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蒼空ヒーロー大戦・歌姫アイドルRimix☆

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蒼空ヒーロー大戦・歌姫アイドルRimix☆

リアクション

 
〜  段取り4・レッスン!レッスン!レッスン!  〜
 
 
 「どうよエリス!?今のはコンビネーションばっちり!手数のミスも無かったぜ!」
 「全然ダメ!ダメダメ!予定の尺より2秒早いし、サビのスネアの駆け上がりに三人の攻撃をあわせるとこが合ってない!
  もう一回やり直し!よ〜く曲を聴いて動いてよね」
 「え〜またかよ、もう20回目だぜ……少し休ませろって……」
 
学園内の稽古用に用意されたトレーニングルームの一角
匿名 某(とくな・なにがし)武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)と共に最終場の大殺陣を稽古していたヒーロー役の一人
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、出来を見ていた藤林 エリス(ふじばやし・えりす)の容赦ないダメ出しに文句をもらす
相手役の河上 利秋(かわかみ・としあき)も含め、実戦では歴戦の戦士レベルの面々の殺陣は十分に迫力がある
……だがそれだけでは成り立たないのが今回のショーというか。ミュージカル的演出の肝なのである
 
 「だから何度も言ってるじゃない!?
  殺陣や動きが良いだけじゃダメなのよ、今回は歌と音楽が重要なんだから!
  その盛り上がりとリズムにちゃんと殺陣や芝居があってないとダメなの!しかも今回は生歌なのよ?
  どっちもちぐはぐだと、見てる方もどっちに集中すればいいのかわからないでしょ、ぼやぼや言わない!」
 「……ちぇ、この前はノリと勢いで普通に押せたんだけどな、曲に合わせて微妙な芝居も合わせるってハードル高いぜ」
 
ぼやきながら、最初の立ち位置に戻るエヴァルトを某がたしなめる
 
 「まぁ、こういう華やかなのは傍で見ることはあっても一緒にやる事はないからな、女性陣を尊敬するよホント」
 「……男でもノリノリでやってるやつもいるけどな」
 「う〜ん、巽はほら……ヒーローと名がつくものには研究熱心だから」
 
苦笑する某と共にエヴァルトが見る先には、くるくるとヘッドスピンを決める風森 巽(かぜもり・たつみ)の姿がある
ダンスするヒーローというのも普通、前代未聞なのだがどうやら彼のデーターベースには存在していたようで
嬉々としてあのようにブレイクダンスを決めている……だが
 
 「巽……そこで8拍(ワンエイト)廻るのはいいんだけど、そこで止まると上を跳んで通過できないのよ
  上か下、どっちかを空けてくれると跳ぶか潜るかしてくれると助かるんだけど
  ほらアレ、最近やってる指輪つけた仮面のヒーローがやってる蹴ったまま宙返りするのとか出来ないの?」
 「【フォーリア】?……できなくもないけど、アレってダンスじゃないぞ、舞香
  【XMA(エクストリームマーシャルアーツ)】って言ってだな……」
 「似たような動きを【カポエイラ】で見たことあるわよ、あれってダンスと格闘技の融合でしょ?じゃ大丈夫だって」
 「はいはい、りょーかい」
 「お二人とも話し合いはOK?じゃ早くやろうじゃん?」
 
相手役の桜月 舞香(さくらづき・まいか)の要求にボヤキを入れながらも
巽はフルフィ・ファーリーズ(ふるふぃ・ふぁーりーず)の促しで、再びダンスアクションの練習を再開する
なんだかんだ言いつつ、しっかり軽技をこなしフルフィの軽快な動きに対応しているのは流石といったところか
前回の演出兼舞台監督の模範的な動きに自分達の稽古の再開を促され、お互いに目を合わせるエヴァルトと某
その様子を面白そうに武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が見ながら二人の肩をたたいた
 
 「まぁとにかく練習あるのみって事だな、お二人さん
  音楽抜きのガチの殺陣は、お蔭様でちゃんと前半と中盤に盛り込めたんだから良しとする事にしよう」
 「ああ、牙竜が脚本に提案したあの案か……確かにああいうカードって滅多にないからな、某」
 「そうだな、流れと勝敗は決まっていたとしても、武闘会以外であの空賊連中や猫娘とガチでやりあう事はないからな」
 
部屋の片隅でにゃーにゃー叫びながら小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と打ち合わせをしている噂の二人
リネン・エルフト(りねん・えるふと)超 娘子(うるとら・にゃんこ)の二人を見る男衆三人
そこに待ちくたびれたエリスの靴やらドリンクボトルが続けざまに投擲されす
すぱこーん……と頭に当たる軽快な音が3連続でトレーニングルームに響き渡った
 
 「ああもう!むっさい男が雁首並べて、女の子見て微笑んでんじゃないわよっ!そんな暇あるなら練習練習!ほら時間がない!」
 
約一名を覗き、どちらかというとパートナーの尻に敷かれていない面々
某と牙竜の二人ががへーいと言って従うのも稽古ならではの風景であるかもしれない
そんな連中を見ながら、れやれと腰に手を置き息を荒く吐くエリス
……ふと隣を見ると冷静さ全開の通常運転で利秋が立っている
 
 「あんたは全然動じてないわね……大丈夫なの?」
 「まぁ役所的に色々思い出すのものはあるが問題ない、みんなが楽しめるなら俺はそれでいい」
 「あ、そ。じゃ、ちゃっちゃと始めましょ」


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 「うんうん、さっきより低音のハーモニーがよくなった感じかな?
  あと真逆だけど、時々高音の伸びにばらつきがあるかな、多分動きが激しい所だから個人差がでるのかもね」
 「でも予定のアクションを変更したくはないんですよね
  もし流れとの兼ね合いで動きに変更が出るなら、曲目を変えた方が良いですかね?」 

打ち込みの音源と共に、自分の演奏を確認しながら歌パート全体を見ているのは琳 鳳明(りん・ほうめい)
今回は演奏と歌唱というバックフォローを申し出た彼女のコメントを聞きながら神崎 輝(かんざき・ひかる)が相談を持ちかける
パートナーの一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)や今回は悪でなく正義側を選択した綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)とあわせ
戦いながら歌うという事にチャレンジする事になったので、実際動きながらユニゾンを確かめているのである

輝の進言にう〜んと腕を組んで考え込む鳳明
そんな彼女に藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)がタブレットに表示したセットリストを見せながら、筆談で進言する
 
 『流れがメドレーで、一度退場があるから息は整えられるはず……このままで無茶はないと思う
  だから決まってるアクションを繰り返す中でブレスの箇所を確認すれば、もう少し落ち着いて声が伸ばせると思うよ』
 「な〜る、じゃあ【口パク】の必要もないってわけね」
 「当たり前です!【846プロダクション】の一員として、しっかり歌を届けて踊りとアクションも見せるんです!」
 「マスターの言うとおりです!アイドル活動久しぶりなので、とても楽しみなんです〜!練習あるのみですよ!」
 「はぁ……鳳明さんだけでなく、輝さんも瑞樹さんも同じ所属なのはわかるんですけど……ハードル高いわよ〜
  少し休ませて……もう……合わせるので精一杯というか、なんというか」

意気揚々とする輝と瑞樹の傍で、何度も一緒に繰り返し練習しているさゆみが座り込んでぼやく
だがそんな言葉も、アイドル活動に慣れた面々には通用などしない
案の定、そんな彼女の背中をバンバンと叩きながら、鳳明が元気良く声をかけた
 
 「な〜に言ってんの、さゆみさん!
  役を決める時『子供達にあきらめない心を伝えたい』って言ってたじゃない!そんな本人が今から泣き言いっちゃダメダメ!
  それに、この時代の先輩として大役のヤクモさんにもちゃんとしたとこ見せてあげないとね」
 「ああ、今回初参加の機晶姫さんだっけ……そういえば彼女の姿が見えないけど?」
 「あ、それはね……海さん、海さぁ〜ん!お〜〜〜い!」
 
さゆみの言葉に、鳳明は今しがた稽古場にやってきた高円寺 海(こうえんじ・かい)に大声で呼びかける
杜守 柚(ともり・ゆず)と共にMCの練習に来た彼だが、鳳明の問いかけを聞くと扉の外を指して返事をかえした
 
 「ヤクモなら静香さん達と音楽室で歌合せしてるよ
  ようやく楽曲も決まったから、引っ込み思案同士でじっくり練習しないとって事だって」
 「なるほどね、じゃあこっちも負けずに頑張らないとね!」
 
気合と共にベースを持ち直す鳳明、演奏と同時に音源が再び鳴り響く中
輝と共に瑞樹とさゆみも再び練習を開始するのだった
 

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さて、そんな話題に上がった音楽室では
前後逆にした椅子の背もたれに両肘をのせ、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が今聴いた歌の感想を述べているところだった
 
 「うんうん、3人とも音域の幅も含めていい感じだったよ!
  まぁ私個人としてはもう少し目立つ位華やかな方がいいんだけどなぁ」
 「それはルカも同感なんだけどね、姫の二人がなかなか進んで前に出ないわけですよ
  ……っていうか、なに静香サン?そのルカをねっとりと射抜くような恨めしげな目線は?」
 
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の言葉に美羽が彼女の目線の先を覗くと
顔の大部分を譜面で隠しながら、恨めしげな目線をルカルカ達に向けている桜井 静香(さくらい・しずか)の姿があった
 
 「……脚本を担当するって話は了解したよ、確かにボクも覚えてる
  けど、一体何がどうなったらボクが出演までする事になったのか、わけがわからないんだけど!」
 「わからなくないよぅ、ルカが出した希望は最初から静香さんとヤクモと3人で共演して歌う事だったんだから
  脚本といっても、全員の意見を優先してまとめるという作業な以上、却下するわけにも行かないでしょ?
  上手い事、美羽やアイビス、リネンの意見をバランス良くまとめたのは脚本家サマの偉業じゃない」
 「【光のプリンセス】が双子な設定まではわかったけど、そのうちの一人が自分なんて知らなかったもん!」
 「ま〜ま〜、ほらほら、主催者として女らしい模範を見せないとってラズィーヤ様も言ってたじゃない?」
 「なんで彼女だけ『様』なんだよぅ」
 
比較的様々な垣根を越えて人と接する事が好きなルカルカだが
明白なヒエラルキーには忠実なあたり、そこは天下のシャンバラの軍人様なのである
一方そんな国軍大尉と学園長の賑やかな様子を見つつも、もう一人の姫君役……瀬織津 ヤクモ(せおりつ・やくも)は無言である
 
といってもこっちには抗議も反抗の欠片もなく、単純に『イッパイイッパイ』に楽譜に首っ引きなのであるが
まぁ、勢いで参加を決めていざ蓋を開けてみたら、天下のVIPと共演なわけだから無理も無いのかもしれない
譜面片手に先程の伴奏を頭の中で反芻しながら、それでも時々遠い目をする彼女の姿に
傍らで様子を見ていたアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)は声をかける事にした
 
 「ヤクモさんも大変ですね、いきなり歌姫として出る事になるなんて
  もう後に戻れないみたいだしやるしかないって感じでしょ?でも不安だったら言って下さいね
  一緒のパートの時はしっかりフォローしてあげますから、何より大事なのは……」
 「楽しむ事、ですよね」
 「うん、みんなに楽しんでもらう事が一番!ヤクモさんにその力がある事はアイビスが断言しますから」
 
同じ色の髪と瞳を持つ同族の彼女の力強い言葉に、思わず照れるヤクモ
だがアイビスも決して勢いや優しさのみで言っているわけではない
彼女が目覚めてから、この世界で生きることを決めたあの歓迎会の夜……
彼女を迎え入れる仲間達の祝福の歌声にあわせ、彼女が歌ったあの姿……そしてその声は
今でもその場に居た者の心に鮮やかに焼きついている

それはまだステージなどで人に魅せる事を知らない、人が生きていく中でともにある歌
誰もが幼いころに喜びや悲しみとともにあった歌。そんな皆の記憶に触れるような歌だったからこそ
皆は彼女とともに歌うことを……そしてステージに共に立つことを強く望んでいるのかもしれない
 
そんな彼女の練習風景
つたない調べに身を委ねるように、窓から見える樹には数羽の鳥がそっと枝に止まっているのだった