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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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 源 鉄心は、知己であるトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)の協力を得て、進言していた騎狼部隊からの騎凛師団長捜索隊の編成を許可され、共に進めていた。
「はい。鉄心さん、よろしくお願いします。うちの松平隊長は、貴官(トマス)を他の者と一緒に騎凛教官の救出に向かわせる、と仰ってました。なのでOkが出たということで」
「おお。キミが共に行ってくれるならこれほどありがたいことはない。感謝するよトマス君」
 鉄心は国境の一戦の後、騎狼部隊を率いるデゼル少尉に捜索の件を話した。デゼルは騎凛教官の救出に騎狼部隊が協力できるなら是非、と返答したがすぐに、しかし部隊の指揮権は林田少尉に移譲したのだった、と付け加えた。その後、デゼルはクィクモ着後、一時部隊から姿を消すことになる。(この辺りの彼の心情は序回で触れられている。)鉄心は林田に面会を求めたが、林田の方は先の一戦で石化の負傷を負い、クィクモまでも予断を許せない状況だった。鉄心はひとまずは、先行した久多と琳がクィクモで網を張って国頭を捕縛できればと願ったが、一方でそうはならない……おそらく、捜索隊は結成されることになる。そのときにはやはり騎狼部隊の力が必要だ、と考えていた。
 クィクモは一報を受けるや国頭の捜査に協力してくれたが、それで捕まる国頭ではなかった。久多と琳は、更に先へ進んでみると言い、すでにクィクモを出てしまったとのことであった。鉄心は改めて、司令部に話をしにいく。司令部も師団長の捜索については検討していた折であった。ここで鉄心は、騎狼部隊のことなら、第二陣としてイレブン・オーヴィルが来ており、林田樹ら負傷した同僚を見舞っている、と聞き会いにいった。
「かつて騎狼部隊を指揮し、第四師団初期の戦いで華々しい戦果を上げたと聞く。イレブン卿が戻っておられるならば……!」
 港の施設内に造られた診療所には、イレブン、メイベルが来ており、診療所を開設し現在、負傷兵の治療を統括しているのは一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)であった。林田も順調に回復しており、かつて騎狼部隊として戦った面々が集っていたのである。
 鉄心はトマスを伴い、ここを訪ねた。
「これは皆さん。錚々たる面々が集っておられますね」
 鉄心は、捜索隊を編成したい旨を話した。
「騎狼部隊から捜索隊を。ふむ。それはいいのではないかな」
 医務室の椅子に座って、鉄心に向かい合い真面目に返答するイレブン。
「そうですね。鉄心さんが率いてくれれば、部隊もよく動いてくれるんじゃないでしょうか?」負傷兵らの治療をしながら、一条が言う。
「え、お、俺がですか?」
「ふむ」
「私は当面、クィクモを動けませんし。おそらくこの先、戦時になればこのまま後方を担当することになります」
「私も、この通りだ」林田はベッドから話す。「力になりたいが、少なくとも今回は動けそうにない」
「え、ええ……」
 鉄心はどうしたものかとトマスの方を見る。
「鉄心さんなら、大丈夫では? 一応、騎兵科所属ですし」
「一応ね……」
「いえ、その……(だってプロフィールに一応って……)。とにかく、鉄心さんなら!」
「しかし……そうだ、イレブン殿はどうされるおつもりでいらっしゃる?」
「私は西王母、ごほん、いや……ちょっとした密命を受けておってな」
「西王母?」
「あ、メイベルさんは?」
 トマスは、医療の手伝いをしているのか薬箱を持って奥から出てきたメイベルに呼びかける。「私も実は、西王母……う、ううん、いえ何でもないのですぅ」
「えっ西王母……?」
 しかしトマスはメイベルの揺れる胸に目がいって話がそれきりになってしまった。
「トマス君?」「えっ。はい鉄心さん」
「では、イレブン殿。騎狼部隊は一時、俺が一部をお預かりする形で……」
「ふむ。とにかく、私は密命があるから今回、騎狼兵はとくに率いない。鉄心殿が捜索任務を遂行されるなら、一時預けてもいいのではないかな? 皆」
「うん。そう思いますね」メイベルから薬箱を受け取りつつ、一条。「私としては、市内の伝達や急務のあった際に動ける二十名程を残して頂ければ、後は捜索に駆り出しても問題ないかと」
「今回の戦いは、重兵器も出されると聞いた。戦力としても、騎狼部隊がすぐに前線に出されるということも少ないかも知れんな」林田の言葉に、さきの戦いを見てきたイレブンとメイベルは無言に頷いた。
「もっとも私たち騎狼部隊にしかできないこともあろう」林田は続ける。「それが今は、師団長の捜索と言えるかも知れん。私たちが動けないのだから、ここは企画者(プランナー※鉄心)、騎狼部隊を一時、頼む。姉御(デゼル)もそう言ったのであろう」
「デゼル少尉は――ええ。確かに。――足音がし難いなど隠密向き且つ、腐っても狼なら、鼻も多少は利く可能性あるしな、と。そう言っておられた」
「デゼル」イレブンは静かに、友の名を呟いた。
「五十騎。五十騎もあれば十分です」
「騎凛先生をどうか頼む」
 そこへ、医務室を訪れていた別の一行がこちらへ来る。
「騎凛先生を? 探しに行くの?」
 イルミンスールのミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)
「痛たた……あたしはまだあのろくでなしどもにやられたのが直ってないんだけど!」
 パートナーである魔王軍のルイーゼ・ホッパー(るいーぜ・ほっぱー)の治療で来ていた。イルミンスールからの第四師団への唯一の協力者が魔王軍一行であった。
「ルイーゼ?」
「ええ。そりゃあ、同じ釜の飯……じゃなかった。同じチョコバナナクレープを食べた類友な騎凛先生を助けるに行くのは当たり前っしょ?」
「ルイーゼ、これでもあのとき騎凛先生が、傍にいたのにさらわれて、怒ってたんだ。ワタシは国頭さんのことはちょっとやっぱりコワイけど……一緒に探しに行くよ」
「それは、心強い」鉄心は手を差し出した。
「あたしのパンツも盗られたままだしね」
 トマスは、ルイーゼの言動にちょっとどきどきした。
「えっ。何? トマスくん? ふーん。(うぶなようだし、からかったりしたらかわいそうかな?)」
「パ、パンツ……」
「トマス君。どうした? 様子がおかしいようだが」
「い、いえ。行きましょう!」
 しかしこのときトマスには、あるひらめきがもたらされていたのだ。それは後に明らかになる。
 ともあれこうして騎狼部隊・騎凛先生捜索分隊が結成されたことになる。
「魔王様には、騎凛先生の件は伝えてあるから、一時魔王軍から捜索の方に加わることを一言言ってくるよ。魔王様、そう言えばどこに行ってるかな?」
 魔王。第四師団に協力を申し出た魔王軍の魔王ことジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)は……
「ふふ、ふ」
 隣の診療室にいた。
「ふはは、く、く。少し沁みた……」
 こちらも国境の戦いで負ったすり傷を治療していた。
「ふふ。しかし、聞いたぞ。西王母。なるほど。ふむ。騎凛先生の捜索は、ルイーゼに任せるとしよう。俺は、西王母を……ふふ、ふははは、く、く」
 幾人かの者たちが、先立ってクィクモを出て行くことになる。
 騎凛師団長の捜索……
 そして、西王母、とは……? その謎の響きに惹かれたのは、ここに見た彼らだけではなかった。このお話は、物語の最後(第一回別章「コンロンの世界樹」)に語られることになる。