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リアクション
「やはり、塔部を破壊するより他には無いか」
イコンラルクデラローズのコックピットにて。リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)は同乗するララ・サーズデイ(らら・さーずでい)に言ったつもりだったが、
「しかし、そうなるとやはりあの砲撃をどう抜けるかが鍵になってくる、か」
これにも何の反応もない。ララは未だにイコン「ギルガメッシュ」のパイロットをエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)に取られたことを根に持っていた。
「口上も考えてあったのにっ!」
「口上?」
「乳と蜜の流れる地カナンの守護者にして輝ける黄金の騎士ギルガメッシュ、豊穣と戦の神イナンナの剣となりてザナドゥの野望を打ち砕く者なり。この生命の輝きを恐れぬのなら、かかってこい!!」
完全にワールド・インして高らかに言い切ったララは実に清々しい顔をしていたが、まあよく最後まで聞いていたリリは、
「残念だったな、ララ。だが、ギルガメッシュはその強大さ故、誰が乗っても大して変わらないのだ。我等は我等に出来ることを探すのだよ」
と言って優しく肩に手を置いた。「長い」とバッサリ切らなかったのはリリの優しさである。
とにもかくにもこの直後、二人は自分たちがエレシュキガルに近づくためにギルガメッシュに盾となってもらおう、などと考えたようだが、その時にはすでにギルガメッシュは塔部への特攻を仕掛けている所であった。
ギルガメッシュのパイロットはエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)、そしてパートナーのゲルヴィーン・シュラック(げるう゛ぃーん・しゅらっく)である。
「この虫けら共がァーーー!!!」
ゲルヴィーンが何か叫んだが、無視するとしよう。
「任せろ、策はある」
機体の外、『ジェットドラゴン』に乗るレン・オズワルド(れん・おずわるど)が言った。奇跡的なタイミングだったが、決してゲルヴィーンの言葉を聞いて返したわけではない。
「これ以上、機体を傷つけさせはしないぜ」
レンはギルガメッシュの前方に回り込み、そして『タービュランス』を唱えた。
ギルガメッシュの全身を覆うほどの風は起こせなくても、対象が『ジェットドラゴン』ならばどうにか可能だった。
周囲に起こした乱気流が壁となり、ギルガメッシュに迫る砲弾を防いでゆく。
「うぉおおおおおお!!!」
砲弾自体の強度は弱い、それは乱気流の壁にぶつかっただけで爆発を起こすほどに脆く弱い。故にレンの『ジェットドラゴン』はその爆風を、また時に砲撃を直接に受けてしまっていた。
「ぐぅっ………………まだ……まだぁあああ!」
それでもギルガメッシュを塔部に辿り着かせるために! エヴァルトに最高の一撃を放つ瞬間を作り出すために!
「行けぇええ! エヴァルト!!」
「ふぅうううううん!!!」
爆撃の中、乱気流を盾にするも屍となった『ジェットドラゴン』を越えて、ギルガメッシュが『黄金の剣』を塔部に突き立てた。
「くらえ!!」
エヴァルトの狙いはここから。剣を深く突き立てたままに、塔内部へビームを発射する。
爆音と破砕音が塔内部から聞こえた。そのまま二度三度とビームを放射し、四度目、四発目を放とうとした時だった―――
目前、塔部壁面から大量の砲穴が現れた。
「なっ!!」
ほぼに零距離砲火。それもこれまでの砲弾ではなく、『レーザーライフル』にも似た比較的細めのビームが、視界を埋め尽くす程の砲穴から一斉に機体に向けて放たれた。
「ぐぁっ……ぐぅっ」
脚部、腰部、そして肩部の装甲までもが次々に貫かれてゆく。
「今のは痛かった……イタかったぞォオオオオオオオオオオオ!!!」
ゲルヴィーンがまた言った。使い所は間違っていないのだが、まぁ無視するとしよう。
このままでは―――
「ぐぉおおおおおおお!!!」
渾身の力、最後の力を振り絞って。『イコン用ナックル』を装備した拳で、塔部を殴りつけた。
拳撃が塔部の表面装甲を砕いてみせた。しかし攻勢はここまで。直後に受けた集中砲火によってギルガメッシュは力無く散り、そして落下していった。
「そんな……」
間に合わなかった。
大破、そして落下してゆくギルガメッシュの様を見て、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は言葉を失った。それはイコンエレシュキガルに同乗するニンフも同じだった。
衝撃のなかで生まれる絶望と怒り、それこそが『クル・ヌ・ギ・ア』の引き金となった―――
「動け……動け! お願い動いて!!」
「ニンフ君?!!」
機体が大きく揺れた。そして次の瞬間には金縛りにあっているかのようにリカインは指一本動かせなくなっていた。
「ちょっ……何よこれ?!!」
自身に起きた異常、しかし異常はそれだけではなかった。
漆黒の銃と盾を手にビームを放つエレシュキガル、しかしその動きは明らかにこれまでとは異なっていた。その場で旋回しながらに、また大きく飛びながらに放つビームはどこを狙っているようにも見えなかった。
「ニンフ君! ニンフ君っ!!」
「ダメです! どうしても動きません!」
そう言うニンフの手は嵐のように動いている。機体を操っているのは間違いなく彼女、しかしその体は破壊と殲滅を
命じるエレシュキガルの邪志に乗っ取られていた。
「……見事です」
蘇芳 蕾(すおう・つぼみ)が漏らした言葉に、
「あぁ。………………って! 感心してる場合じゃない!!」
蘇芳 秋人(すおう・あきと)は慌ててイゾルデをエレシュキガルに向けた。
あれが『クル・ヌ・ギ・ア』。塔部からの砲弾もビームも防がずに、盾さえもビームを放つ武器として扱っている。
漆黒の銃に加えて女性機らしい胸の膨らみからもビームを出している。決して艶めかしい光景ではないが、その一発一発は確実に塔部装甲を貫いていった。
「…………というより、やはり見境無く、なのですね」
「あぁ冗談じゃない。蕾、シールドは行けるかぃ?」
「もちろんです……『エネルギーシールド』展開します」
確かに塔部は破壊している、しかしこのままでは味方機を巻き込み、撃墜してしまうのは時間の問題だろう。
『クル・ヌ・ギ・ア』が矛ならば、自分たちが盾となる。皆で無事にこの戦いを終わらせるために。
このままでは……。エレシュキガルの躍動は正に戦神の如し。しかし、コックピット内に居るリカインは誰よりも恐怖を感じていた。
「ニンフ君! ニンフ君っ!!」
必死になって呼びかけているが、彼女の手は一向に止まらない。そして何よりリカイン自身も自分の体を動かせないでいた。自由に動くのは唇と舌だけ。
「きゃぁあああああ!!!」
大きな爆発が機体を揺らした。爆煙の先、塔部に巨大な穴が空いているのが見えた。砲口ではない、エレシュキガルが壁面を破り空けたもののようだが、エレシュキガルはそのまま内部に顔を、そして体を入れて乗り込もうとしている。
「ちょっと待って!! そんなことしたら―――」
足を踏み入れた直後から再びにビームの乱射を始めた。確かに内部を激しく損壊させているが、次に大きな爆発が起これば―――
「ニンフ君っ!!!」
カプリ。
ニンフの頭に『トラの毛皮』が噛みついた。リカインのパートナーである空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)が忍ばせておいた式神化した『トラの毛皮』がここでようやく働いたようで、
「はっ!! 動く、動きます!!」
痛覚が呪縛を解いた。
「ニンフ君っ!」
「はいっ!!」
塔内部を崩壊させる程の大きな爆発が起きたとき、正に間一髪、エレシュキガルは塔から外に飛び出した。
塔壁に空いた砲口からは爆炎や爆風が次々に吹き出し、爆発は止むことなく連なってゆく。そして間もなく空中都市の崩壊が始まった。
巨大な円柱である塔部はメイシュロットの空中に浮かせる機関も兼ね備えていたようで、そこが破壊された今、ゆっくりと地に向けて落下していった。
爆発にのった破損塊やら壁部やらが大量に地に落下する中、イコンギルガメッシュとエレシュキガルも力なく落下してゆく。エンキドゥ、イゾルデ、ラルクデラローズが空中で受け止め、衝突を防いだが、どちらも機体は大破しており、自力で飛行することすら叶わなかった。
どれも満身創痍ではあったが、契約者たちのイコンは一応に無事であった。死者も無し、それでいて見事に目的は達成した。
衝突の瞬間、ザナドゥの地が大きく、縦に揺れた。
空中都市メイシュロットが地に落ちた。防衛機構は当然に全壊。舞い上がる粉塵さえ収まったなら、陸路からの侵入も十分に可能なことだろう。
メイシュロット戦線は、ここから更に激しさを増してゆく―――
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