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リアクション
アルバ・フレスカ(あるば・ふれすか)の主催する隠し芸大会の開催される横で、
藤林 エリス(ふじばやし・えりす)は、
アイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)と一緒に、
他の人達の出し物を肴に、料理を楽しんでいた。
「そういえばあんたって別の未来から来た未来人なのよね……。
もうすぐ年明けだけど、考えてみればあんたにとっては
前に一度経験した年がまた来るだけなのよね。
『新年』って言うのもなんか変よね。
『旧年再度明けましておめでとう』とでも言えばいいのかしら……?」
エリスの言葉に、アイリは答える。
「そうね。この世界は私のいた世界とは違っているから、
普通に『新年』でいいんじゃないかしら」
「そっか。なら、いいわ。
『新年』もよろしくね、アイリ」
「ええ、こちらこそよろしく」
エリスに、アイリが微笑んだ。
そういえば、と、エリスがアイリに訊ねる。
「新入生として一年過ごしてみて、どう?
ちょっとはこっちの世界にも慣れた?」
「ええ、おかげさまで。
驚かされることも多いけど、平和なのが一番よ」
「そういえば、あんた夏休みもずっとこっち居たけど
帰省とかしなくていいの?」
今が冬休みなのにふと気づいて、エリスが訊ねる。
「ていうか、もう元の世界には帰らないつもりなの?
それとも、帰れない、とか……?
この時代ですら余興でタイムマシンで遊ぶ奴がいるくらいなんだから
まさか帰れないなんて事無いと思ってたけど……。
家族とか恋人とか、大事な人、向こうに残してきてるんじゃないの?
会いたいと思わない?」
アイリは、直接は答えずに、穏やかな笑みを浮かべた。
「……ごめん、立ち入ったこと聞いたわね。
いいのよ、無理に答えなくっても」
エリスは、フォークで料理をつきさしながら、言った。
「ただね。
あんたは地球とパラミタが戦争を続けている世界から来たって聞いてるけど、
こっちの世界だって結局ここ数年ずっとパラミタ内で戦争続きで内戦状態だし、
本当に来て良かったって思ってるのかしら?
って思ってさ……」
エリスの疑問に、アイリは、迷いのない瞳を向けた。
「契約した未来人は元の世界に戻れないの。
でも、私はそのことを後悔していない。
この世界で正義の魔法少女として戦うことが、未来を救うことにつながると思うわ」
そして、と、アイリは付け加える。
「皆、頑張ってるし、戦いも、もうすぐひと段落つくと思う。
そのために、もうひと頑張り、ね」
「そっか」
エリスは少しほっとしたように言った。
「ああもう、辛気臭い話止め止め!」
エリスは、いきなり大声を出した。
「みんなー、アイリが一曲歌ってくれるってー!」
「え? ちょっと」
「ほら、アスカと一緒に一発披露してきなさい!
リリカル魔法少女コスチューム着ればリリカルソング♪使えるでしょ☆
何の歌でもいいわよ。
歌ってきなさい♪」
エリスのパートナーのアスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)とともに、
アイリはステージへと押し上げられる。
「は〜い! みんな盛り上がってるぅ?
革命的魔女っ子アイドル、あすにゃん参上☆」
アイドル用ハンドマイクを手に、アスカがポーズを決める。
「景気付けに私も一曲ー!
アイドルかくし芸大会ー☆ ぱふぱふぱふー♪」
会場からわっと歓声が上がる。
「んー、でも、ただ普通に歌っても面白くないよねー?」
アスカが、アイリにウィンクを送る。
「実は私、歌より踊りの方が得意なんだよ☆
なので、今年天御柱学院に転校したのを機に覚えた
コサックダンスを披露しちゃいまーす!
え? 天学とどういう関係がって?
だって天学はロシア系入ってるんだもの、
天学生にとっては一般教養だよー★」
「え、コサックダンス?」
アイリがきょとんとして言う。
「というわけで……アイリちゃん、何か歌ってー♪
大丈夫! どんな歌にだって合わせて踊ってあげるから☆
んー、実に革命的だね☆」
「……わかったわ。
【魔法少女アウストラリス】、ロシア民謡を歌います!」
覚悟を決めて、アイリが宣言した。
かくして、アスカのコサックダンスと一緒に、
ロシア民謡を歌うことになるアイリであった。