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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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第二章

 
 
 ミカヅキジマの軍閥――独立勢力ではあるが、ニュアンスとしては旧軍閥と言った方がいいかもしれない――長猫一族から兵が選抜され、長猫兵団が(仮)編成された。その半数は古い戦いのあった時代の老兵で、半数は戦いを経験していない若猫であった。長猫たちは地下に街を築き、コンロン旧軍閥の中でも戦いには長い間参加せずにきた。しかし今は、コンロンの情勢も変化し、新しい勢力が育ちつつあり、まだ若い彼ら新興勢は他を呑まんとする力を漲らせている。ここへエリュシオンはすでに触手を伸ばしており、教導団もまた……しかしこれは避けられぬこととも言えただろう。時代は移り、また波打つ。何もそのままではいられるものなどないのだ。
 ミカヅキジマの教導団本部「クレセントベース」は、香取 翔子(かとり・しょうこ)中尉を司令官に、調査班として内地に発った者を除くメンバーで司令部を形成することになる。まだここへ来ている兵はない。なので長猫兵がクレセントベースの兵力である。長猫の設備ではおそらく今、大きな戦いが起こればそれを切り抜けることはできない。長猫も、教導団のことをあてにしている面がある。防衛や設営には協力的である。教官の沙 鈴(しゃ・りん)は香取を補佐する参謀長の役割も兼ねつつ、設営面を統括する。設営参謀といった形にもなるだろうか。沙鈴はさらに、教官の経験を生かし、長猫たちに現代の教育を施していくことにもなる(パラミタ学習帖ではなく師団長の顔を覚えてもらうため騎凛セイカノートを配った)。
 現場には、前回から引き続き【龍雷連隊】の天璋院 篤子(てんしょういん・あつこ)三船 敬一(みふね・けいいち)候補生があたり長猫らに指示を与える。
「建設資材はなるべく本校から調達したいわね」と篤子は言う。「現地調達は林を伐採してしまうことにもつながり、それはつまり人目を惹きつけることになりそうだわ。やはり本校頼りとならざるを得ないところね」
 三船はそれに応え、「本校に手配してもらえるなら、コンクリートがいいな。できれば大量に。基地の門・大型倉庫・船着場・団員の居住スペース(兵舎)……この四つは、本隊が到着しきるまでに何とかしたいところだな。優先順位はどうだろう? 篤子先輩」
 篤子は、兵舎・防壁が重要と挙げている。
「うん……門と言うべきか、防壁と言うべきか……」
「まあもっと大きく見て最終的には防衛施設かな。これについては、(船酔+食あたりから立ち戻った)ドラガゼス?」
「迷惑をかけたな。本調子ではないがもう大丈夫だ」
 重厚な騎士甲冑に身を包んでの登場は、コンスタンティヌス・ドラガセス(こんすたんてぃぬす・どらがせす)。三船の英霊となっている、東ローマ皇帝コンスタンティヌス十一世。
「門を付けるのは当然だが。地上部分に、門を覆うように砦などを作ってはどうだ? そしてできれば、海岸線に沿って監視所を作り、砦を中心とした監視網を作りたいのだが」
「監視所か……」
 三船がドラガゼスの意見に呟くと、篤子はそれよ! と言った。
「先に言われちゃったけど、わたくしとしても、防衛関係はそれだと考えていたんですよ。だから、門・砦・監視所と含めたまさに包括的な防御施設ということね」
「おお篤子殿。我と気が合いますな」「いや、ドラガゼス。俺もさっきそういう意味でだな……」
「監視所ごとの距離は一キロをちょっと越えるぐらいで……」「フム、フム」「……ううむ」
 話は盛り上がってきたが、以降は実際に作られる時の話となる。そしてこの監視所の話は、戦闘指揮官である黒乃 音子(くろの・ねこ)からも要請があり、そこに長猫を配置したい、とのことであり併せて香取司令に伝えたところ優先して作られるべしとなった。
 篤子と三船は資材として、とりあえず木材とコンクリートは必需として本校に連絡を行った。これは空路第二陣により届けられることとなる(第一回終了時)。
 これから順次到着することになろう団員らの居住スペース(兵舎)については、まずは空間の確保から行うことにした。
「そちらは、篤子先輩に任せてもいいかな。中での作業だから……安全だろう。防御施設――外の方は、俺とドラガゼスが担当する」
「本当。三船君、ありがとう」
「へへ」「これ敬一殿。まだ得意になっておってはいかぬぞ。それに淋殿が怒りますぞ」
「わ、わかってる(なんで怒られにゃいかん。)」
 俺もいずれは小隊を率いることになる身。この段階で、へまはしないさ。三船は口元をきっとし、軍用ヘルムをかぶり、地下を出て行った。その後から、長猫作業員がぞろぞろと続く。
「じゃあ、三船君気を付けて下さいね」
「ああ。任せて下さい」
 とりあえず、先の話にあった「監視所」については、篤子の意見で、形状は土を盛った蟻塚の背を低くしたようなものでもいいだろう、とのことになった。草木で覆い、カモフラージュしておくことも忘れないように、と。
 入口付近で、同じように長猫を同じくらいの数、引き連れた士官候補生、ザウザリアス・ラジャマハール(ざうざりあす・らじゃまはーる)に会った。
「ザウザリアスか」
「三船敬一。ミカヅキジマへ配属された日以来ね。設営の現場担当になったと聞いていたけれど」
「ああ、この通り今から作業に出るところだ」引き連れている長猫らはヘルメットをかぶり、スコップやバケツを持っている。「色々決めてて忙しかったぜ」
「ん。なるほどね」ザウザリアスの方は長猫ともども、軽装であるが武装している。
 防衛など戦闘時の部隊指揮は、【黒豹小隊】隊長の黒乃 音子少尉と、鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)少尉があたり、それぞれとりあえず小隊規模に編成された長猫兵を率いる。また、新人のザウザリアス・ラジャマハール候補生はとりあえずはこちらへ配属され、分隊を預かり見回りや何かの際には遊撃的に動くこととなったのである。
「そっかぁ……(ちょっと羨ましいな。率いているのが猫、なのは同じだが。しかし、それにしても武器が槍とかか。せめて、銃を持たせたいぜ……)」
「黒乃少尉、鷹村少尉と交代で、付近の見回りを行っておく。その間、安心して施設の設営に努めてくれるといいわ」
 ザウザリアスは束ねた長い髪を揺らして、言いつつ、林の方へ去っていった。長猫たちが槍を抱え、それに続く。まだ若い猫たちのようであった。
「さて、じゃあ安心して、俺たちも任務に取りかかるかな!」「にゃー」「にゃ!」
 基地の内部では、設営班の内、篤子の他、更に奥では三船のパートナーの白河 淋(しらかわ・りん)、沙鈴のパートナーの綺羅 瑠璃(きら・るー)らが基地内の施設について話し合い、進めている。「レクリエーションルームなる提案をしましたが、基地の中じゃなく外にも必要かもしれませんね」淋は言う。「練兵場のような。長猫はいいかもしれませんが、私たちは太陽光を浴びないと健康にも良くありませんし。何かの映画で見ましたが、地下ばかりいると体だけでなく、心の方も狂うらしいですからね。あの映画は面白かったなぁ……」。瑠璃は、「長猫一族の習慣や風習についても実情を調べています。私はアニメだけど降伏のつもりで白旗を揚げたら、宇宙人にとっては裏切りの印だった、なんてありますしね。あれは伝説巨人イデオンだったかしら」「私、DVD持ってきてますよ」「まじですか……!」。更に迷路のような地下の奥には秦 良玉(しん・りょうぎょく)が地図を作りつつ(すでに)迷い込んでいる……?
 
 軍閥の中央部では、司令である香取中尉と沙鈴が、秘書らが皆調査班として出てしまったので代わりに事務仕事に追われていた。「くぅっ。この香取翔子っ、前線の指揮から司令部から、今や事務仕事まで経験しなけりゃならないなんて! ジーベックゥゥ……!」「香取殿。このペースじゃ、まだまだ夜が明けても終わりませんわよ!」「ここ(コンロン)、夜とか明けないし……頭が狂いそうよ!」「そんな、そんなことになったら、クレセントベースがバラバラになってしまいますわよ! 香取殿、司令官なのですから、しっかり!」「くっ。じゃあなんでずっと事務とかやってんのよ〜〜(泣)」「香取殿〜〜字が、字がっ(泣)」「ああッ。自分でも、読めないッ()」「\(^o^)/」「\(^o^)/」……
 
 その頃、居住区の一室では、長猫たちにくるまれて、鷹村真一郎少尉は静かに手紙を書いていた。

「拝啓ギズム・ジャト様
 
 今はコンロン地方、ミカヅキジマに駐屯している。
 この地方での教導団活動拠点としての基地を設営しているところだ。暫くこの島に滞在して、なんでも襲撃に備えるそうで陣地構築や地理を調べて兵を伏せられそうな場所や迎撃に使えそうな場所を調べている最中だが……」
 
 ゆっくりと、落ち着いた、筆致だ。 
 ふう。鷹村はひと息ついて、長猫を見つめる。ぐっすりと、眠っている。癒される……
 
「戦力になるのか怪しい現地戦力にこれからやり始める、という防衛状況……
 戦況は難しい所だな。まぁ、一兵士としては無い物ねだりはせずに出来る事を出来る範囲で、勝敗は気にせずに全力を尽くせばなんとかなるさ」
 
 今、外の見回りには、黒乃少尉とザウザリアス候補生が出ている。もうすぐ、黒乃少尉の隊が戻ってくる時間だな? そうすれば、交代だ。
 
「可奈と二人で休憩仲に少しバンダハロムの悪友を思い出したので手紙を書いてみた。
 
 そっちは街の復興は進んでいるか?
 そちらに戻る頃には棺桶に入らずに済むようにはしたいつもりだが……また一緒に飲める日を楽しみにしている。

 鷹村より」
 
 と。まあこんなところかな。さてこれをどうヒラニプラ南部まで届けてもらおうか。レジーヌの飛び猫。一匹貸してもらえるかな?
 松本 可奈(まつもと・かな)が入ってくる。
「可奈」
「また……何やってるの?!」
「え。何って俺はまだ何も……」
「司令部の方で、調査班が龍騎士と接触したかもしれないって情報が! ほら、ぐずぐずしてないで!」
「な、何。龍騎士……!」
「早速、非常事態になるかもわかんないのよ?!」
 だが、事態は更に……緊迫することとなる。ここ、ミカヅキジマにも……
 監視所の設営を行っていた三船は、見回りに出ていた黒乃は、見た。島の上空を飛来する翼を広げた四つの影……いや、五つ。
「にゃぁ。みふね隊長」「隊長か、良い響きだ猫。な、何だまさか」
「にゃぁ。くろの隊長」「おっ。上空に飛行物体確認。四機。五……む……五つ目のはやけに大きいな」「にゃぁ。ざうざりあす分隊の方、行くぞ。あいつら」「……急ごう。いや、この数ではまずいかも知れない。鷹村殿に……」
 旋回する五つの飛ぶ影。海岸伝いを見回っていたザウザリアスのもとへ。
「にゃぁ。ざうざりあす隊長」「何。私は隊長なんて柄じゃないよ。……はっ。龍?」「こっちへ来ますにゃ」