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リアクション
風森 望(かぜもり・のぞみ)は、
アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)とともに、忘年会に参加していたが。
「年の瀬の過し方と言えば、ザ☆コタツ!ですわ
時間的には少し早いですが、コタツで年越しソバを啜りながら、
ミカンを剥いて食べるのが、日本の伝統!」
望のパートナーのノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)は、
立食パーティーにもかかわらずコタツを持ち込んでいた。
「まぁ、立食パーティーとはいえ、立ちっぱなしでは疲れる人も居ますでしょうし、
いいんじゃないですかね、コタツがあっても休憩所的な意味合いで」
「そうじゃな。
……それにしても、ここだけ浮いておるのう」
「ちゃんと畳も用意しておりますのよ!」
ノートが、百合園女学院に根回ししていたために、畳も設置されていた。
「まったく、お嬢様は。
……それにしても、みなさん、ここぞとばかりに愛を告白していますね。
さっきのミーナさんの告白はどう思われます、アーデルハイト様」
「うむ。まだまだ若いのう。初々しくてかわいらしいな」
コタツが、大告白大会などの余興の審査員席っぽい雰囲気になっていた。
「まあ、私はわざわざ叫んで告白する事も無いですからねぇ」
望が、運んできたシャンバラ山羊のミルクアイスを食べている、
アーデルハイトをみつめながら、ぼそりとつぶやく。
「バレンタインやら、クリスマスやら、誕生日やら……誰かへ思いを伝えるのに、
きっかけが欲しいという人もいますでしょうし、
きっかけが何であれ、それでくっつくのなら遅いか早いかの違いでしょう」
「ふむ。たしかにな。
やがては、しかるべきところに落ち着くのが、恋愛というものじゃ」
アーデルハイトが、うんうんとうなずいている。
「私は、アーデルハイト様となら、愛人でも二号さんでも構いませんけどもー」
アーデルハイトは、突然の望の言葉に、アイスを噴き出した。
「な、何を言っておるのじゃ!」
「いえいえ、本音ですよー、本音。
今は部下とかメイドとしてぐらいでしかお役に立てず仕舞いですが」
これもコタツの魔力なのか、ダラダラしつつ、
つい、思っていることもどんどん言葉に出ているようだった。
「あ、望。オレンジジュースと食べ物幾つか取って来て下さいません?」
ノートが、そんな望とアーデルハイトの微妙な様子に気づかず、空気を読まない発言をする。
「お嬢様はもういい年した大人なので、そろそろ自立とかして下さい。
もう当主継承まで何年もないんですから」
望は振り返りもせず、アーデルハイトの方を向いたままで言った。
「あなた、わたくしのメイドでしょう!?」
「自分でジュースや食べ物くらい取って来れないと、立派な当主になれませんよ」
「当主になるのに使用人を使っていけない理由がわかりませんわよ!?」
「ああ、聞こえませんねー」
「大晦日だと言うのに、いちいち突っかかってきますわね、望!?」
ちょっといい感じになっていたのを邪魔された望の腹いせかもしれなかった。
「まあまあ、コタツは狭いんじゃし、ケンカするでない」
「はい、アーデルハイト様」
「望……」
露骨に態度を変える望に脱力するノートであった。
「まぁ、今年一年色々ありましたが、
来年も宜しくお願いいたします、アーデルハイト様」
「うむ、よろしくのう」
「愛人の件もご検討よろしくお願いしますね」
「……じゃから、それは」
いい笑顔でにこにこ言う望に、アーデルハイトは押され気味になっている。
黒さ割増しの今日、望はなんとなく調子がいいのかもしれない。
「ああ、まぁ、お嬢様も一応」
「本当に、来年は宜しくお願いしますわよ、望……」
あからさまに、適当に付け加えられたノートが、またしてもがっくりと肩を落としながら言った。