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リアクション
二章 緋色の槍使い 前編
ネームレス戦隊の槍使いの討伐を任された戦士達。
槍使いが居座っているという場所に向けて、向かっている道中。
「『ネームレス戦隊』。戦いに明け暮れ、そして死してなお戦いを欲するもの……。それは在りし日の姿で生きる私、『英霊』も同じじゃないのかなぁ……」
憂うような表情で荀 灌(じゅん・かん)は呟いた。
その隣に立つパートナーの芦原 郁乃(あはら・いくの)は、灌の様子に気づいたのか心配そうに声をかける。
「……荀灌?」
「お姉ちゃん。……私はどうしてこの姿でいるの?」
灌は立ち止まり、小柄な肩を震わせる。
荀灌は十三歳のときに、晋末期に大軍に囲まれた宛城をわずかな供を連れ脱出。幾度の危機を越えて援軍要請に成功し、宛城を包囲する大軍を破ったという。
今もそのときと同じ十三歳。いくら大軍を破ったとはいえでも、まだまだ子供。
彼らに自分の姿を投影させて悩むような一人の心優しい女の子なのだ。
(……でも、違うんだよねぇ)
「私はいていいの? 私はっ!」
「――荀灌」
灌の震える体を、郁乃はそっと抱きしめる。それは、姉が妹を慈しむように。
(たしかに、荀灌は在りし日の姿でいるかもしれない。でも、戦いが必要なわけでもない、存在の意味でもない)
「荀灌、あなたは何にも縛られてはいない、彼らにも失礼だよ」
郁乃は出来るだけ優しく、灌に言い聞かせる。
「忘れないで、今のあなたはわたしのかわいい妹。私たちと笑い合い、助け合い、共に生きてる。
少なくともわたしは荀灌が大好きだよ。荀灌がわたしの側にいる理由はそれだけで十分」
抱きしめる腕に少しだけ力が入る。
郁乃の腕から伝わる温もりと暖かい言葉が、灌をひどく安心させた。
「おねえちゃん……ありがとう」
肩の震えは止まり、顔にも普段通りの明るさが戻ってくる。
灌の変化に気がついたのか、郁乃は抱きしめる腕を解き、元気良くゲキを飛ばした。
「今は悩むことより、体を動かすっ!」
「はいっ! 今いきます」
郁乃の後に続き、灌も駆ける。
そこには、確かな絆で結ばれた姉妹の姿があった。
――――――――――
「ここみたいだね。ネームレス戦隊の槍使いがいるってとこ」
緋王 輝夜(ひおう・かぐや)が先頭に立ち駆けた先、広がるのは平坦な場所。
見晴らしは良く、遮るものは何もない。長いリーチを得てとする槍使いにとっては絶好の場所だった。
「ええ、そうみたいですね。……ですが、見当たりませんねぇ。どこに隠れているのでしょうか」
エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が辺りを見渡す。しかし、自分たち以外に他の姿は見当たらない。
エッツェルは不思議に思っていると、不意に輝夜の上空に気配を感じた。
「――おっと、危ないですよ」
エッツェルは輝夜の肩を軽く押し、立っている場所から移動させる。
刹那、輝夜がいた場所――すなわち、エッツェルの右腕に上空から緋色の槍が突き刺さった。
「なるほど、空にいらしたのですか」
突然、空から現れた槍使いの青年に、動じることもなくエッツェルは言い放つ。
腕から流れる血に気も留めず、痛みを感じず余裕綽々と言った風なのは流石アンデッドと言うべきか。
「あなたたちですか。今宵の来訪者というのは」
槍使いの青年はそう呟くと、緋色の槍を横に薙ぎ、エッツェルの右腕を切り裂いた。
そして、バーストダッシュを用いてすぐさま後ろへ後退する。
「おやおや、気づいてらしたのですか。これは、失敗ですね」
片腕を失くしながらも、エッツェルの余裕は崩れない。
それどころか、切られて間もないというのにいつの間にか血は止まっていて、上腕を失くした右腕は自己再生を試みている。
これでは致命傷どころか不意打ちにもならない。と、いうのに目の前の槍使いの青年は悔しそうにもせず、むしろ嬉しそうに口元を吊り上げた。
「なるほど。今回の相手はよほど骨があるように見える。僥倖、一人のヴァルキリーとしてここまで嬉しいことはありません」
そう言って、目の前の槍使いの青年は緋色の槍を構える。
年端は二十歳前後。一見、どこにでもいるような出で立ちの甲冑を纏った青年。
しかし、発する雰囲気は紛れもなく歴戦の英雄と同じ強者のものだった。
「さてさて……『怪物』として彼ら英雄の相手をしませんとねぇ」
切断された右腕は元に戻ったエッツェルは、負けず劣らず不気味に笑う。
「シャレになんない相手みたいじゃん? ……でも、あたしだって結構やるんだからね!」
輝夜はツェアライセンを装着し、意気込んで臨戦体勢を取る。
他の戦士達もそれは同じだった。
「我が名はクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)。ザンスカール家に仕える守護騎士なり。貴公の名はなんと申す」
ウイングソードを槍使いに向け、クレアは相手の名前を問いかける。
不意打ちをしかけてきたとしても相手はヴァルキリーの英雄。同じヴァルキリーとして安息を与えてあげたい。
(そのためには戦場で華と散ることを望んでいる彼らの願いに、私のやり方で答えないと)
クレア自身の騎士道に乗っ取り、戦士としての敬意を表した名乗り。
槍使いの青年はそれに応じ、器用に槍を回し、やがて目前の戦士たちに刃先を向けた。
「称号は緋色の槍使い。名前はレイン・アーヴァインと申します」
月光を浴びて、緋色の刀身が妖艶に輝く。釣られて、戦いに囚われた狂人も笑った。
口元を吊り上げて、目を大きく見開けて。その瞳を赤黒い血の色に染め上げて。
そして、レインは小さく、けれどはっきりと響く声で呟いた。
「 ――楽しい夜に致しましょう」
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