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リアクション
●ザナドゥ:メイシュロット付近
浮遊要塞メイシュロット。
それは、一見すれば、かつて地上にあった街がある日突然巨人の手によりえぐり取られ、空中に据えられたかのような姿をしていた。
周囲を大小の浮き島が取り囲む中、巨大な島が泰然と浮かんでいる。ここが異世界ザナドゥという地であることを知っていながらも、一種異様に映る光景。
驚嘆すべきは、これが人の手によって成されたものであるのがあきらかなことだった。
人工と分かる外壁がぐるりと囲って内部を見えなくしており、その外壁に開いた狭間からは今、無数の鋼鉄の砲口が天に向かって突き出されている。
島の下部を埋める穴も、やはり砲台口だ。もし別日にここを訪れていたなら、あの穴が何かは永遠に分からずじまいだっただろう。
今、その穴からせり出した黒鉄の砲口は、現れた敵――地上人の駆るイコンに向け、砲撃を行っていた。
彼らを寄せつけまいと、上部の砲台からも間断なく砲弾が放たれている。
重い砲撃音。
それらが衝撃波となってビリビリと大気を震わせ、数百数千の砲弾によるキナ臭い硝煙がメイシュロットをかすませる。対抗してイコンが放つビームがザナドゥのうす闇を稲妻のように走り抜ける様は、まるでそこだけ雷雲に取り巻かれているかのようだ。
雷雲――そうかもしれない。
ザナドゥにありて、今、あの地は最も激しい雷雲に見舞われている地の1つだと、セテカ・タイフォン(せてか・たいふぉん)は向かい風に目を細めながらその光景を見つめていた。
メイシュロットは大河を挟んだ対岸にあり、かなりの距離があるというのに、それでも砲撃の音は耳を圧迫し、火薬のにおいが鼻をつく。
あそこに、アガデを崩壊させたバルバトスがいる。エシムを操り、バァルを瀕死にし、そしてエンヘドゥを殺害した……。
何をしていようと、そのことが頭から離れることは一瞬たりとなかった。
考えるだけで血が逆流し、頭の中で沸騰しているような思いがする。気分が悪かった。ずっと胸の中で暗い衝動が渦を巻いている。
できるものなら、今すぐにもあそこへ行き、この手で八つ裂きにしてやりたい。
だが。
セテカはこの数日何度もしてきたように、ポケットの中の物に触れた。
それは、心友のリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)から以前贈られたお守りである。
『忘れないで。セテカ君が無茶しようとしたら、周りにいる人はそれ以上の無茶をすることになるんだからね』
それに触れていると、添えられていた言葉がよみがえって、ほんの少し気持ちが軽くなる気がした。
(リカイン)
かつて北カナンで彼を救おうと命を賭けたあの日のように、今もきっと、だれかのためにあの空のどこかで戦っているに違いない、誠実な彼女……。
そんなセテカに、背後から矢野 佑一(やの・ゆういち)とミシェル・シェーンバーグ(みしぇる・しぇーんばーぐ)が近付いた。
「今攻略部隊のみんなと話していたんだけど『憤怒の塔』へ行く人数が足りないんだ。セテカも一緒に行こう」
「分かった」
にこやかに応じたセテカの語尾に重なるように「船の準備ができた」との声がかかる。そちらへ歩き出そうとしたセテカの手に、するりとミシェルの手がすべり込んだ。
「セテカさん、エンヘドゥさんの欠片探し、がんばろうね!」
「……ああ。そうだな」
セテカの返事を聞いて、ミシェルはにっこり笑う。
対岸へ向けて大河を渡りながら、セテカはリカインからの贈り物を首から下げて、服の下へと落とした。
主力である地上部隊をメイシュロットに進軍させるためには、メイシュロットの防御機構を沈黙させ、かの街を地に落とさなければならない。
それが出来るのは、カナンの地より送り込まれし三機のイコン、エレシュキガル、ギルガメッシュ、エンキドゥと、三機に導かれしイコン部隊。
皆々の先陣を切った彼らの、激しい空中戦が展開される――。
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