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リアクション
五章 薔薇の細剣士 前編
細剣士の討伐を任された戦士達は一言も話すことなく、黙々と走る。
それは普段いい加減で大雑把で気分屋と評される、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)も同じだった。
(初めてかもしれないわね。こんな真摯なまでに戦いに臨むセレンフィリティの姿を見るのは)
後ろを走るセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、セレンフィリティの背中を見ながらそう思った。
セレアナ自身、今回の戦いを前にしたセレンフィリティの行動には驚いたものだった。
(……これを提案したのもセレンフィリティなのよね)
久しぶりに着たシャンバラ国軍の制服に目を落としながら、セレアナは思う。
普段着である水着を封印し、今回二人はシャンバラ国軍の制服を着用していた。
セレンフィリティいわく、この場に相応しい装いらしい。
その提案をした時に言ったセレンフィリティの言葉も思い出した。
(狂気からの解放と散華することが名もなき英雄の望みなら……望み通りの死を捧げましょう)
目の前を先に走る公私にわたって欠くことのできないパートナーの後を追いながら、セレアナは思う。
(今回はセレンフィリティを見習おう。私も戦士として、英雄たちへの最大の敬意を表すために、手加減なしで戦いを挑もう)
そして、そう心に誓うのだった。
――――――――――
廃墟と化した遺跡の中。そこで唯一、壊れることなく昔と同じ形を保っている古い大聖堂。
そこの焼け焦げた大きな十字架の前で、一人の美しい小柄な女性が綺麗な鎧を纏い立っていた。
「ふむ。貴公らが私の相手かな?」
薔薇のように鮮やかな色をした片刃の細剣を、たどり着いた戦士たちに向けて質問する。
「……ええ、そうです。色々と聞きたいこともありますが、言葉よりも互いの剣で語り合うのが一番でしょう」
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は一歩前に出て、二対のカタールを装着する。
そして、その一対を細剣士の女性に向けた。
「英雄の強さ……学ばせて貰います!」
ザカコの力強い言葉を聞き、細剣士はゆっくりと目を閉じた。
「……そうか、では話が早い。さっそく死合おうか」
厳かに語る女性は、次に目を見開けると、先ほどとは違う赤黒い瞳で戦士たちを見た。
「私の名はフローラ・アインハルト。生前は薔薇の細剣士と呼ばれていた一剣士だ」
フローラの名乗りに、全員に緊張が走り各々の武器を構える手に力が入った。。
しかし、そのなかで唯一違う反応をした者が一人。
「フローラ・アインハルト……?」
エリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)はその名前に違和感を感じていた。
何故か聞き覚えのある。それは、とてもとても重要なことに思える。
エリスは頭をひねり思い出そうとするが、なかなか思い出せなかった。
「何やってんだ、おまえ! 敵が目の前にいるってんのにッ!」
しかし、エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)の叱責でエリスは我に返る。
(……確かにそうね。エヴァの言うことがもっともなのは悔しいけど、今はそんなこと考えてる場合じゃない……)
「……分かっているわよ、うるさいわね」
「んだと!? せっかくこっちが注意してやったってんのに、その反応はあんまりだぜっ!」
敵を目前に控え、喧嘩し出す二人のパートナーに頭を痛めながら桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)は仲裁に入った。
「はいはい、エリーにエヴァっち。今は喧嘩は止めて相手に集中しないと」
煉に諫められ、渋々喧嘩を止める二人。
そして、三人してフローラの方に顔を向けた。
「……腹は、決まったか?」
「ああ、おかげさまで。悪いな、みっともないとこ見せちまって」
フローラの問いに煉は肩をすくめながら答える。
それを聞いたフローラは両目を瞑り、ゆっくりと開ける。
その瞳は赤黒い血の色をしていた。
「さあ、参ろうか」
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