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リアクション
~ 段取り5・Are you ready? ~
段取りや役割が決まってからの流れは、稽古込みで前以上にスムーズに進んだ
一度鑑賞や体験で経験とイメージが積まれれば、無駄なロスがなくなる
加えてヴァイシャリーの多くの市民団体の協力も迅速で、宣伝活動やPRも順調に進み
気が付けば、とうとう本番当日になったのである
「レナさん!たこ焼き注文新たに追加です!ネギ3つとからし2つと……え~とえ~と」
「醤油味6セットにドリンク付がうち2つ、あとマヨネーズ多めが4つ、わさびのせが2!聞いてるから大丈夫
オッケオッケ~!まかせてフレイちゃん!料理は好きだから、一生懸命作ってたくさん売るよ~!」
「はわぁ……流石です、これが繁忙の屋台は戦場という意味なのですね」
レナ・メタファンタジア(れな・めたふぁんたじあ)のたこ焼き屋が板についた立ち回り方に
思わず感嘆のため息をつく、手伝いのフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)……これでも一応忍びの頭目の娘である
とはいえ、販売ブースはどこも盛況しているようだ
今回グッズ販売を一手に引き受けた霧島 春美(きりしま・はるみ)の方も大層な行列と人だかりだが
先見の明で大目に商品を用意しておいたらしく、トラブルは起こってないらしい
……そう考えると、探偵のスキルというのもどこでどう役に立つかわからないものである
「……でも繁盛なのはいいんだけど、このままだとショーの方を見に行けるかなぁ
フレイちゃんもお仲間さんが出演するんでしょ?」
「ええ、前回に続いてアリッサちゃんだけでなくポチの助も参加するそうなので
私も働きながら精一杯応援致しようと思ってるんです」
「あははは~、働きながらは無理じゃない?だってステージの方を見てられないから」
「……………はっ!?そういえばそうですね……どうしましょう?やっぱり私ステージは」
「今仕事放棄してトンズラしたら、ニンジャさんでも容赦しないからね」
言葉と同時にたこ焼のキリをザクザクと湯気を上げるたこ焼きに突き刺すレナ
それを見たニンジャさん・フレンディスが文字を具現化したようにガクブルしているのを見ていた春美が笑って答えた
「大丈夫よ、本番始まったらみんな見るのに集中するから
どちらか一人が店にいれば平気だと思うから二人で交代しながら見に行けばいいと思うわよ
どっちも、パートナーの出番の時間は知っているんでしょ?」
「「…………………………………………………………………………じかん?」」
「………ノーチェックってわけね。ねぇそこのADさぁ~ん!」
首を傾げるレナとフレンディスのリアクションに呆れる春美
すぐさま、客席状況の確認目的で目の前を通過すしていたADこと榊 朝斗(さかき・あさと)を呼び止める
「あ、進行表?コピーがあるから持って行っていいよ、はい」
事情を聞いてすぐさまコピーを渡すと、そのまま彼は観客がごった返しているアリーナ入場口に移動していった
遠巻きながら誘導に奮闘しているコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)や結崎 綾耶(ゆうざき・あや)の姿がみえるあたり
前以上に来場者数は多いのかもしれない
せめて見に行く時は彼等の邪魔にはならないようにしようと心に誓う売り子3人なのだった
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「お待たせ!………で、何この状況?」
一方、売り子3人とのやり取りを終え、客席警備班の所に急ぎ駆けつけた朝斗だが
何とも言い難い光景にとりあえず眼を丸くしてみる
その反応も、さもありなんといった風情で状況を説明する杜守 三月(ともり・みつき)
「あ、いや、連絡したとおり迷子なんだけどね
ちょっと自覚が無いままなっちゃったというか、運営スタッフが原因というか」
「にゃ~!にゃにゃにゃにゃぁぁぁぁぁ!」
三月の言葉に抗議する傍らのちび あさにゃん(ちび・あさにゃん)
その傍らに立っている少女が件の迷子らしいのだが、迷子という割には妙に落ち着いて理知的である
「だって可愛いお人形さんが落ちてたから届けないとって思ったんだもの、ちっちゃい物には優しくしないとでしょ?」
「にゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
子供ゆえの直球な意見に涙目で抗議する人形ことあさにゃん
恐らく落ちてたわけじゃなく仕事していたんだと言いたいのだろう……仲間ながら不憫に思う朝斗である
だが、とにかく開演の時間は近いので、今は迅速な対応が要求されるのみである
「そうだね、でもそのお人形って実はお兄さんの大事な仲間なんだ、もう僕たちもいるから大丈夫だよ
でも困ったな……あと少しで開演だから僕もステージに移動しないといけないし」
「こちらも、今から開演後少し経つまでは客席誘導が優先だから、ついていてあげるのが難しいんです」
朝斗の言葉にアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)も困った様子で事情を話す
基本的にこの集客数を少数精鋭で誘導できているだけでも凄い事といっていい
しかし迷子は一番の子供イベントのトラブルの可能性……対応が後手だったのが悔やまれるとみんなが考える中
不意に横から幼い声が朝斗達に呼びかけた
「ワタシ、この子についていてあげてもいいよ」
驚いてみんなが声の方を向くと白星 カルテ(しらほし・かるて)が佐野 悠里(さの・ゆうり)と共に一部始終を見ていたらしい
子供二人のみという珍しい図というのもあり、アデリーヌが思わず二人に問いかけた
「カルテちゃん、切り札さんはどうしたんですか?悠里ちゃんも一人みたいですし……」
「悠里はお母さんにデジタルビデオカメラでの撮影を頼まれてるの」
「撮影、できるの?」
三月の言葉にフンと軽く息をついて答える悠里
「悠里だってそんなにうまいわけじゃないけど『見たい場所を見たいように撮って欲しいですぅ』と言われただけだから」
「ワタシはママのかつやくをやっぱりみたかったから……
どうしようとおもってたんだけど悠里がいっしょにいてあげるっていってくれたの」
「あ~、そういや切札さん早々に確保されていたっけ……」
カルテの言葉に、ちょっと前の顛末を思い出して苦笑する朝斗
彼女の保護者である白星 切札(しらほし・きりふだ)は、数日前の強制勧誘にあい参加が決まっていたのである
切札としてはカルテと二人で鑑賞をするために、会場の確認に来ただけなのだったが
前回の乱入(しかもワザワザ変身するという丁寧さ)の前科を見た面々がその姿を見て戦々恐々とし
また本番当日に同じ轍を踏む位なら、最初から無理矢理参加させた方が安全……ジャッジを下されたのだった
まぁ切札としても、カルテにいい所が見せられるなら問題ない(むしろ絶対参加)という方向だったので交渉は上手く行ったらしい
とにかく出演者に縁のある子供たちが手伝ってくれるのなら心強い
「じゃあ、とりあえず開場が落ち着くまでお願いしますね、すぐに戻って来ますから」
女の子をカルテ二人に任せ、再び会場誘導の作業に入るアデリーヌ達……開演まで残り一時間であった
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「うん……こんなものかな?」
更衣室にて、渡された衣装に袖を通しながら仁科 姫月(にしな・ひめき)が鏡に写った自分の姿を見る
大所帯なので、彼女の様に実際に衣装を着るのが当日の面々が多い状況の中
全体をゴシックロリータ調にあつらえた衣装にとりあえず満足げの様子に衣装担当の赤坂 優衣(あかさか・ゆい)は一安心
衣装サポートのエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)がうっかり稽古期間の際
『レオタードなんか渡されたら叩き付けて出演ををキャンセルしてやる』
……などという過激な言葉を姫月から聞いたらしく、二人で戦々恐々としていたわけで
とにかく【可愛い】で攻めてみた自分の選択に間違いがなかった事実に、内心拳をぐっと握る優衣である
もっとも、一番そこで責めた衣装を着せたかったパートナーの忍には、ついぞ逃げられ続けて本番になってしまったのだが
「武器も【大剣】だし、問題ないわね。ありがと!じゃぁ暴れてこようかな」
小道具の武器の具合を確かめながら、優衣に礼をいい姫月は更衣室を後にする
ステージ裏へ続く通路にはすでに準備を終えた成田 樹彦(なりた・たつひこ)が待っていた
姫月の格好を見て、何やら一瞬止まった様子だが山羊の髑髏の意匠を取り込んだ仮面に隠された顔からは様子が読み取れない
らしくない僅かな無言に、彼女が眉をわずかに寄せるとようやく仮面をぐっと顔上に持ち上げて樹彦が口を開いた
「……そのスカー丈は何とかならなかったのか?」
「うっさい!いきなりセクハラ発言って意味わかんない、このバカ兄貴!」
「バっ……!?お前、言うに事欠いて何を」
「これから本番だってのに余計な事考える人に優しくなんてできないもん
それより段取りも役もちゃんと頭に入ってるの、お兄ちゃん?
あんまり稽古に参加できなかった組みとしてはミスは許されないんだから……私たちの名前は」
「あ、ああ……お前が【ダークプリンセス】俺が【スカルロード】だったな」
「そ、お兄ちゃんは台詞ないからとにかく派手に魔法演出でサポートしてくれればいいの
殺陣はもう頭に入ってるんだから、簡単でしょ?」
「台詞が無いだけ楽だな……ところで、俺はお前の台詞もキャラも、まもなく本番だってのに何にも知らないんだが」
樹彦の半ば非難めいた言葉に、僅かばかりにニヤリと笑う姫月
すぅ~っと息を吸い込むと、面白そうに台詞の一端を口に出す
『さあ、このメス豚ども、おとなしくブヒ~と鳴きなさい!鳴かないなら私が鳴かせてあげるわよ』
「………は?何だその台詞は」
「だって襲撃設定、お兄ちゃんに色目使った正義のヒロインに鉄槌を下すキャラだもん」
「イヤ待て、なんだ、そのふざけた襲撃理由は!いくらなんでも……」
「この手の悪役はスケールの大きい野望の割りに目的は個人的なことが多いのよ
それに、私にとっては一番の戦闘理由だもん……それ位、その格好イカしてると思うわよ……その、私的にも」
最後らへんの言葉は半ば小声でゴニョゴニョと聞き取りづらくなった姫月のコメント
……実は最初の無言が、彼女の格好に可愛さを感じて言葉に詰まっていたという事実な樹彦としては、不意の言葉に赤面してしまい
なんとも微妙な空気が二人の間に流れる結果になってしまった
無理矢理、ツンの空気で打破してやろうか……と、姫月が思ったのだが
辿り着いたステージ裏の賑やかさに上手い事かき消されたようだ
どうやら目の前には、本日の主役となりかかっている翠髪の少女が多くの仲間に囲まれているようだ
状況と気持ちをリセットするべく軽く咳払いをひとつすると、姫月は愛しの兄に勝気な笑顔で手を差し伸べるのだった
「じゃ、頑張るわよ、お兄ちゃん」
「そうだな、ひとつ宜しく」
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