 速度、そして威力! その全ての結晶。つまりは出虎斗羅全部を指してるんだ! 即ち! 出虎斗羅全てを改造用パーツとして使えるってことだ! 間違いない!」

 残念ながら間違いである。もちろんそのような指摘を聞くような久ではないが。

「さあ高島! 遠慮せずに俺の出虎八を分解して全パーツ使っちまえよ! なあ!」
「あ、あの、それなんだけどちょっと待ってくんない?」
「あん?」
 要が動かないなら、自ら出虎八を分解しようと息巻く久を制し、要は眉をひそめた。
「いや、分解はちょっと待ってほしいの」
「何でだよ! せっかくの『激突』は使いたくないってのか!?」
「そうじゃない。そうじゃなくてね……」
 そこで要はゆっくりと久に言い聞かせる。
「実はね、何となくなんだけど、この後、面白そうなことが起きそうな気がするの」
「……面白そうなこと?」
「うん、そう。はっきりとしたことはわかんないんだけど、何かがありそうだから、分解はもう少しだけ待ってて。ね?」
「……まあ、別にいいけどよ」
 しばらく悩んだが、久はその提案を受け入れることにした。できることなら今すぐにでも激突が使えるようにしてやりたいのだが、魔改造の主催者がそう言うため久はそれに逆らう理由を見出せなかったのである。

「魔改造するなら、やっぱここは合体だよな」
 高崎悠司に続いてその案を持ち出したのは、天御柱学院所属の和泉 猛(いずみ・たける)である。
 彼もまた「要の離偉漸屠を頭、別のイコンを胴体として合体させる」ことで、イコンを大きくしようと考えていたのである。
「まず離偉漸屠をそのまま頭として使う。もちろんこれは操縦系統と緊急時の脱出を兼ねるという画期的なアイディアでだな――」
「あ〜、ごめん、合体の話はすでに出たんだけど……」
「うん?」
 猛がそこまで言った時点で、要が悠司から聞いた合体案を話した。
「ああ、なんだ、すでに出てたのか」
「そうそう。ついでに俺の案だと、『胴体に使えるイコンが無い』ってことで却下されたけどな」
 その案を持ち出した当人である悠司も面倒くさそうに合体案を告げた。
「……ははぁ、そういうことか。だったら俺の案はもしかしたらいけるかもしれんな」
「というと?」
 首をかしげる要に、猛は自信満々に胸を張った。
「俺の胴体案は、例えばその辺にあるであろうゴーストイコン、及び近くでイコン勝負を吹っかけて負けた奴らのイコンの残骸パーツ、それを組み合わせたものだ。これなら教導団や空京大学のイコンを使うよりもリスクは無いし、再利用にもなるだろう」
 誰かのイコンを無理矢理胴体として使うのではなく、捨てられたゴミを再利用するという猛の考えは確かに魅力的だった。問題はそのイコンの残骸がどこにあるかということなのだが……。
「あるにはあるんだよね……。そこで真っ二つになったパラ実イコンが」
 そう、先だってリネン・エルフトによってパフォーマンスがてら2つに切り分けられたパラ実イコンが近くに転がっているのだ。
「……あるにはあったが、これを再利用するというのは……」
「さすがに無理じゃね? 一応俺、パラ実式工法知ってるけど、いくらなんでも真っ二つになったのを使うのは……」
 改めて使うなら本格的な修理・修復が必要であろうそれを見て、猛と悠司――特に前者は自身の作戦が失敗に終わることを悟った。
「……仕方がないな。なら、装備の提供だけにしておくか。ルネ、1つ頼むぞ」
 携帯電話でパートナーのルネ・トワイライト(るね・とわいらいと)を呼び出すと、アンズーをカスタマイズした【ネレイド】――正式名称【ヘヴィーストライカー】に搭載されていた「試験型パワーブースター」を設置させる。
「それにしても……」
 ネレイドの中でルネがこっそりとぼやく。
「改造とはいえ、結局はパーツを寄せ集めただけで溶接とかはしない。それもパーツの数が多すぎる。船頭多くして船山登るとはまさにこれですね……」
 出力機構が不安だからとブースターを装備させるということだが、出力以前の問題ではなかろうか。ルネはそこがひたすら心配だった。
「ところで、ここまでやっておいて言うのもなんだが……」
 パワーブースターが取り付けられる光景を眺め、猛が要に言う。
「でかいイコール強いとは限らない、と考えたことはあるか?」
「……そこのパラ実イコンをぶった斬った人がいるから、まあ何となくわかるけど」
「何となくで結構。俺が言いたいのは、でかいのは強いのではない、むしろ逆なのだよ!」
「な、なんだってー!?」
「これは聞いた話に過ぎないが、すごくでかいイコンないしはそれ相当の相手に、人間サイズの機晶姫、ああ、いや俺はこう聞いただけで実際は違うかもしれないが、そういうのが単独でそのでかいイコンをボッコボコにしたという話を聞いたのだ」
「おお〜!」
 猛はあくまでも噂話として聞いただけにすぎなかったが、実際のところ、契約者の中には生身でイコンを倒そうとする者がいて、またそれを実際に成功させているのがいる。
 イコンは――種類にもよるが基本的に装甲が厚く、また表面には機晶エネルギーによるフィールドが張られており、通常の兵器では傷1つつけることさえかなわない。だがパラミタに存在する武器の中には「対イコン装備」というものがあり、それがあれば、扱う者の熟練度にもよるだろうがイコンに対し攻撃を加えることが可能なのだ。
 もちろん武器があるだけではどうにもならない。武器を扱うだけの錬度、及びイコン相当の敵と戦えるだけの鍛錬、さらに――特にイーグリットレベルのイコンを相手にするなら音速の飛行が可能であること、あるいは音速で飛ぶ相手の体当たりや飛行時に発生するソニックブームを食らってそれに耐えられるだけの体があること。これらの条件が重なった上で、さらに対イコン戦術を駆使することで、ようやくイコンを倒せるというところまで来ることができる。
 先ほどのリネンの場合は、武器は強化型光条兵器で、相手は止まっていたパラ実イコンのスクラップ。彼女自身もそれなりに鍛錬を積んでいたため、パラ実イコンをあっさり解体することができたのだ。
「まあでも今回はとにかく大きくしたいっていうのが趣旨だから、その話はまた今度にさせてね」
「……まあ、いいがな」
 大きさは果たして強さに繋がるのかという論議はそこで切り上げ、要はどんどん改造されていく自身のイコンを見やる。

 魔改造計画は、ほぼ終盤に差し掛かっていた。