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【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ

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【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ
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リアクション



●ベルゼビュート城:地下1階

「やれやれ……喧嘩するのは勝手じゃが、少しは周りの事も考えて欲しいものじゃな。
 咎人といえど、我等の喧嘩とは何の関係もなかろうて」
 呟きながらシュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)が『黒曜鳥』を召喚、通路の先へ飛ばす。すると通路に仕掛けられていた罠が発動、召喚された鳥は罠によって息絶えるが、そこは召喚獣。代わりはいくらでも呼び出せる。
「起き上がれますか? 私についてきて下さい」
 罠の仕掛けられた道を過ぎ、牢屋の前に辿り着いたラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)が中の者に呼びかけ、自分たちに付いてこさせようとする。エリザベートとルシファーの戦いで、城が崩れてしまうのではないか、そう危惧した上での行動であった。
「へへっ、恩に着るぜ!」
「し、城が崩れるだと!? この城はザナドゥの世界樹でもある、そんなことがあってたまるか!
 ……ま、まあ、助けてくれたことを、感謝しないわけではないぞ」
 解放された囚人の反応は、上記のように様々であった。中には「……俺の罪は、また償われていない」と脱出を拒む者もいたが、
「罪に囚われるのは勝手だが、城に押し潰されるのがお前の償い方か?」
 と、ラムズが口調を変えて半ば脅すように迫れば、立ち上がって牢屋を出、付いて来た。
「……確かに、城はびくともせぬやもしれん。じゃが、拳の落とし所を間違うな。そういうことじゃ」
 そして、皆と共に地上に出、無事に撤退を果たした『手記』が背後にそびえる城を振り返り、告げる。
 『喧嘩』も一歩間違えば『殺人事件』となる。せめてここでの戦いが、取り返しの付かない遺恨を残さない終わり方となればいい、『手記』の言葉にはそんな思いが込められているのかもしれなかった。

●ベルゼビュート城:地上3階

『……弥十郎、聞こえるか? 今から皆と攻め込む、情報を、頼む』
 佐々木 八雲(ささき・やくも)からの『声』を受け取り、仕込みの途中だった佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が包丁を置き、声に応える。
『3階は、主に使用人のための階になってる。人がいい……魔族に対してこう言うのもおかしいけど、とにかくそんな人達ばかりだから、心配ないと思う。4階と5階も心配ないと思うけど、用心はした方がいいね。1階と2階は注意して。敵や罠がいっぱいあるって話だから』
 応え終えた弥十郎が、もうちょっと後でも良かったのにな、という思いを抱えつつその場を立ち去ろうとする。変装し、使用人として料理をしていたのは情報収集のためだったが、続けていくうちに料理をすること自体が、楽しくなっていた。魔族の料理は、これまで目にしてきた料理のどれとも違っているものもあれば、全く同じ物もあり、それを知るのが楽しかったのである。
「……行くんだな」
「お、親方……まさか、ワタシの正体を知って……」
 そこに、これまで弥十郎に料理を教えて来た魔族――ベルゼビュート城で料理長を任されている、ペルゾア――が現れ、一言ぽつり、と告げる。
「俺の鼻は、ごまかせねぇ」
 それだけ言えば分かるな、と言いたげな様子のペルゾアに、弥十郎は納得しつつも何故、という思いで言葉を紡ぐ。
「何故、人間であるワタシに料理を教えたのですか?」
「料理を志す奴に、種族は関係ない、それだけのことだ」
 それだけ言って、ペルゾアはいつもと変わりなく、仕込みの作業に取り掛かろうとする。
「……失礼します」
 何を言えばいいのか戸惑った末、それだけを口にし、弥十郎は八雲に合流せんとする。
「……今日は、騒がしくなりそうだな」
 鼻を蠢かせたペルゾアの言葉は、しばらくの後真実のものとなる――。

「さあ、ここからは無礼講! 種族が違えど、文化が違えど、鍋を囲めばきっと仲良くなれます!」
 司会役を買って出たクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)の声に、この場に顔を揃えた多くの契約者が応える。彼らは一足早く、しかもわざわざ敵の陣中真っ只中で、宴会を開こうとしていた。
「俺の目が黒いうちは、鍋に妙なモノを入れるのは許しません!」
「クロセル、さっきは無礼講だと言ったのだ! まったく、鍋を囲むには気が早いと思うのだが……どうせやるなら私もご相伴に与るのだっ!」
 ぐつぐつ、と煮える鍋を前に、マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)が今か今かと待ちわびる。鍋の中の食材は、今まで見たこともないような物もあれば、馴染み深い物もあった。そして漂う匂いは、そのどれもが『危険なものでない』ことを証明していた。
「すんませんねぇ、突然押し入るような真似してしまって。いやまぁほら、結局ドンパチやってんのは一部のお偉い方だけですから。関係ない一般の魔族さんまでビビらせちゃあ申し訳ないってんで、理解してくださいな」
「…………」
 調理場で宴会のためのオードブルを用意する東條 カガチ(とうじょう・かがち)に対し、ペルゾアは無言のまま熟練の包丁捌きを見せ、あっという間に鍋の材料を用意してしまう。普段なかなかこういった料理を作る機会に恵まれなかったことが、思う所はありながらもペルゾアを彼らに協力する行動に駆り立てていた。
「へぇ、流石はプロの使用人……いや料理人。俄の俺が腕を振るうのも何だか、勉強と思ってやらせてもらいやしょう」
 調理場にペルゾアとカガチ、二人の食材を刻む音が響く。
「よかったー、いきなり押しかけたわけだし、追い出されでもしたらどうしようって思ったけど、大丈夫みたいだね!
 うん、なぎこも配膳とか片付けとか、お手伝いするよ!」
 出来た料理を柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)が運び、テーブルに並べていく。空いた皿を抱えて流しに持っていけば、
「どうしたどうしたぁ、この程度じゃ俺は全然満足しねぇぞぉー!」
 自称『皿洗いのスペシャリスト』、ワッシャーが即座に磨き上げ、先程まで料理が載っていたとは思えない仕上がりにする。ちなみに彼の思考は『皿が洗えるならそれでいい』であった。天晴な職業精神である。
「あ、あの、申し出はありがたいのですけど、混ざっていいものなのでしょうか」
「いいんじゃない。こうやって下々の者同士が理解しあえる様になってこそ、本当の平和が訪れるわけだし。
 ……あ、鍋が煮えましたよ。どうぞ」
 八神 誠一(やがみ・せいいち)に誘われ、おどおどとしていた使用人も湯気を立てる温かな容器を受け取り、程良く煮られたそれらを口にする。
(昔から、戦争は美味い物を食ってる方が勝つ、って言いますからね。だからこの戦いは、僕たち宴会参加者の勝ちですね)
 三食冷たい物を食べている国よりは、温かい食事を食べている国の方が幸せであるのは確かであろう。そういう意味では、鍋というのは非常に、幸せを感じさせる料理と言える。
「つうわけだ、ほら、こっち来いよ。あったまるぞ」
「あ、あの、これは何ですか?」
「あ? そっか、知らねぇのか。これはコタツって言ってな……まぁ、とにかく足突っ込んでみろって」
 シャロン・クレイン(しゃろん・くれいん)に勧められ、訝しげな表情で使用人が足を突き入れる。
「……あ、暖かいです」
「だろ? んじゃ、一杯飲め」
 酒の入ったコップを押し付け、シャロンが手本とばかりに空けてみせる。そこまでされて飲まないわけにいかないと思ったか、使用人も続いて空にする。使用人と言えども魔族、持っているポテンシャルは相応のものである。しばらくする頃には、注がれては空にするまでに変貌していた。
「さーて、盛り上がってきた所でカラオケ大会といこうぜー!」
 マイクを手に、声を張り上げる酒杜 陽一(さかもり・よういち)へ、拍手喝采が浴びせられる。いつの間にか持ち込まれたカラオケセットから音楽が流れ出し、陽一が音楽に合わせて歌い出すと、場はいよいよ盛り上がる。雰囲気に馴染めずにいた使用人たちも、歌を聞いて少しずつ、溶け込んでいったようであった。
「はむはむ……やっぱりパラコシは生に限るわね!
 みんな、お菓子もジュースもたくさん用意したから、どんどん食べて!」
 次曲をせがまれる陽一を背に、酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)は自分のおやつ用に用意したパラミタトウモロコシを、生のまま芯ごと食していた。この場に用意されていた料理やお菓子の類は、その殆どが彼女の財布から生み出されたものである。48万Gもあれば、この場に存在する全ての食材を用意してもお釣りが来るであろう。……え? パラミタトウモロコシを生で食してる所には突っ込まないのかって? まあ、アリスは夢魔であるから、魔族のようなポテンシャルを持っていると言えなくもないのでいいだろう。……可愛らしい外見で「おにいちゃ〜ん」って言いながら樹を殴り倒したり、バリバリと食材を食したりしたら、なんかそれは色々と夢ぶち壊しなような気がするが。
「ええっと……あの……この上もそうですし、外、すっごい盛り上がってますよね? 一大決戦って感じで、すっごくシリアスしてますよね? そこかしこでドラマが展開されているんですよね?
 ……なのにどうして私達、ここで別の意味で盛り上がっちゃってるんですか〜!」
 ちゃぶ台があったらひっくり返っていたかもしれない勢いで、結崎 綾耶(ゆうざき・あや)が声をあげるのを、隣にいた匿名 某(とくな・なにがし)が宥めつつ答える。
「まあ、いいんじゃないのか? 確かにな、こんな事してる場合じゃないってのは分かってるけど、それでもこれだって後々ザナドゥと上手く付き合うためのきっかけになってるかもしれないじゃないか」
「ほ、本当ですか? 私達すっごくシリアスブレイクしてませんか!? 「えっ、ザナドゥとか知りません」って顔してないですか?」
 綾耶の指摘に、某は周囲を見渡す。自分はうっかり綾耶を戦場に出すわけにはいかない(悪魔とか魔神に会いたいわけじゃないという理由は伏せておいた)との思いで、八神から渡された招待状に乗る形で参加を決めたのだが、他の者たちは一体何を思ってこの場に参加しているのだろうか、ちょっと気になった。
「はぁ……コタツ、あったまるな。ほらほらメイドさん、グラスが空いてますよ」
「あっ、すみません〜。なぶらさんは飲まれないのですか〜?」
「いや、俺はそのつもりは――」
「飲まれないのですか〜?」
「だから俺は――」
「飲まれないのですか〜?」
「…………」
 コタツに入り、酒を振る舞っていた相田 なぶら(あいだ・なぶら)が、逆に使用人たちに酒を飲ませられる羽目になっていた。やはり魔族、持っているポテンシャルが違うようである。その手の道に入れば、たちまちナンバーワンになれるだろう、おそらくは。
「ふぅ……みかん、おいしいですわ……」
 主の窮地? を横目に、相田 美空(あいだ・みく)は黙々とみかんを食していた。どうしてコタツに入るとみかんが食べたくなるのだろう。まるで遺伝子に組み込まれているのではないか(しかしそれでは、機晶姫である彼女がみかんを欲する理由にはならないが)と思うくらいである。
「うふふふふ……そうよ、ルシファーとかクリフォトとか、なにそれ? そんなのなかったわよね……♪」
「うむうむ、今年はホント大変な一年じゃった……主にカナンとかカナンとかカナンとか……む? そういえば何か重大な出来事があったような気がしたが……まぁ、思い出せんようなら大した用件ではないんじゃろうな」
 別のテーブルでは、水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)天津 麻羅(あまつ・まら)がすっかり出来上がっていた。年内の苦労を忘れるために忘年会があるのだが、彼女たちの場合はそもそもザナドゥでの出来事をなかった事にしてしまおうという心積もりらしかった。
「む? 酒が切れおった。おーい、酒持ってきてくれんかの?」
 その二人と共に酒を飲み交わしていた平賀 源内(ひらが・げんない)が、紅くなった顔で使用人に呼びかけ、酒を持ってこさせる。
「あの馬鹿が、こちとら大人だ、一緒に飲む者の面倒くらい見てやったらどうだい。
 後で帰れなくなっても知らないよ? ……まぁ、その辺は他の人達が何とかしてくれんだろさ。
 酒でも飲みながらこの結末を眺める、悪くはないねぇ」
 パートナーの所業に苦言を呈しつつ、煙管で煙草を吹かしノア・レイユェイ(のあ・れいゆぇい)が酒を煽る。その仕草は実に自然なもので、見る者をしばし釘付けにするだけの効果はあった。
「えっと、その銜えてるのは何ですか?」
「おや、お前さん達は煙草を吸うって文化はないのかい?」
 煙管を指しながら聞いてきた使用人に、ノアが尋ねる。そもそも煙草がどういうものかという所からの説明だったが、魔族はそういった精神を高揚させる代物を直接口にしてしまうのだと聞いて、住む所が違えば文化も違うな、と思い至る。
「これも異文化交流ってもんかね。じゃあ、コレについて説明しようか」
 ノアの説明に、興味を持った他の使用人たちも集まってくる。
「あの、そ、それじゃ一発芸、披露します……!
 はいっ!」
 エリセル・アトラナート(えりせる・あとらなーと)が、自身に生えた8本の脚でビール瓶をジャグリングする芸を見せる。辺りが暗いせいで、補佐として利用している蜘蛛の糸の存在には殆ど気付かれない。
「うおおぉぉ!? な、なんだこりゃあ、身体の震えが止まらねぇ……俺はそれだけ、あいつの芸に感動してるってことなのか!?」
 そして、芸を目の当たりにした魔族が次々と、身体の震えを訴え始める。それは彼らがエリセルを見てSAN値を削られているからなのだが、どちらかと言えば普段削る側にいる彼らは、その事に気付かない。ちなみに契約者は、「人外なんていくらでもいるしな」と大して意に介さなかった。様々な種族がいるパラミタに、すっかり慣れてしまった結果といえるだろうか。
「あっれー、なんかウケちゃってるー。ま、それならそれでいいんだよね。
 エリセルもなんか楽しんでそうだし!」
 姿を消し、エリセルを見守っていたトカレヴァ・ピストレット(とかれう゛ぁ・ぴすとれっと)が、ちょっと予想していなかった展開に驚きつつも、まあ、いいよね、と問題を切り上げる。
「……きっと、無駄じゃないはず、だよねっ!」
「もういいです〜、せっかく参加したんですから、めいっぱい楽しんじゃいます!」
 皆の様子を一通り確認し、一種開き直った様子で、某と綾耶が席に加わる。

 ……地下1階と地上3階では、以上のような光景が展開されていたのである。
 さて、改めて、地上6階へと舞台を移したいと思う。宴会に参加したいのはやまやまだが、忘れるわけにも放り出すわけにもいかないのである。