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リアクション
~ 段取り1・ とにかく話し合ってみようじゃないか! ~
窓から見える空には雲一つなく、昼の陽気が部屋にまで差し掛かるのどかな午後
誰もがのんびりと校内活動に励む穏やかな時間を想像する中、蒼空学園のとある会議室は真逆の安穏の空気に包まれていた
会議という形式ではお約束である、長机を『ロ』の字に囲み多くの者が手元の資料を黙々と眺める中
進行席に座る高円寺 海(こうえんじ・かい)は、この無言な空気を打開するべく軽い咳払いとともに話を進める事にした
「え~……とりあえず、今見てもらった手元の参加者および希望ポジションの一覧を見てもらったんだけど
何か気になる事がある人はいるかな?……特にこの部分においては前イベント参加者の人の意見を求めたいんだけど」
「……前にも増して女性参加者が多いなぁ」
海の言葉に、即座に答える風森 巽(かぜもり・たつみ)
彼の一言を合図に、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)新谷 衛(しんたに・まもる)の発言が続く
「まぁ今回はアイドル的なミュージカルが主体って銘打ったわけだし、当然といえば当然じゃないかな?」
「確かにねぇ、熱い展開より華やかなステージとなると、それを持ち上げたいっていう人も少なくなるか
戦闘員希望が少ないから数で賑やかす展開も難しいかもね
逆に女の子の参加者は多いし、予想通りアイドル活動なんかしてる子も今回は多いでしょ?
静香が言ってた通り、やっぱりプリティでキュアキュアな方向で押していくからカラーは違うかもしれないわね」
「そこなんだよ~、前は力技の展開……つまり演者の技量でものを言わせることが多かったけどさ
今度は華やかで音楽も考慮した舞台転換を考えないといけないんだよな……前の蓄積があまり通用しないわけさ
ま、一からやりゃいいんだけどさ、俺は燃えるし」
キャストの参加人数や男女比などの意見が挙がる中、話は前との内容の比較に話は進む
とはいえ、流石に前回の大掛かりなイベントに関わった者たちだけあり、指摘の的確さは確かなわけで
その光景に感心する桜井 静香(さくらい・しずか)なのだが、隣で黙っている海は微妙な沈黙を守っているようだ
そんな中心人物二人の様子とはお構いなしに、机を挟んで会議参加者の話は続く
「そういやコハクは客席スタッフ希望だけど、今回は写真販売やらないんだね、なんで?」
ルカルカの言葉に、両手を広げて返答するコハク
「まぁ前回あんまり売れ行きもなかったってのもあるんだけど
逆に今回はアイドル的内容だと混雑しそうでね、逆に撮影自由で個人に任せたほうがいい気がするし
前回の反省で、客席の混乱やケアのほうが大事かなぁと……こういうのって大きいお友達も来るじゃない?」
「確かに、出店やグッズ販売は前と変わらずそろってるから大丈夫といえば大丈夫か
でもさぁ、確かにアイドル系の場合は全員の出演バランスに気を使うかよね
ちょっとの出番だけなんていたらクレーム来そうだし、その分、印象に残る演出もしないといけないんでしょ
……照明だけでなく特殊効果、前より気を使うよね」
「その点は今回は俺が関わるから気にするな、タイムテーブルさえ効率よく組めば大丈夫だ」
二人のやり取りにダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が加わる
途端、悪戯っぽい笑みを浮かべるパートナーのルカである
「随分と手慣れた意見じゃない?大丈夫なのダリル、こういうショーイベントって関わった記憶がないんだけど?」
「お前の気まぐれな活動に何度付き合っていると思ってるんだ?対応力ならもう養ってある
ところで……ついでと言ってはなんだが、海……この表を見て一つ気が付いたことがあるんだが」
パートナーのからかいを手慣れた調子で躱し、海の方に向き直るダリル
念のためもう一度表を確認し……慎重な口調で、気になっていた核心に迫る問題点を口にした
「………このイベントの演出と脚本、誰がやるんだ?」
その一言に、別の話で盛り上がっていた衛達も時が止まったように黙り込み……シーンという静寂が会議室を支配する
だが、進行としては一番待っていた言葉だったのか、ようやく海がため息とともに口を開きはじめた
「……やっと気が付いてくれたかい?
出演や裏方の希望はうまいこと配置できてるんだけどさ、肝心な話を考える人がいないわけなんだよ
そこを決めないと、どうにも希望があったって話を進められないわけさ」
再びはぁぁ~とため息をつく進行係・海
その様子に今まで衛の隣で話を聞くだけだった林田 樹(はやしだ・いつき)が巽の方に視線を向けた
「そういや、そこの仮面ナントカは今回は裏方でないな……前回の経験があるんだし、またやればいいじゃないか」
「……いや、あんな何度も倒れるようなポジションはもういいデス」
前回、演出と舞台監督を務めた様々なことを思い出したのか、苦い顔をして断りを入れる巽
その反応に、ともに裏で奮闘したステージ担当の衛が口を尖らせて抗議をはじめる
「なんだよ、あれだけ盛り上がる展開や進行ができたのはお前のお陰だったんだぜ
前みたいなトラブル続きには今回はならないと思うし、いいじゃん今回もやれよぅ」
「いやいや、今回はちゃんと出演に全力を注ぎたいんだって!
そもそも、この前担当したのだっていつものスーツがメンテ中だったからなんだよ?
それに熱い話なら何とか考えられそうだけど……プリティなのは無理だから!」
にべもない抵抗に、え~と抗議を入れる前回参加者達
しかしそれに動じない位に巽の決意も固いらしく、そうなっては強引にやれとも言えない
第一、そんな風に無理やりやらされて面白いものができるわけないのは誰もがわかっている事なのである
仕方なしに、再びキャスト希望のリストを見ながら樹がブツブツと思考駄々漏れのつぶやきを始めたようだ
「まぁ……確かに目玉は華やかな歌と踊りを交えてのステージだしな
人手が少ないなら考えなくもないが……音響希望としては前以上の仕事が多いだろうから……絶対に無理だな」
「まぁ演出は、最悪みんなで何とでもなるとしても、シナリオは必要よね
華やかさも理解して、ステージも進行含めて見慣れていて、女の子が喜ぶ要素に長けている人が一番なんだけ……ど?」
樹の言葉に続き、腕を組んで考えていたルカルカの言葉がふいに止まる
何となく彼女の言葉を聞いていた面々も、何か思い当たる節がありおもむろに視線を動かし始める
そして、奇しくもそのすべての視線が自分に集まっている事に気が付きつつも、未だに理解が追い付いていない人物が約一名
当企画主催者が一人、百合園女学院が校長、桜井 静香その人である
「……えっと?あの?……ふぇ?」
事態の理解より、全員の視線が自分に収束してる事態に彼女が戸惑うなか
逆に周囲の表情は、灯台の下に隠れていた宝物を見つけたかのようにみるみる輝いていく
「そうだよ、百合園なんかそういう女性的演出の宝庫みたいなものじゃん!そこの校長様ならお手のものだよな!」
「それに百合園の生徒でアイドル活動してる生徒って多いはず、そういう生徒からネタだって拾えるし!」
「いい事言うねコハク君!まさに俺にはないジャンルに相応しい!また違う色が出て新鮮な事間違いないって!」
衛→コハク→巽と弾丸のような意見の同意パスワークが繰り広げられるなか、ようやく本人も事態を理解したようで
湯沸し器のように蒸気を頭から噴出させながら、今更ながらにパニックに陥り始める
「まままま、待って下さい!そんないきなり無理だってボク!
確かに色々学園のイベントで見慣れているけど、見るのと書くのは大違いなのは解るでしょ!?」
「いや、むしろ目が肥えてるからこそ俺達が気がつかない所も考えられる可能性のほうが高い
俺達で今からイベントの勉強をしようにも、百合園は男子禁制だし第一時間が惜しい」
「ダリルさんまで!?いやそんな説得力に溢れた言葉で言われてもっ
ねぇ何とかいってよラズィーヤさん!さっきから黙ってるって事は同意してないって事でしょ?ねぇ!?」
面子の中で参謀ポジションに近い人物にまで太鼓判を押されかかり
慌てて静香は部屋の片隅に座って見守っているパートナー……ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)にSOSを出す
しかし、そういう事には高確率で助け舟を出さないのがこの実質学園トップ様
愛くるしいパートナーの必死な眼差しと目が合った途端、黙して涼しげだった表情を輝かせてニッコリと眩しく微笑み返した
彼女達と付き合いの浅い者が見れば、慈愛溢れた救いの笑顔が交錯する、パートナー同士の微笑ましい瞬間に見えるだろうが
現実はどうやら真逆のようで、その笑み返しを受けた静香の目は逆に絶望に染まり何やらガクガクと震えて始めた
一方、当の慈愛笑顔の主はその様子を満足げに見守った後、穏やかに容赦のない言霊を静香に放つ
「いえ、寧ろわたくしも皆さんのご意見に同意ですわ、静香さん★
やはり戦う女性の何たるかが今回要求される以上、我が華の園の頂点に立つ者が見守っているだけと言うのも無粋というもの
それに……我が校が今回も話を持ってきた以上、求められるのなら責任を通すのが校長の務めというものじゃなくて?」
「嘘だ……絶対面白がってるだけだ、いつもみたいにボクを見て楽しんでいるんだっ!」
「あら当然でしょう?楽しいものこそ舞台の必須条件ですから、楽しむ心なくしてイベントは成り立ちませんわ♪」
苦悶の声と共に投げられた必死の抗議もあっさり打ち返され、すっかり『orz』を体で表現する静香
どうやら拒否をする事は不可能らしく、実質的な百合園ヒエラルキーを目の当たりにした数人が同情の眼差しを彼女に向ける
「ま、まぁ流石に丸投げもアレだから最終的にまとめてアドバイスしてくれるのでいいと思うよ、ね?ダリル」
「コハクの言うとおりだな、とにかく希望配役をシナリオで消化する事は一人では無理だろうし、こうやって話し合えばいい
とにかくヤクモにやって欲しい希望ポジションが自由過ぎだ、そこを何とかするのが先だ」
「音響・ステージ・客席担当はほぼ前と同じ面子がいるからそこは任せてくれればいいさ
リハーサルまでの段取りも一度ショーを見てるから大体わかる、それ程手間にはならないぞ」
「……み、皆さんがそうおっしゃるなら、何とかボク頑張れそうです」
コハクに続いてのダリルと樹の後押しで、それでも何とかやる気を奮起した静香に安堵する海及び会議参加者の面々
そのままあーでもないこーでもないと資料片手に談義が続く中、ダリルは意味深な笑みを向けるパートナーに気がついた
「……どうしたルカ?そんな笑みを向けられると嫌な予感しかしないんだが」
「そんなんじゃないよぅ
まさかダリルがヒーローショーを手伝ってくれるなんてってね。実は子供好きとか?」
「子供に愛情は感じない。この経験でヤクモの精神が安定すると思えたからだ」
「じゃあヤクモには愛があるんだね」
「何故そうなる」
子供じみたひやかしを一蹴しながらも、ダリルはヤクモの資料を束の中から引っ張り出す
ここまでの経過を思い出しながら、彼なりの考えを誰ともなく口にしはじめる
「雅羅の助力もあって学園に馴染んでいるようだがな
お前みたいな面々と仲良くしている以上こういう表舞台は避けられない
だったら全員が手助けできるこういう場だって必要だろう?だから反対なんてしない代わりにケアをするだけだ」
「……出来すぎなフェミニストなのもつまんないなぁ
ところで……その当のヤクモはどうしたの?会議だけでなく校舎でも見当たらなかったんだけど?」
「ああ、それはだな……」
ルカルカの言葉を聞きつけ、海が困ったような顔で返答する
「突然の出演参加で戸惑っていたところに、共演希望のラブコールがあまりに多くて許容範囲を超えちゃったらしい
目下、【天の岩戸】なのを雅羅含めた何人かが説得してる最中なんだ」
「……あっちゃぁ、それで蒼空の主催様がいなかったわけか、じゃぁ美羽も?」
「うん、何せいつもの調子で『一緒に目立とう!』って張り切ってたみたいだから」
コハクの苦笑交じりの返答に、そっかぁと頷きながらも他人事でいられないルカルカは困ったように頭を掻く他ない
……何を隠そう、彼女自身もヤクモに配役込みでラブコールを送った一人だったのである
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