リアクション
「ふふふふふ……。これを……、この瞬間を……、待っていたぁぁぁぁぁぁっ!!!」
九十九の合図に合わせ、機晶姫のキングドリルは自らのテンションを上げていく。
ギガキングドリルは、搭乗者のテンションが上がるにつれて自らもテンションを上げるというイコンとは思えない奇妙な習性がある。
コクピット内で目を輝かせ、自らに取り付けられたドリルを高速回転させ、キングドリルは叫ぶ。
その叫びに呼応してギガキングドリルも口を開けて叫びだす。
「んむぁだまだあああぁぁぁぁぁぁぁ!! ぶぅるあぁぁぁぁぁぁっ!!」
さらにテンションを上げに上げ、それに応じてギガキングドリルの姿も変わっていく。
「変形! ギガァ・キングゥ・ドォリルーッ!」
収納されていた足が伸びていき、膝やくるぶしの辺りに新たなドリルが生える。手のところにあったドリルが展開し、ドリル上の「指」が生まれる。
ギガキングドリルは、たった今、その姿を変えた。
「おお〜! すご〜い!!」
この時点で十分魔改造のような気がするが、この際そのようなことは気にしてはいけない。特にその光景を目の当たりにした要が非常に喜んでいるのだ。ここで何かしら水を差すようなことを言うのは野暮というものである。
だがそれにあえて挑戦するかのごとく、九十九が口を開いた。
「ここであえてこの言葉を言わせていただきましょう。
『イコンは姿形をどんなに変えても能力は「元」になったイコンの能力以上にはなりません。全て「自称設定」です』
これは、パラミタの神様からのお言葉ですよ〜」
そう、つまりどんなに合体や魔改造を行ったところで、最終的には無意味となってしまう。
なぜ彼らはそれでも合体や魔改造を行うのか。
なぜならば、それはロマンだからだ!
「要様〜、それじゃそろそろ始めましょうか〜」
「了解〜!」
九十九から電話を受け、要はいよいよ合体に取り掛かろうとする。
「……そういえば、私たちがイコンに乗っちゃったら、だれが外から見てくれるんだろ?」
「それに今まで取り付けたパーツも、一旦全部外さなきゃならねえしな。その辺りの指示は誰がやるんだ?」
要とアレックスがそう呟いた時だった。
「それなら私たちに任せてください!」
近くで女性の声が聞こえた。振り向くとそこには葉月 可憐(はづき・かれん)とパートナーのアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)、及び所有イコンである【イーグリット】の【澪標】。そして朝野 未沙(あさの・みさ)とグレン・ヴォルテール(ぐれん・う゛ぉるてーる)のコンビとその所有イコンである【ヴァラヌス】の【{ICN0003020#AFI−DRG}】がいた。
「皆さんで合体イコンという名の組体操をされると聞きました。ですので、現場指示をさせていただきたいと思います」
「整備科に通ってるから、それなりの指示はできるよ。期待しててね」
「組体操どころか本気で合体するんだけど、それじゃお願いね!」
パイロット科と同時に整備科にも所属する可憐とアリスがいれば、合体時の指示もスムーズに進むだろう。
元々彼女たちは「イコンで組体操をやるかも」という噂を聞きつけ、本当にそれを実行するつもりでいた。それもそこら中にいるであろうパラ実生及びパラ実イコンを集めての本当の組体操、ならびにトラックを何台も使用した「トラック砲」の作成という無茶にも程があるものだった。
だが実際に要や九十九たちが合体を行うとなれば話は別だ。本当に合体を行うとすれば、無理にパラ実生を集める必要は無いし、無理にイコンを集める必要も無い。従わない者にはマジックカノンで懲罰をくれてやるつもりでもいたが、どうやらその必要も無さそうだ。
「そんでもって、あたしが合体イコンの溶接を担当しちゃうね!」
「え、溶接!?」
「うん、【アサノファクトリー】から工具も持ってきたしね。簡単なのでよかったらやるよ!」
本来なら「フレイムスロワー」や「プラズマライフル」で溶接を行いたかったのだが、武器はあくまでも武器以外の使い方ができないらしく、自前の工具でやるしかないようだった。
「こ、これは本当にスンゴイことになるかも!」
「……俺はかえって不安だけどな」
これから起こるであろう出来事に期待の眼差しを向ける要、対照的にこれから起こるであろう出来事に不安しか感じないアレックス。
両者の思惑をよそに、合体工事が始まった。
「足に出虎斗羅を使いたいって? 上等だ! 俺の【出虎八】持っていけ!」
「まさかこんな大掛かりなことをやるなんてね! あたしの【移動劇場】も持っていきなよ!」
足の役にはトラックや出虎斗羅が必要だったが、これに夢野久と弁天屋菊の2人が応じた。
「トラックがバラバラに動くと厳しいかもしれないから、今回は2台をくっつけちゃおうか」
「んじゃあ俺の出番かな。出虎斗羅くっつけんなら、パラ実工法、見せてやんよ。……めんどいけどな」
美沙の指示に従い、高崎悠司が2台の出虎斗羅を接合する。【ギガキングドリル】が乗る分、完全にくっつけてしまうのも厳しいものがあるため、ある程度は間を空けておき、間はコンテナの上方に使われていた鉄板を使って橋渡しにする。
「ではギガキングドリル、トラック2台に足を入れてください」
「わかりました〜!」
澪標の中から可憐は、電話で九十九に指示を出す。開いたコンテナ――もちろんコンテナの中は完全に空になっている――の中にギガキングドリルの足が入る。
そこをすかさず悠司は簡単な接合を施した。
「ま、これでそう簡単には外れないだろ」
続いてギガキングドリルは両手のドリルを作動させる。これは両手で他のイコンを突き刺して結合するためだ。
「がははははははは! まさか本気で合体するとはなぁ! それで俺様の【宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢】が欲しいってか! ならば使え! ああ、礼はおっぱい揉ませてくれればいいからよ!」
「生徒会長のお墨付きもらったあたいの【雷弩璃暴流破】が役に立つんなら、遠慮無く使っちゃってよ!」
ゲブー・オブインと御弾知恵子が自らのイコンのエンジンを止め、ドリルがやってくるのを待つ。やがてドリルが2人のイコンを貫くと、ゆっくりとその指を埋めていった。
「これが難しいんですよね〜。下手するとこの衝撃でイコンがバラバラになってしまいますから〜」
イコンが壊れないように、また外れないように結合させていく。
その指が止まると、宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢と雷弩璃暴流破は、完全に合体イコンの「両手」となった。
「よし、溶接開始!」
【AFI−DRG】に乗った美沙とグレンが持ってきた工具で結合部分を完全に溶接してしまう。
「イコン同士の結合だから、本当はイコンでやりたかったけど、しょうがないよね……」
「きゃっきゃ、燃えろー、燃えろー♪」
火というものを神聖なものと捉え、者を燃やすことにためらいが無いグレンが嬉々としてガスバーナーの火を操る。彼女としてはフレイムスロワー全開で辺り一面を燃やしたいところだったが、今回はパートナーの美沙の指示があるため、大人しくバーナーを扱うことにしたらしい。
「では、いよいよメインですね」
「うん、これが無いとどうしようもないよね」
「では【チクワの磯辺揚げ】、【巨大マナ様】、【グラディウス】、協力して上方の整備をお願いします。まずは要様の【離偉漸屠】をギガキングドリルに乗せちゃってください」
「わかりました☆」
「はっはっは! 了解です!」
「オッケー! 任せといて!」
要とアレックスが乗り込んだ離偉漸屠を、3機がかりで頭に乗せる。
「乗ったよ〜!」
要から携帯電話の通信が入り、ここに合体の大半が完成した。
それからは各パーツのセッティングである。あらゆる箇所に武器を持たせ、あるいは接合し、様々なものを重ねていった結果、ここに1体の巨大イコンが誕生した。
そのイコンのパーツ内訳を無理矢理文章にしてみるとこうなる。
頭
↑
天辺にモヒカン型ビームサーベル
すぐ下に喪悲漢ブーメラン
それらは琴音ロボの等身大プラモの頭に乗っている
琴音ロボ前面にソニックブラスター
琴音ロボ背面に外部スピーカー
琴音ロボはちくわサーベルにまたがっている
(サーベルは離偉漸屠のエンジンに接続)
ちくわサーベル内部にアイアンホーン
離偉漸屠の頭の上にちくわサーベル
離偉漸屠ヘッド部分にパイルバンカー内蔵
離偉漸屠前面に小鳥遊美羽プリントのシールド
離偉漸屠背面に小鳥遊美羽プリントのシールド
武装として
右手に鬼刀
左手にマジックカノン
胴体としてギガキングドリル
(重量軽減としてホバーユニット内蔵)
前面にエッチな巨大同人誌
右手部分・宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢、左手部分・雷弩璃暴流破
(スピアとビームランスを接続)(蛇腹の剣を接続)
右足・出虎八、左足・移動劇場
(共に仏斗羽素、試験型パワーブースター装備)
↓
足
「か……、完璧すぎる……!」
誰かがそう言った。
「で、でかすぎるぜ……!」
誰かが唸った。
「こ、これぞまさに……!」
誰かが震えた。
そして、全員が、叫んだ。
「魔改造だああああああああああ!!!」
ある者は物事を達成したという満足感に浸り、ある者は単純に疲れでため息をつき、またある者は拍手喝采で大喜びし、ある者は完成したイコンの姿に大爆笑した。
「すごい! すごいよ、真にーちゃん!!」
「う、うん……。これは、確かに……、すごい、ね……」
イコプラ改造の参考にとイコン魔改造を眺めていた椎名真と彼方蒼はそれぞれのリアクションを見せる。
「は、はは、ははははははははは! すげえ! すごすぎるぞ!」
イコン品評会の姫宮和希は暑さを忘れて、魔改造イコンの姿に大喜びしていた。
「こ、これはなんというか……」
「すごい、ですわね……」
要に「大きさは強さとは限らない」と説教していたリネン・エルフトとユーベル・キャリバーンの2人は、ただただ呆然としていた。
「すげえ……! すげえ……!! 俺、今回の魔改造に参加して、よかった……、ホント……!」
(……確かに、こりゃすごいわ)
猫井又吉は完成したイコンを見て涙を流し、対照的に国頭武尊は冷静な目でビデオカメラを回していた。
そんな時、完成したイコンを前に久が要に迫る。
「おい高島! このイコン、名前は何にするんだ!?」
「え、名前?」
「そうだよ、名前だよ! 合体した後にはそれ専用の名前がいるだろ!?」
「……考えてなかったなぁ」
要はイコンを合体させることについては考えていたが、名前までは考えが至らなかったらしい。
「だったら高島! パラ実2代目総長として命令、いや、頼みだ! 名前、付けさせてくれ!」
「え、名前考えてくれるの? いいよ〜」
「おっしゃあ!!」
この合体劇に久のテンションは上がりに上がっていた。何しろ「ついに高島要がドージェの代理の聖像を作り上げた」――と思っているからだ。
「決めたぜ! 『ドージェ様代理聖像1号』! どうだ!?」
「1号!?」
「これだけで終わるわけじゃねえだろ!? これを基に、2号や3号が生まれたっておかしくねえぜ!」
「……そうだね!」
「いいのか、あのドージェ・カイラスの名前を勝手に使って?」
「いいじゃない、別に!」
かつての神同然の男の名前を使用したことに、アレックスは不安を禁じえなかったが、細かいことを考えないのがパラ実なのだから別にいいのだ。
こうして、今回の魔改造イコンは、夢野久の勘違いを元に【ドージェ様代理聖像1号】と名付けられた。ただし、見た目はドージェとは似ても似つかないが。
そして、お待ちかね(?)の、試運転の時間である。