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リアクション
「とにかく本番になっちゃったけど、いつものヤクモさんなら大丈夫」
「お姉ちゃんの言う通りだよ!私、お姉ちゃんと一緒に頑張れってお席で応援してるからね!」
「ありがとうございます、詩亜さん、玲亜さん」
客席からエールを送りに来てくれた川村 詩亜(かわむら・しあ)川村 玲亜(かわむら・れあ)に両手を握られながら
笑顔で礼を言う瀬織津 ヤクモ(せおりつ・やくも)……だが、その表情に緊張の色は消せないでいるようだ
「ヤクモさんやみんなの活躍、しっかり悠里ちゃんにビデオに撮ってもらってますよ〜
素敵なところを、みんなで見せましょう、ね?ヤクモさん」
「あ、バカこら、そんな言葉はヤクモみたいなのには逆効果だってルーシェリア」
佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)の続けざまの言葉に慌ててフォローを入れる大谷地 康之(おおやち・やすゆき)
案の定、予想外のハードルに顔色が変わるヤクモである
「え?ビデオ!?……そんな、記録なんてっ」
「だ〜いじょうぶ、ヤクモはみんなに歌を聴いてもらうことを考えればいいんだから!
楽しい事や嬉しい事は、一生懸命やればちゃんと感じられるよ、私はそれをヤクモに感じて欲しいんだ」
「……美羽さん」
わわわとパニック寸前のヤクモに、背後から抱きついて励ます小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)
かわらずの彼女の元気さがヤクモを落ち着かせる中、ルーシェリアがやや落ち着いた口調でしっかりと話を再開する
「……このステージが皆さんの力で成功に持っていけたなら
このビデオを編集して、病気で入院してたりしてステージを見に来ることができなかった子供達の為に
病院や施設で上映会を開いてあげたりできればと思うのですぅ……その為の記録なんですよ、ヤクモさん」
「……あ」
「そういった子達がビデオを見て、
自分も見に行きたいから元気になるという形に持って行ければと思うですぅ
そんなみんなの為に頑張ろうって思えば、緊張なんてしていられない……でしょぅ?」
「………そう、ですね……そうです、うん………」
ルーシェリアの言葉に、自分の胸に手を当てながら、何が一番大事かをヤクモは再確認する
隣には無言で頷くアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)の姿がある
少しずつ落ち着いていく自分の機晶石の波動を確かめる彼女の背中を、大地が元気良くポンと叩いた
「大丈夫、なんかあっても皆助けてくれる! もちろん俺もだ! なにせダチだからな!」
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(よかった……ヤクモ、なんとかなりそうだな)
「そんなに見守って……もしかして天樹ちゃんヤクモちゃんに気があるのかな?
ふむむ、これは私も張り切らないと………イタッ!」
ステージ袖のそんな様子を遠巻きに見守りながらほっと安堵する藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)
その様子をニヤリと見て呟く琳 鳳明(りん・ほうめい)の頭をボードで、ぱこ〜んと叩く
【面】でなくやや【角】が含まれた一撃に、頭を抑えながら抗議する鳳明
「うぇぇ……天樹ちゃんがどんどん素行不良になっていくよぅ」
『バカな事いわない、彼女がやりたい事に向って頑張ろうとしてるんだから、手伝うのは友達の努め、違う?』
「違いません、そうだね……うん、友達だもんね」
精神感応(テレパシー)での天樹の言葉に彼女なりに納得する鳳明
何だかんだ言って【友達】というワードに一生懸命になれるあたり、パートナー同士似たもの同士なのかもしれない
そんな二人の様子と、遠くの一幕をニヤニヤと交互に見ながらシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が面白そうに呟く
「あれが噂の蒼空学園のニューフェイスか、こりゃ随分な気に入られ様だな、オレ達もバッチリ推してやらないとな…!
サビク、台本あわせと皆の戦闘スタイル、必殺技のチェック……」
「ほいほい。だいたいわかった」
「……待て、お前ひょっとして今台本見てる?」
「実況ってのはライブ感覚が重要だからね、ショーとはいえ生モノなんだから空気を読めばいいよ
それに、メインで喋るのはシリウスでしょ?ボクはつっこ……もとい解説メインだからさ」
シリウスの疑問にパラパラと傍らで台本を捲りながら、しれっと答えるサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)
そこに諸注意などの前説を終わらせたMC担当の高円寺 海(こうえんじ・かい)と杜守 柚(ともり・ゆず)が戻ってきた
海はともかく柚の微妙な表情を、シリウスが不思議に思って覗き込む
「お、どうした柚?噛んだか台詞飛んだかしたのか?」
彼女の質問に頬を膨らましたまま首を振る柚
その様子に海が困ったような、それでいてやや面白いものを見たような表情で説明を始めた
「いや、柚はちゃんとやっていたよ
ただホラ、外見が観客の子供達とそう変わらないじゃない?子役が大役を頑張ってるように見えたらしくてさ
子供から頑張れって逆に応援されちゃって」
「子供達よりちょっと背は高いんですよ!それなのに客席から三月ちゃんも笑いをこらえて見てるの丸わかりだし!」
「いいじゃねぇか、親近感持たれた方が子供ってな話を聞くぜ?なめられたわけじゃねぇんだから」
「それは、そうですけど〜」
納得がいっていない様子の柚の頭をわしゃわしゃと撫でながら、フォローしてるつもりのシリウスである
口を尖らせた柚だが、文句の先は意気揚々と出番の為にかけつけた佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)に阻まれた
「いやぁ〜素敵なMCでしたですぅ〜
柚さんの話に返事をする子供たちの声が裏まで聞こえてきたですよ〜、私も頑張らないとですぅ〜
……あれ?どうしたんですか、柚さん?」
「………もういいです、次お願いします、ルーシェリアさん」
ぷいっと拗ねたように素っ気ない(本人的に)柚の返事と、その様子に笑いを堪えている海やシリウス、サビクの3人
そんな彼女達にスタンバイの確認をするために榊 朝斗(さかき・あさと)がやってきた
「4人とも、間もなく5分後に予定通りに本番開始だけど準備はいいかな?大丈夫ならオペレータールームに連絡するよ」
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「朝斗君から連絡、キャスト・MCとも準備はOKだって。そっちは?」
「効果装置と照明はOKだ、音響が問題ないなら予定通りいつでもいけるぞ」
氷狩 るう太(ひかり・るうた)と共に機材チェックが終わったダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の返事に
緒方 章(おがた・あきら)は頷くと音響席の方に移動する
こちらはパートナーの林田 樹(はやしだ・いつき)が担当しているので、聞かれなくても段取りが順調なのは把握済みなのだが
彼女の前に立っているステージ担当の新谷 衛(しんたに・まもる)の後姿から、何やら緊張感が漂っている
その切実な空気にのんびりと介入するのは間違いと判断した章は、そっと衛に小声で話しかけることにした
(どうしたんだい?機材や段取りのチェックは事前に終わってるはずだよね?)
(あ、いっちー……ああ、その点は問題ないんだが……予想外のエマージェンシー発生って奴……ほら)
目の前の樹に気取られないように、そっと指をさす衛にしたがい、その先を見た章の顔つきから笑顔が消える
樹の目の前のミキサーの傍らには……なぜかマイクが置いてあった、しかも高性能のボーカル用コンデンサーマイクである
その光景と妙に上機嫌で鼻歌を歌いながら、曲目リストを覗いている樹の姿
その段階で、マイクのある理由は明白なのだが……ここまで来ると、確認した方が今後の対策も立てられるというものだ
「……あの、樹ちゃん?ソレ何?」
「ああ、このマイクか?私が舞台効果として【恐れの歌】とか歌ったりしてみたら面白そうだとおもってな」
「NO!歌唱 KNOW!影響!ダメダメ樹ちゃんそれは絶対やっちゃダメだから!」
「そうか?色々遊びどころがあった方が楽しいのはこの前のでわかったから、やってみたほうが……」
「あっきーの言うとおりだぜ!ダメ、ゼッタイ!例え音響効果だとしてもヤンナイデ、ゼッタイ!」
「あ、そう………歌っちゃ…駄目…なのか?わかった…音響監督に専念させて頂こう」
衛も加わっての意見にやむなく提案を却下する樹
しかし、マイクを目の前から下げたのはいいが線は抜いていなかったり
『少しならば歌っても良かろうに……』などとブツブツいっている辺り、寸分も気は抜けない
(あー、あぶねー…あっきー、ちょっと今回気ぃ抜けねぇな)
(…そうだね。樹ちゃんは音響効果担当だけどさ…何かの時はあのマイクの配線だけでも、ぶった切り宜しく)
(おういえー)
コソコソと衛と密談を終える章……とりあえず、パートナー兼夫としてはメンタル面でもっとフォローしないといけないと思い
歌唱から気を逸らせるべく、樹に改めて強引な話題を話しかける事にした
「しかし宣伝効果もあってお客さんも盛況だねぇ、樹ちゃんが体を張った甲斐があったってもんじゃない?」
「な!?……章、なぜそれを!?」
そう言って章が目の前に突き出した写真の己の姿に顔面蒼白になる樹
そこには笑顔を引きつらせながら【ボンテージ系女敵幹部服】を着用してビラを配っている樹の姿が写っていた
歌の事などいっぺんに吹き飛んだその様子と、相変わらずの反応にやや調子に乗った風情で話を続ける章
「そりゃバカラクリ…もといジーナの力作衣装だもん、自慢げに感想を聞きに見せに来てくれたよ」
「あのバカ……ったく、何で私がこんな格好をせにゃならんかったのだ?」
「体を張ってまでみんなの為に頑張るのが樹ちゃんでしょ?パートナーとして尊敬してますって
じゃぁ僕も改めて【樹ちゃんエナジー】を貰っちゃおうかな」
「な…kwんねがじjwk…アキラーっ!」
「ハイハイ落ち着いて、とりあえず出演者の小道具の確認は……」
「もう終わったわよ、3人とも」
言うや否や、樹の頬にキスをする章
赤面した彼女が思わず配線が繋がりまくったパソコンを掴み上げようとしたところに、至極冷静な声がかかった
そこにはタブレットを団扇の様に眼前で扇ぐ雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)の姿があった
「相変わらず林田家の皆様がお盛んなのが確認できたところで、そろそろ本番を開始していいかしら?
こちら雅羅、オペレーターチェックは無事完了、あと3分後にキュー出すから各スタッフ・キャストは宜しくね
それじゃぜ前半パート……盛り上げていくから宜しくね」
自分達の痴話っぷりに慌てる樹をよそに、意気揚々と持ち場に着く衛と章
ダリルやるう太達も遠くからOKサインを出している……後はもう時間を待つだけだ
全員が雅羅のカウントを待つ中……時計を無言で見つめていた雅羅が、通信機を片手に決戦の合図を出す
「本番10秒前!………5・4・3・2・1……音よろしく!」
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