リアクション
* 教導団の軍需品を移送していた馬車や荷台の多くが倒され、其処ここに煙が上がっている。蛮族らは火炎放射器で物資を狙ってきた。激しい戦いであった。それでも、斥候の知らせや各隊が奇襲に備えていたこともあり、物的・人的被害共に最小限に抑えられたと言えた。 各隊から戦況報告が送られてくるが、野営の中央にあるべき人の姿がなかった。 「な、何と言われました? 騎凛師団長が……?」 「ああ。セイカが……連れ去られちまった……」 縄を解かれ、両手を地に付け「くそっ!」と呟く久多 隆光(くた・たかみつ)。騎凛の最も傍にいて、この出兵からは騎凛の護衛を束ねる立場でもあった。それに、久多にとって騎凛は……。久多は、立ち上がる。このままでは、俺の男としての尊厳に傷が付いたままだ。とにかく、ヤツを――国頭を追わねば。久多は、兵が駆け回り、まだ煙の収まりきらない周囲を見回す。 「しかし、師団長を捕えた国頭武尊はどちらへ向かったのでしょうね?」 問うのは、比島 真紀(ひしま・まき)少尉。中軍を統括していた。中軍は、付近をノイエ・シュテルン(新星)が警護にあたっていたおかげで被害は少なかった。クレーメック・ジーベックを隊長とする新星は教導団においても最も軍人としての統率の取れた部隊と言われる。 「騎凛を守れなかったのは、俺の失態だ。国頭のヤツがどこへ行ったのかはわからないが、ええい、とりあえず探すぞ俺はッ」 「しかし……」 そこへ、「ふふり。ふふり」と戦塵の中から巨体なピンクの弁髪ダリ髭が現れた。軍服の胸がはちきれそうだ。第四師団の軍師マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)。 「久多よ。悩むことはないであります! 本陣を薄くして襲われかっ攫われるのは、我らが騎凛ちゃんの誘い受け属性の為せるわざではありせぬか」 「軍師マリー……戦いの間、あんたどこにいた?」 「ふふり」マリーはそれには応えず、「国頭めは、コンロンで何かを企んでいるのでありましょ。騎凛のことはいつものようにシナリオ展開の起爆剤(きりふだ?)として、コンロンを奔走してくれるでありましょう国頭の懐にぶっこんどけばよいのであります。さあ、わてらは隊を立て直し、早々にクィクモを目指すでありますぞ! ハァァ!」 「だ、だけど俺は! 今頃、騎凛がどうされてるかと思うと……ここにこうしちゃいられないんだよ!」 「騎凛がどうされてるか? ふふり」マリーは相当いやらしい笑みを浮かべた。「あの不良のこと。それはそれはどうされているでありましょうなァ。ふふりふふり」 がっくりとうなだれる久多。それを足蹴に「読者よ! 今こそ好き勝手に妄想を繰り広げるであります!!」叫ぶマリー。そこへ今度は、収まりつつある戦塵を巻き上げ、バイクに乗ってやって来たのは琳 鳳明(りん・ほうめい)である。 「軍師殿! 騎凛先生が連れていかれちゃったって聞いて。私、これで追いかけるよっ」 「あっ。これ琳。待つでありますっ。ひっ、ひゃあぁぁ〜」 軍用バイクに乗った琳は、立ちふさがったマリーを轢いて陣地を走り去っていく。 「マリーさんごめんなさいっ。私、騎凛先生には個人的に恩返しもしなくちゃならないの!」 「く、待ってくれ。俺も行く!」 久多は走り行くバイクに飛び乗った。 「きゃぁぁ、い、いや、離してっ」 「(こ、この展開は前にも……)」 久多は琳の胸の付近を掴んでしまい強烈な肘を食らいつつ、新たな試練の始まりを感じていた。バイクはコンロンへと入り込んでいく。夜の明けない土地へ…… 「行ってしまいましたね。マリー軍師? 大丈夫でしょうか」 「う、うう。あいつらめ。隊を収拾次第、わてらも向かうであります! 騎凛も国頭も間違いなくコンロンへ向かっているであります。わてらの戦いの舞台はいよいよ今回からコンロンに移るでありますぞ。さっさと移れであります」 |
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