空京

校長室

【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ

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【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ
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リアクション

「なんてこと……!」
 砲弾の雨を浴びて大破した船から次々と大河へ投げ出されていく地上班を見下ろして、リネン・エルフト(りねん・えるふと)はぎりと歯を食いしばった。
 すぐさま随伴していた飛空艇や箒の者たちが彼らの救出に向かったが、砲弾や沈む船たちの巻き起こす激流に飲まれ、装備の重さから下流へと押し流されていく者は少なくない。
 その中には、バァル・ハダド(ばぁる・はだど)の姿もあった。
「どうする? オレたちも救助に向かうか?」
 フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)の言葉に、リネンは一時考え込む。
 だがしかし、その視界に墜落したメイシュロットから雲霞のごとく飛び立つ魔族兵の姿が入った瞬間、彼女はきっぱりと首を振った。
「いいえ。私たち上空班は、予定どおり……魔族兵を迎撃するわ」
 魔族兵の目を無防備な地上班へ向けさせてはならない。
「そうか」
 私たちは彼らを信じて任務を果たすだけ――そんなリネンの決意を背中に見て、フェイミィはナハトグランツを駆った。
「フェイミィ?」
 リネンたちの頭上を越え、敵前に躍り出るは月も星もないザナドゥの闇空に燦然と輝く濃銀のペガサスである。
 宵闇の輝き(ナハトグランツ)。その名にふさわしき雄姿は、ただ1頭、剣や槍を持つ魔族兵に取り囲まれてもわずかのおびえも見せない。むしろ猛る心の現れか、尾をぴしりと打ち鳴らす。その音に、フェイミィはにやりと笑った。
「そうとも、グランツ。ついにこの時がきたんだ。これが最後の戦い。魔族のやつらにオレたちの力を見せつけてやろうぜ」
 ナハトグランツの背にすっくと立ち、敵魔族兵に向かい光輝のバルディッシュを構えるやいなや、彼女は跳んだ。
「うおおおおっ!!」
 騎兵用に特化された柄の長いバルディッシュを、フェイミィは己の腕の延長のように巧みに操る。
 目前の敵を一気に横なぎするは光の一閃。その苛烈さは稲妻のごとし。
 ライド・オブ・ヴァルキリーの発動によって機動力を増加させ、敵を翻弄する姿はまさしく嵐そのもの。
「フェイミィ、『タービュランス』を……風を呼んで!」
「任せろ、リネン!」
 魔族兵に体当たりをくらわせ、下で待ち構えていたナハトグランツの背に下り立ったフェイミィは、光輝のバルディッシュを高々と掲げた。
 激しい乱気流の風が彼女を中心に湧き起こり、魔族兵たちを巻き込んで吹き荒れる。
「今だ! 見せてやれ!」
「ええ!」
(飛んでみせるわ……今度こそ!)
 フリューネ、あなたが見せてくれたこの技で!
 カナンの剣を手に、リネンは臆することなく渦の中心へと飛び込んだ。
 タービュランスからのエアリアルレイヴ。
 暴風にあおられ体勢を崩した魔族兵を、リネンの剣が次々と斬り裂いていく。
 光に満ちた輝かしい攻撃。だがタービュランスをくぐり抜けたリネンの死角をついて、離れた闇から無数の槍が投擲された。
「――はっ!?」
 ひゅっと風を切る音にそちらを向いたリネンの目に、加速をつけて迫る槍の影が映る。
「危ない、リネンさん!」
 険しい声とともに、ファイアストームが闇空を割った。
 姫宮 みこと(ひめみや・みこと)の操る猛き炎がリネンと槍の間を分断し、炎のカーテンと化す。それをくぐり抜ける前に、槍はすべて灰と化した。
「けがはありませんか?」
「ええ。助かったわ」
 しかし次の瞬間、またも飛来した槍がみことの乗るレティ・インジェクターをかすめて落ちる。
「うざいやつらじゃ」
 2人をかばうように小型飛空艇を割り入れた本能寺 揚羽(ほんのうじ・あげは)が、槍の飛んできた方角へ向け、すかさず轟雷閃を放った。
 クレセントアックスを核とし導かれた凄まじい雷撃が白光となって闇空を裂き走り、その先の敵を討つ。声もなく墜落していく魔族兵。そして白光に照らし出された一瞬で敵の位置を把握した揚羽は、小型飛空艇を駆って彼らへと肉薄した。
「てやあっ!!」
 遠心力を用いた強烈な一撃が魔族兵を一刀両断するべく振り切られる。けれど、機動力ではあきらかに自翼を用いる魔族兵の方が上。魔族兵はやすやすとクレセントアックスをかいくぐり、翼をひらめかせて後方の闇へまぎれ込んだ。
「おのれ、ちょこまかと」
「仕方ありません。空中戦はどうしても、翼ある彼らの方が一も二も有利です」
 みことが揚羽の横を抜いて、魔族兵の消えた闇へ進んだ。
 翼を持つ者が有利と口にしながら、なぜそのような行為に出るのか? 首をひねる揚羽の前、みことはぐるりと周囲の闇に視線を巡らせた。
 姿は見えないが、息をひそめて様子を伺う魔族兵の気配がある。
(不意討ちなら彼らを捉えることもできるでしょうが、今ここでファイアストームを放ったところでかわされるだけでしょう)
 ならば、どうあがこうとも逃げようのない攻撃をするのみ。
 みことはさっとネクタールを口に含み、内にみなぎる力を歌に変えて放出した。
 その小さな体から発せられているとはとても思えない、音吐朗々たる声で歌い上げるは子守歌。やさしげなメロディとは裏腹に、それは聞く者を死の眠りへと誘う呪歌である。
 歌の形をとったみことの力。それを耳にした魔族兵は、例外なく皆墜落していく。
「ふむ。やるのぅ、さる」
 感心する揚羽の視界の隅で、何か動くものがあった。よろめきながらも離れていこうとする魔族兵だ。距離があったため、効果が弱かったのだろう。
「――ふっ」
 みことから距離を取り、槍を投擲しようと振り返った魔族兵を、揚羽のクレセントアックスが横なぎする。
「オレたちも負けてられねぇな!」
 フェイミィが光輝のバルディッシュを握り直した。
「ふふっ……そうね」
「行くか!」
「ええ」
 仲間の活躍を前に瞳を輝かせるフェイミィとともに、リネンは次なる敵へ向かって駆けた。
 圧倒的多数の敵に、それと知りながら果敢に向かって行く者たち。彼らをサポートするのがティエン・シア(てぃえん・しあ)である。
 ヘリファルテの上から驚きの歌を放ち、スキルを駆使して戦う彼らの魔法力を補い、幸せの歌で皆の心に幸福感を呼び起こす。
 か細い手足、可憐な声。小さなその姿は戦場にありてか弱く頼りなく見えたが、身からふり絞るようにして放たれる力は前線で戦う彼らを力強く支援していた。
 ティエンが彼らに力を与えていると見抜いた魔族兵数名が、前線を飛び越えて上空から攻撃を仕掛ける。剣を振り上げて迫る彼らを、高柳 陣(たかやなぎ・じん)のライトブレードの光刃が一刀に斬り伏せた。
「あいつには近寄らせねぇよ」
 エンシェントで機動力に劣る分、奈落の鉄鎖をぶつけて飛行力を奪うことで対処する。
 ティエンを背に、一歩も退かない構えで戦っていた陣は、ふとティエンの歌が止まっていることに気付いた。
「ティエン?」
 ティエンは下を向いていた。視線の先には、流されそうになりながらも必死に濁流を渡るバァルの姿がある。
「バァルお兄ちゃん……傷、大丈夫かな……」
「そりゃおまえが一番よく知ってるだろ。目覚まさないかってずーっと天幕の入り口でウロウロしてて、見回りの兵にまですっかり不審者扱いされてたじゃねーか」
 とたん、ティエンの顔が真っ赤に染まった。
「だ、だって何にも出来ないのに、勝手にお邪魔しちゃいけないって思って……でも、すっごく心配だったんだもん!」
「いいから今は戦いに集中しろ。へなちょこ領主ならもう手は足りてる。おまえが行くまでもねぇよ」
「分かってるよ、そんなこと! お兄ちゃんの意地悪っ」
 いーっだ、としたあと。
「あとね、バァルお兄ちゃんはへなちょこなんかじゃないからね!」
 少しむくれながらティエンは移動した前線に追いつくようにヘリファルテを飛ばした。
 陣はふうと息をつき、あらためて下のバァルを見る。
 彼の言葉は的確で、バァルに限らず河に落ちた者たちを支援する手は十分あった。上空班である彼らにできるのは、地上班が体勢を立て直すまでできる限り敵の目を自分たちに引きつけておくことだ。
(バァル……これが終わったら、本気でティエンみたいなの増やせよ。領主じゃなくて、ただのバァルとして見てくれるやつをさ。おまえならすぐ、いっぱいできる。そういうやつらに囲まれてりゃ、いつだって笑って幸せに暮らせるさ)
 バァルがついに足のつく位置まで着いたのを見届けて、陣は戦線に戻っていった。