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リアクション
AM11:35
「すみませーん、これから少しばかり騒がしくなるかと思いますが、訓練の一環なのでご容赦くださーい」
「すまぬの。皆には迷惑をかけるが、これも万博を成功させる為に必要なことなのだ」
「そんなに長い間じゃないんでご協力お願いしまーす」
「……」
紫月 唯斗(しづき・ゆいと)、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)、紫月 睡蓮(しづき・すいれん)、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)の四人は、現在パビリオンの衣装を着て道行く人達に説明をしながら建物の正面をふさいでいた。
プラチナムだけは唯斗の魔鎧状態なので、正確には三人というべきかもしれない。
魔鎧である彼女には、即席で作ったプラカードが背中の部分にに取り付けられている。
書かれている内容は、【現在空京万博警備の実地訓練の一環として、建物内部で要人奪還訓練を実施中です。破砕音や悲鳴などが聞こえるかもしれませんが、その際はご容赦いただけるようお願い致します。また、人が出てきた場合も彼らの邪魔はしないようにお願い致します。恐れ入りますが、皆さんのご協力をご協力お願いします】となっている。
彼女が言う通りに唯斗が作ったのだが、その文面を見れば大概の人は納得して干渉しないでいてくれるだろう。
「のう、唯斗」
「どうした、エクス?」
「その、わらわの衣装はどうかの?」
「どうって?」
「似合っているとか、何か意見はないのか?」
「あ、兄さん、私も知りたいです」
周囲の通行人に呼び掛ける合間に、エクスが唯斗に話しかけた。
睡蓮も便乗して睡蓮に意見を求める。
「うーん、意見って言ってもな〜」
唯斗は上から下まで、まじまじと二人の姿を眺める。
ものぐさな性格なので、ちゃんとした感想を求められてもすぐには答えを返せない。
美人系のエクスと可愛い系の睡蓮。
それぞれに合わせているので、サイズ的におかしなところはない。
後は本人との相性か。
「あの、この音って?」
「うむ。こやつの背中にある看板の通りでな。緊張感を高める為に、実際に会場内で訓練中なのだ」
「万博を楽しんでいるのに申し訳ないんですが、ご協力お願いします」
小さく聞こえる悲鳴や物が壊れる音でを気にした男性に、黙り込んだ唯斗を置き去りにしたエクスと睡蓮が丁寧な説明をしていく。
その男性は、美人と可愛いコンパニオンと話せたことがうれしかったのか、若干満足げな様子で立ち去って行く。
今のところは事態の隠蔽は問題なく行われている。
「それで、どうなのじゃ?」
「どうですか、兄さん?」
説明を終えた二人が、唯斗に結論を促す。
「ああ、二人ともサイズ的には問題ない。ただ、可愛い雰囲気の睡蓮にはちょっと向いてないな。逆に美人タイプのエクスには似合っているとは思うんだが、最初に雅羅さんを見たせいか、何かが足りない気が……」
長考の果てに自分なりの結論を述べる唯斗は、咄嗟に跳び下がった。
目の前を通り過ぎるは光刃の一閃。
見ればにっこりとほほ笑んだエクスが、ちょうど刃を振り切ったところだった。
「ほう、家事万能であるわらわの何が足りないと言うのかの?」
周囲で話を聞いていた男連中の視線が、自然と彼女の上半身に集中した。
「なるほどのう。身体的特徴をもとに女性を比べるような男どもには、しつけが必要じゃな」
その言葉をきっかけにして、唯斗を含む男連中とエクスの鬼ごっこが始まった。
「兄さん、デリカシーが足りないです」
睡蓮のつぶやきが喧騒に紛れて消える。
その隣にはいつの間にか魔鎧状態を解除したプラチナムが、看板片手に立っていた。
AM11:40
建物を挟んで反対側の裏口側には、多比良 幽那(たひら・ゆうな)、アッシュ・フラクシナス(あっしゅ・ふらくしなす)、キャロル著 不思議の国のアリス(きゃろるちょ・ふしぎのくにのありす)の三名が担当していた。
突入時は横手にも人員を配置したが、そこは人一人が通るのがやっとという幅の路地なので、そちらに回る野次馬はいないだろうということで無視している。
「はいはーい、今はこの建物に近寄るんじゃないわよ。怪我しても知らないからねー」
「今はちょっとした訓練を行っているのでな。万博を楽しみたければ近寄らぬ方が良いぞ」
『詳しいことはこの看板に書いてある。興味がある者はこれを見るが良い』
幽那、アッシュ、アリスの三人は、唯斗たちから受け取った看板を建物の塀に立てかけて通行人の整理に当たっている。
先ほどからかすかに漏れ聞こえてくる音が、通行人たちの足を緩めているのだ。
何も知らない第三者からすれば、悲鳴や何かがぶつかり合う音、物が壊れる音などがして、何かのアトラクションでもやっているのかと興味を引く状況だ。
そんな彼らが建物内部に入り込まないようにするのが、エヴァルト・マルトリッツからの依頼だった。
あまりやる気が感じられないかもしれないが、三人揃って現在パビリオンの衣装を着ているので、関係者であるとは信じてもらえるはずだ。
「はいー、そこ近寄りすぎー。訓練の相手はパラ実のモヒカン連中よー。訓練が終わって気が立ってるあいつらに因縁つけられても、責任持てないからねー。あ、でも、その方が面白いかも。やっぱ近くにいてもいいわよ?」
幽那のややS気味のセリフに真実味を感じ取ったのか、そのカップルはそそくさと退散していく。
「はあ、早く終わんないかしら」
「中の様子は我らには分からんが、そう長くかかるものでもあるまい」
『幽那ちゃん、こういうのは時間がかかったら失敗なんだから、待ってればすぐに終わるって』
「それもそうね。こんだけの人数使って失敗なんて、ちょっと恥ずかしくて目もあてられないわね」
この作戦に関係しているのは建物内外合わせて十三人。
これだけの人数を揃えれば、何かしらのイレギュラーが起きない限りは大丈夫だろう。
そんなことを考えながら、野次馬の質問に答えていた時だった。
「おらおら、どいたどいたー! 怪我しても知らねぇーぞぉ!」
爆音と豪快な掛け声をさせながら、パラ実生の集団が裏口から飛び出してきた。
ほとんどの人間が髪型や服装を変えて変装している中、おそらくはリーダーと思われる男だけが蒼髪のモヒカンのまま先頭を走っている。
私も含めた周囲の野次馬が、吹っ飛んできた扉を慌てて避ける。
そうして出来た人垣の隙間を、連中は駆け去って行った。
「あちゃー、救出失敗かー。でも、まだ挽回可能だね」
路地裏から飛び出してきた人影を見つつ、幽那は自分の役目は終わりだと感じていた。
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