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リアクション
七章 血染めの狂戦士 前編
「……やっぱり、こっちのほうがいい気配がしやがる」
白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)は副隊長を討伐する戦士達から離れたところで、ひとり呟いていた。
彼が頼るのは己の勘。幾多もの修羅場を戦い抜き、鍛えられた百戦錬磨の勘がこちらの敵のほうが、血に塗れた戦士であることを告げていた。
竜造にとって忘れられた英雄の救済などどうでもいいこと。求めるは強者、欲するのは激闘だけだ。
(華々しさもねぇ血の汚濁に塗れたブチ殺しあいのなかでくたばらせてやるよ――英雄)
獲物を見つけた猛獣に似た獰猛な笑みを浮かべながら、竜造は舌なめずりをした。
――――――――――
「狂った魔力が増したせいか……。反動が……結構、辛いな」
グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は苦しそうに呻きを上げる。
その額に浮かぶのは大粒の汗。顔は青白くまるで病人のような色をしていた。
「大丈夫かよ、グラキエス。どうも使ってない魔力が、こう……体の中に溜って悪くなった? そんな感じで具合悪いんだろ?」
隣を走る友人のロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)が心配そうに声をかけた。
「発散し終わるまで体がもつか、厳しい所だが……」
グラキエスの表情に影が差す。
それは、気がかりから生まれた不安のせい。
「……心配すんなよグラキエス。俺だってケダモノ化したりするから、異常事態には慣れっこだ。妙な事になっても、俺が助けてやるからな!」
グラキエスの苦しげな表情を見て、ロアがタフな笑みを浮かべる。
その二人のやり取りを見て、グラキエスのパートナーであるアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)とロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)も声をかける。
「主をお助けするのはロアだけではありません。私は主の敵を屠る槍にして、主の御身をお守りする鎧! 主よ、私をお使い下さい! 主のために、私は存在しているのです!」
アウレウスは胸に強く片手を当て、グラキエスに恭しく礼をした。
「エンド、私は君が大切です。ドゥーエが君を兄として守るように、私もこの姿を頂いた者として、君の元で生まれた魔道書として、君を守りたい。私達を傷付ける事を恐がらないで、もっと私達を頼って下さい」
キープセイクはまるで息子や弟を見る慈しんだような目で、優しく言い放った。
(ロアが心配するなと言ってくれると、不思議と安心できる。……そうだ、キースも、アウレウスもいる)
グラキエスは三人に目をやった。
自分にはこれだけ心配をしてくれる仲間がいる。
(――きっと大丈夫だ)
それだけで、さっきまでひどかった胸の痛みが、不思議と治まったような気がした。
――――――――――
副隊長が居座っているという指定された場所には、一人の少女が立っていた。
顔立ちは可憐で、肩で切り揃えられた金髪の髪は凛々しさを感じさせるヴァルキリー。
しかし、その首から下が異様だった。
血で出来た斑模様の甲冑に身を包み、背中に背負うはこれまた血で染め上がった身の丈ほどの大剣。
両方、元々は白かったのだろうか。赤と赤の間から見える白き装飾が、血の模様の異常さを引き立てていた。
「あなたたちが、わたしの相手をしてくれるの?」
清廉な声が静かな荒野に響く。
透き通るようなその声は、戦士達の耳元にまでよく響いた。
「……ああ、そうだよ」
刀真が白く光る刀を抜き出し、構える。
他の戦士達も各々の武器を抜き取り、臨戦体勢に入っていた。
「……そう。そうなの」
どこか寂しげな表情で呟きながら、彼女は大きな瞳を閉じた。
「君の名前を教えてくれ、墓標に名を刻めないのは困るからな……」
刀真の問いに彼女は目を閉じたまま答える。
その言葉にはどこか諦めに似た感情が含まれているように思えた。
「……わたしに勝てるの?」
その問いに刀真は答える。
白の剣を彼女に向け、力強く言い放った。
「……勝つさ、お前達がこれ以上自分を裏切らせないために」
「そう。……じゃあ、わたしの名前を教えてあげる」
副隊長の少女は、双眸をゆっくりと見開ける。
血が結晶化したような赤黒い瞳が戦士達を見つめた。
「血染めの狂戦士、エレン・ブライトクロイツ」
背に抱える大剣を抜き差し、眼下の戦士たちに向ける。
それはあまりにも巨大で、分厚く、剣と呼ぶには鉄の塊のようなものだった。
「ああ、あなたたちは本当にわたしを殺してくれるのかしら……」
エレンのその言葉を聞いた神条 和麻(しんじょう・かずま)は、ひどく悔しそうな顔をした。
(どれほどの戦場を巡り歩いたのだろうか、どんな思いで戦い続けていたのだろうか……。真意は俺には全ては分からない………ただ、これだけは言える)
和麻は三尖両刃刀を両手で握り、エレンに届くよう大きな声で言い放った。
「その悲しき思い、その全てを俺が……俺達が断ち切ってやる。だからあんたは、そんな悲しい事を望まなくていいんだ……ッ!」
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