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リアクション
「いいよなぁ、こういうハンドメイドってやつ。工業製品には無いロマンつーか、自分だけのオリジナルを作れるって優越感があるっつーかさぁ」
イーグリット【オルタナティヴ13(ドライツェン)】に乗って【ドージェ様代理聖像1号】に向かう最中、サブパイロットであるシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)がそうぼやく。本来は百合園女学院の生徒であり、現在は天御柱学院に留学中の身としては、こういった魔改造にも興味があったのだが、メインパイロットを務めるパートナーのサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)にそれを邪魔されたのである。
「何言ってんのさ。美しくないじゃない、魔改造って。品評会に出てたのもそうだし、現に今完成した魔改造イコンだって、何なのあれ。あんなぶっ細工な寄せ集めのどこがいいのさ」
「まったく、普段子供っぽいこと言ってる割に妙なところで現実的なんだよ。ったく」
サビクはどうやら「イコンはシンプルなのが一番いい」という思想の持ち主であるらしく、今回集まったイコンにはいい思いを抱いていないようだ。
それを証明するかのごとく、サビクはコクピット内でいきなり胸元をはだけようとする。
「そもそも人もイコンも同じ、一番美しいのは生まれたままの姿だよ。……こんな風にさ?」
「シンプルがいいのはわかったから脱ぐな! しかも今は操縦中だろうが!」
「……まったく。っていうか、大体ボクはガチで武者修行に来たんだよ? さっきの黒っぽいイコン。どうしてアレと戦おうとしなかったのさ?」
「とは言ってもなぁ、あれ以外にイコン戦やろうとするのがいなかったし、いたとしてもみんなあっちの魔改造イコンの相手をすることだけ考えてたんだぜ? それだったらいっそのこと、そっちの相手に集中した方がいいんじゃねえの?」
「あんなポンコツなんて、それこそ一瞬で終わるだろうに」
「うるさい! 参加したかったのにできなかったんだ! 少しくらいはワガママ聞いてくれたっていいだろ!」
「……やれやれ」
そんな会話を交わしながら、【ドージェ様代理聖像1号】の前に到着した。
「さてと、ようやく出番ってやつだ。アサルトなんか目じゃない、マジモノのイーグリットだぜ?」
「それじゃ、ガチバトル開始!」
その言葉と共に、オルタナティヴ13が攻撃を開始する。
サビクはどんなイコンが相手であろうと、全て弱点をついた戦いをするつもりでいた。例えば要たちの魔改造イコンの場合、各イコンの接合部が最も弱く、また巨大化した分、いくら仏斗羽素があろうとも空を飛ぶことはできない。地上を走るだけしかできない上に、2人で出虎斗羅を運転する分、その機動力も大したことは無い。
つまり、上空から射撃を行うには格好の的なのだ。
「だからボクが取るべき手段は、これ1択なんだよね」
上空からマシンガン、及び「高初速滑腔砲」による連射を行い、しかも空中で止まったまま行うのではなく、イーグリットの機動力を生かして高速で飛びながら撃つ。確実に魔改造イコンを潰すための攻撃だった。
「っておいこらサビク! 何考えてんだお前は!?」
「何って、ガチでやるっていったじゃない」
「誰が弱点ついて戦えつった! 正面からいけよ正面から!」
「そんなことしたらさすがに負けちゃうじゃないのさ」
「弱点つくだけで武者修行になるわけねえだろ! 手の届かない上空から爆撃とかやめろよ! つーか絶対するなよ!」
「あ〜あ〜聞こえない〜」
「おい!」
実際の戦場ではいざしらず、今回は模擬戦である。だからこそシリウスは正面からの戦いを望んでいたが、パートナーのサビクはそうではなかったらしい。
だがそんな彼女たちが口げんかを行っているこの瞬間こそが最大の油断だった。
「やってくれるじゃない! お返しよ!」
離偉漸屠に乗り込んだ美羽が、操縦用として搭載されているボタン――パラ実イコンに搭載されている操縦桿は、ボタン1つだけなのだ。つまり1つのボタンを連打するだけで射撃、移動、格闘、ポージングその他諸々の動きを取れるのである――を押す。
頭の離偉漸屠が持っていたマジックカノンが火を噴き、魔力の塊がオルタナティヴ13を飲み込まんと襲いかかる。
「おっと、そんな射撃が当たるわけないじゃない」
機動力を生かして連射されるそれを次々と避けていく。だがその回避行動に気を取られたのか、魔法弾とは別に飛んでくる物に気づくのが遅れた。
「ん、サビク! 9時方向から何か飛んでくるぞ!」
「うぇ!?」
奇妙な悲鳴を上げたサビクとシリウスが見たのは、いつの間にか琴音ロボ部分の頭から発射されていた「ビームサーベル付き喪悲漢ブーメラン」だった。ちなみに琴音ロボには搭乗者がいないため、体全体を振ることによる遠心力で飛ばしたのである。どう考えても無茶すぎる動きなのだが……。
「うげぇ! いつの間にあんなのが!?」
「やばい、回避――うお、間に合わねぇ!?」
回転しながら飛んでくるモヒカンの直撃を受け、オルタナティヴ13はそのまま失速した。
「って、今の一撃だけでもう戦闘不能!?」
「どんな攻撃力してんだよあの魔改造イコン!」
墜落していく機体にしがみつきながらサビクは思った。まあ賞賛はさせてもらうよ。まさかこんな形でやられるとは思ってなかったけどさ……。
「すごいよこのイコン! あの機体を1発でやっつけちゃうなんて!」
「た、確かにすごいよな……。何か補正でもかかってんのかね……?」
コクピットに無理矢理乗り込んでいる要とアレックス。要の方はこの状況に狂喜乱舞し、アレックスは冷や汗をかくばかりである。
「イコン操縦なら私も慣れてるからね! これくらい大したことないもん!」
「にしても、ぼ、ボタン1つでは、錬度も何もあったものじゃないような気がしますけど……」
確かに美羽にはイコン戦の経験はある。だがそれはあくまでも【イーグリット・アサルト】に乗ってのものだ。離偉漸屠のようなボタン1つという構造では、その利点が生かしきれないような気がするが、美羽はそれでも難なくこなしているのだから驚きだ。
サビクとシリウスのコンビを退けてから、九十九から通信が入る。
「要様、今の射撃攻撃で意外とダメージが入ってます〜。ちょっと接合部分がやられてます〜」
「あ〜、さすがにそれはしょうがないよね。機動力が無い分、防御力をとことんまで固めるのが課題かぁ」
それでも、簡素な溶接でオルタナティヴ13の攻撃を耐え切ったというその事実は無視できないものだったが。
「ん? どこかからイコンが高速で接近中です〜」
「え、どこどこ?」
「地上を走ってきてます……、ってあれはキングクラウン!?」
「ええっ!?」
九十九が感知したそれは、どこからともなく荒野を疾走してくるイコン【キングクラウン】であり、そのパイロットであるナガン ウェルロッドだった。そう、最初のページに登場したきり姿を見せず、途中で名前だけ出てきたあのピエロである。
ナガンは言った。万が一来なかった時のことも想定してはいる。あいつが来ないなら、それを実行に移すまでのこと。硬派番長のげんだを呼べなかった場合に備えての「第2プラン」――魔改造イコンに対する突進であった。
「馬鹿が! 整備中ずっと見てたんだから脆い接合点ぐらいわかっとるわ!」
その弱点となる部分を攻撃するべく、ナガンは九十九の召集に応じず、物陰で合体の様子を眺めていた。そして今こそ、それを実行に移す時!
だがそうは問屋――いや、九十九が卸さなかった。
「ナガン様……。せっかくの合体によくも集まってくださいませんでしたね……」
ギガキングドリルに乗る九十九の怒りがふつふつと湧き上がる。ナガンがいなかったおかげで要との合体ができたが、最初はナガンで行うつもりだったのだ。それなのに!
「うおりゃああああああああああ!!!」
もちろんそんな事情など欠片も聞いていないナガンは、九十九の意思を無視して体当たりを敢行する。狙いはギガキングドリルと離偉漸屠の接合部!
果たしてその体当たりは成功しなかった。
「まず妨害!」
「うお!?」
左手の【雷弩璃暴流破】に備わった蛇腹剣を振り回し、キングクラウンに牽制として一撃を入れる。
「続いて打ち上げ!」
「ぐおっ!?」
左手の【宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢】に備わったスピアとビームランスを同時に受け、キングクラウンの体が宙に浮き上がる。
「要様! とどめを!」
「なんだかよくわかんないけど、スマーッシュ!」
「あんぎゃああああああ!?」
離偉漸屠のところまで飛ばされたキングクラウンは、無防備な姿を晒したまま鬼刀によってホームランされてしまった――ちなみに攻撃時のセリフは要のものだが、操作は美羽によるものである。
「要様、おかげでスッキリしました!」
「ど、どうも……」
細かい事情をよく知らない要も、さすがに苦笑せざるを得なかった。