空京

校長室

【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ

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【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ
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リアクション

 最も端の場所は、魔族にとって比較的侵攻が楽である……ように思われた。
 しかし彼らは直後、途方も無い絶望を味わうことになる。

「ガジェットさん、私の背中は任せましたよ。あの子達が動けない今、貴方の力が頼りなのですから」
「うむ! この最終局面で我輩の新しい身体が間に合ってよかったのであるよ。
 ……ところで、我輩がいない間になにやら変な流れになっていたような気がするのであるが?」
「さあ、気力よし! 熱血よし! この戦いが終わるまで、戦い抜くのみです!」
 そう言って飛び出していくルイ・フリード(るい・ふりーど)を、『Mk−?』バージョンとなったノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)は答えを聞くため追いかけようとして、
「……まあ、細かい事はいいのである。我輩は紳士なのである!」
 まあいいかと、戦闘準備を整える。自らに装備された火器に機晶エネルギーを充填させ、迎撃態勢を整える。
「エネルギーチャージ、完了! Knool Gadget Mk−?発進!」
 ノールが戦場に向かう頃、既にルイは向かってきた魔族へ拳を叩き込み、蹴りを浴びせる。魔族の強靭な身体でさえも、ルイの攻撃を食い止めること叶わず。
(侵攻を許してしまっては、砦を破壊されてしまっては、ダメなのです!)
 続く戦いで自身も疲労していたが、終わりも見えてきている。ここが踏ん張りどころとばかりに奮戦する姿は、敵には畏怖を、味方には勇気をもたらしていた。
「なんだか凄いな! とりあえずは後ろにあるフォレストブレイズってのを魔族に壊されなきゃいいんだろ?
 だったら簡単だぜ! 向かってくる奴はこの剣で切ってやる!」
 剣を携えた吉崎 樹(よしざき・いつき)が敵の軍勢に切り込み、音速の衝撃波で切り飛ばしていく。
「とりあえず、魔族を皆殺しにすればいいんだよね? ……うん、違うの? でもこういうのは、一度痛い目見ないと分からないと思うんだけど」
 妖しげな笑みを浮かべて、ミシェル・アーヴァントロード(みしぇる・あーう゜ぁんとろーど)が空間を奔る電撃や、包み込む酸の霧で魔族を翻弄していく。
(……この戦いで、すべてが終わる。そう思えば、戦うことにも意味があるだろう。
 戦いが終われば、その時はきっと……)
 その時はきっと、メイドとして敵も味方も関係なくもてなすことが出来る。その思いを抱いて、立川 絵里(たちかわ・えり)が森を荒らす“汚れ”を“お掃除”していく。『鬼』の力で強まった身体能力を生かし、槍の薙ぎ払いで魔族を吹き飛ばしていく。
(やはり、決戦であるからでしょうか。普段は冷静な絵里様が熱くなっている様子。
 このような時は周囲を疎かにしがち。私が、絵里様に近付く不届き者の露払いをしなければなりませんわね)
 前線で戦う絵里を、リリアン・トワイニング(りりあん・とわいにんぐ)が後方から銃で援護する。事実、背後や死角から攻撃をしようとした魔族は尽く、リリアンの銃の餌食になっていた。

「進め進めー! この先にあるモノを壊せば、俺たちの勝ちだー!」
 最も北側の地点、小規模の魔族の軍勢――それでも百程度はいた――が『フォレストブレイズ』を発生させている花妖精を目指して進んでいた。彼らの侵攻は順調に思えたが、ある地点を通り過ぎた際、突如爆弾と思わしきものが爆発、犠牲こそなかったものの軍勢に損害を与える。
『預けた爆弾は役に立ったかしら? 協力感謝するわ』
 同時に録音された声が、魔族の耳に届く。
「なんだ、今の声は!?」
「……なんでしょう? 爆弾を預けた? 協力に感謝する?」
 態勢を立て直す間、魔族は言葉の意味を考えていたが、結局何を言いたいのか分からなかった。音声を用意したのは、魔族同士を疑心暗鬼にさせようと画策したエウリーズ・グンデ(えうりーず・ぐんで)によるものだったのだが、あの言葉だけでは『魔族が人間と内通し、爆弾を融通されて魔族を撃退しようとしている』までは理解出来なかったようである。せめて魔族の名前でも入っていれば、話が違ったかもしれないが。
「ひぇっひぇっ。エウリーズさん、どうするのですかな?」
「どうするって……うーん、機晶爆弾はまだ残ってるけど、使うのもどうかと思うし……」
 鎌田 吹笛(かまた・ふぶえ)の問いに、エウリーズが頭を抱える。その間にも魔族は態勢を立て直し、侵攻を再開していた。
「あら……これは少々、骨が折れそうですね。お嬢様、頼りにしてもよろしいですか?」
 先に、アーデルハイトへこれまでに起こった出来事の報告書を手渡し、「家族皆様でのお早いお帰りを」と告げてウィール砦へ向かっていた風森 望(かぜもり・のぞみ)が、ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)の操船するシグルドリーヴァ上から侵攻する魔族の軍勢を見つけ、ノートに上空からの砲撃を要請する。彼女たちは魔族側のイコンや飛行魔族に対するつもりであったが、フルスロットルで飛ばしてきた結果予想より早く到着したのと、今まで魔族側イコンや飛行魔族を目撃していなかったことが、方針の転換をさせることとなった。
「ええ、よろしくてよ! わたくしに万事、お任せなさい!」
 望から頼られるなど滅多になかったノートが、気分を良くして魔族へ音波や砲弾を浴びせる。調子がいいだけに見えるが射撃の腕はなかなかに正確で、魔族は上空から降り注ぐ攻撃に翻弄されるばかりであった。
(主がいない間、家を護るのも家令の役目、ですものね。お嬢様が扱い易くて助かります)
 不敵な笑みを浮かべる望が、蹂躙される魔族の様子を船上から眺めていた。

「この後ろで、セリシアがオレ達の帰りを待ってんだ! だからここは絶対通さねぇぞ!」
 各地で契約者が奮闘する中、砦正面の魔族に対しても、契約者はよく戦っていた。キィル・ヴォルテール(きぃる・う゛ぉるてーる)の懐に踏み込んでの拳が魔族を捉え、高々と打ち上げられた魔族は地面に落ち、動きを止める。敵討ちとばかりに複数の魔族がキィルを囲もうとするが、その時死角から強烈な光が飛び込んでくる。
「お前たちに好き勝手な真似はさせないぜ!」
 森崎 駿真(もりさき・しゅんま)の生み出した光は魔族を混乱させ、その隙にキィルは効果的な一撃を繰り出し、離脱する所まで済ませていた。
「へへっ、この調子で防ぎ切ってやるぜ!」
「ああ、そうだな――」
 その時、視界の向こうから新たな敵影が見え、駿真は警戒を強める。翼を持ち、これまで戦ってきた魔族より一回りも二回りも大きいそれは、瞬く間に上空までやって来ると、魔力の弾を浴びせてくる。
「うわっととと! なんだ、増援ってヤツか!?」
「どうやらそうみたいだな。飛行タイプがまだ数を残してたってわけか」
 飛び交う魔弾を避けられる位置に退避した二人が、疎ましげに上空を見上げる。数は十そこそこであったが、一体一体が強大な力を秘めていることは今の攻撃から十分感じ取れた。
「マズイぜ駿真、敵が勢いづいてやがる! このままじゃ突破されるぞ!」
 キィルの警告通り、一部の魔族が群を成し、ウィール砦へ向けて突進していた。迎撃しようにも、魔弾が雨あられと降り注ぐ中では迂闊に飛び出せない。焦燥と諦念が支配しかける中、砦の城壁に立った者、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)だけは違っていた。
(やれやれ、ようやく再生が終わったと思ったら、もう最終局面ですか。
 出し惜しみ出来る状況でもないようですし、全力で行きましょう……)
 左腕の開口部から、見るだけで並の人間が卒倒してしまいそうな瘴気と呪いの凝縮体が出現する。

「我招くは無限の中核に棲む原初の混沌……
 形なく、知られざるもの……
 盲目にして白痴の神より溢れし力の飛沫……
 汝らに遍く災厄は、もはや逃れる術は無し。
 ……【万物の王】……」


 刃が完全に抜き放たれ、また同時にエッツェルの詠唱が完了した直後、砦へ向かっていた魔族は生み出された純粋破壊魔力に押し潰され、尽く原型を留めず砕け散っていった。味方も、そして敵さえも吐き気を催す光景が広がる中、技を行使したエッツェルは膝をつき、疲労の極みにあった。
『――――!』
 そして、どさ、と崩れ落ちるエッツェルの上空を、数機のイコン部隊が飛翔する――。

「ッ!!」
 砦の医務室で横になっていた緋王 輝夜(ひおう・かぐや)が跳ね起き、あぁ、またエッツェルが力を開放したんだな、と思い至る。
「くそっ……無茶しやがって……」
 自分がその場に居たら、力を開放させないように立ち回ったのに、そう思うも今の身体ではとても叶わない。
(これだけの傷を受けて、死なずに済んだのは幸運なんだろうけどね……)
 顔に手をやれば、しっかりと残る傷の跡。女としては随分と“落ちて”しまったなぁと、元々容姿には気を使っていないつもりでも輝夜はそう思う。
(無茶してると言えば……皐月もやっぱ、何処かで戦ってるのかな……。
 アイツ馬鹿だし、無茶してるんだろうな、きっと……)
 視界が歪み、輝夜の瞳から、涙が零れ落ちる。
「……生きててくれよ……じゃなきゃ伝えられないんだからな、この想い……」

 今の自分は、色々と惨めだけど。それでも、彼を思う気持ちだけはきっと、綺麗なままだと思うから。
 だから……生きて帰って来て。