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リアクション
六章 鉛丹の重剣士 前編
「古の英雄と戦えるなんて光栄です! これからもっと自分が強くなるために、一戦、勉強させてください! かなぁ?」
「……かなぁって、何がよ?」
重剣士の討伐を任された戦士達が指定された場所に向かう道中。
寿 司(ことぶき・つかさ)とキルティ・アサッド(きるてぃ・あさっど)が話していた。
「何がって、一騎打ちするときの前口上。言わなければ、相手に対して失礼じゃない?」
「……あのねぇ、寿」
「ここは相手の実力に敬意を表し、策を練って全員でかかりましょう。相手に手加減を求めるなんて失礼ですよ、司ちゃん」
二人の会話に割って入ってきたレイバセラノフ著 月砕きの書(れいばせらのふちょ・つきくだきのしょ)が、キルティの言葉に続けて司に言う。
相変わらずの自分の兄に似た慇懃な言動に、司はムッとしたが確かにそうだと思い直し渋々納得した。
「……分かったわよ」
キルティが肩に手を置いて、落ち込んだ司を励ました。
「まぁまぁ。せっかくなんだ、三人で戦おう」
キルティのその言葉に司は頷き、さっそく作戦を立て始めるのだった。
その三人より少し先を走る、七枷 陣(ななかせ・じん)と仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)も打ち合わせをしていた。
「……で、だ。封印呪縛で磁楠を魔石に封印させておく」
陣の作戦に磁楠は相槌を打つことなく、無表情のままただ黙って聞いていた。
「……で、斬撃に魔石を割らせるよう試みる。……どうだよ?」
「……なるほどな。上手く事を運べよ、小僧」
磁楠のその素っ気ない感想に、陣は額に青筋を走らせながら反発した。
「問題ねーよ。つーか、偉そうに言うなクソ英霊」
「ふん。それだけの見栄を張れるなら問題ない、か……」
磁楠は走りながら、空を見上げた。
漆黒の闇はどこまでも黒い。満月の光が無かったら、道を見失ってしまいそうだ。
「……小僧。少しだけ昔の話をしてやろう」
「ああ? なんやいきなり」
磁楠は語り出す。
戦いのみに明け暮れた、殺伐とした記憶を。
自らの道をいつの間にか見失っていた、壮絶な過去を。
「境遇など諸々全く違うが、私も私が居た世界では。守りたかった者達を失い、狂い、復讐鬼として鏖殺寺院との戦いに明け暮れ。
只ひたすらに駆け抜け、誰かの記憶に残るわけでもなく、無銘の英霊として祭り上げられた道化だったよ。
……彼らの空虚な心情に僅かながらの共感はするがね」
それは、同じ英霊として、彼らに思うことがあったからかもしれない。
「英雄を舐めるなよ小僧。思っている以上に英雄という名は重い。
それだけの道を歩んできた者が、これから小僧が相対する者だ」
磁楠はそこまで語ると、初めて陣と目を合わせ忠告した。
「……偉そうに説教垂れんなクソ英霊」
陣はすぐさま吐き捨てるようにそう反発し、走る速度を上げた。
去り際に、ぽつりと言葉を洩らした。
「一人で戦うわけやない。……他にも戦ってくれる人いるやろうし、問題ねーよ」
その背中を見ながら、磁楠は笑いを零すのだった。
「……フッ、小僧達の紡ぐ絆が、実を結ぶ事を祈ろう」
――――――――――
「貴様らが我の相手か……?」
指定された場所では、鉛丹色の大きな重剣を地面に突き刺し、腕を組んでいる大きな甲冑を纏った隻眼の大男がいた。
「ふむ……古の武人と戦り合えるとは、ワシもツイているのじゃ!」
天神山 保名(てんじんやま・やすな)が御機嫌な様子で言い放つ。
「呵々! お主も死してなお戦闘狂である武人であろう? お互いに名乗りあおうぞ!」
「――ほう、貴様も我と同じ戦闘に囚われた者か。良いだろう、貴様のその意気買わせてもらおう」
保名が拳を構える。と、同時に隻眼の剣士も地面から鉛丹の重剣を引き抜き、構えた。
「――我が名は天神山保名! 白狐神拳の使い手じゃ! 主も名を名乗れい!」
意気揚々と名乗りを上げた保名に続き、低く唸るような声で重剣士は答える。
「鉛丹の重剣士、バルカス・ダイスラー」
そして、一つだけの目を伏せ、ゆっくりと開ける。
赤黒い色した血のような瞳が、保名を見た。
「存分に死合おう。次世代を生きる者たちよ」
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