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リアクション
「未沙様。ぜひ、あゆむ様を救ってほしいのであります!」
作業する未沙の横でスカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)が熱く語りかける。
「スカサハは同族としてあゆむ様を助けたいのであります。そして、あわよくばお友達に……」
「はいはい。わかったからそれ、とって」
「あ、はい。であります」
未沙を励まし、手伝いをするスカサハのテンションは衰えることはない。
「スカサハはすごい熱心だよね。なんだかこっちまで熱くなってくる」
スカサハの様子を見ていたセレンフィリティは手首を動かし、自分に手で風を送る。
「脱ごうかな……水着」
「馬鹿なこと言わないでよ」
言葉を漏らしたセレンフィリティの後頭部に鈍痛が走る。
涙目で振り返ると氷を抱えるセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が立っていた。
「いったぁ〜。氷で殴ることないじゃん」
「私、手が塞がっているのよ」
セレンフィリティがセレアナに猛抗議する。
すると近くを通り過ぎようとしたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)から声が聞えてきた。
「ぜひ脱いで見せてくれ!」
「……」
「……」
「えっ……?」
セレンフィリティとセレアナが冷たい視線をエヴォルトに向けてくる。
「ま、待て、今のは――。『そう、これが俺の本当の心だ!』――!?」
エヴォルトの声に重なるように言いたい放題しゃべりまくる、誰かの声。
『だが俺は小さな女の子しか興味はないからな。自惚れてんなよ、おまえら!』
セレンフィリティとセレアナから、背筋が凍るような殺気がエヴォルトに向けられる。
「あら、そう……」
「いい度胸だわ」
セレンフィリティとセレアナの顔だけが笑っていた。
エヴォルトはこのままでは殺されると直感した。
今すぐ誤解を解かないとまずいと背後を振り返った。
「どこのどいつだ。――って、イグナイター、おまえか!?」
背後にいたのはイグナイター ドラーヴェ(いぐないたー・どらーべ)だった。
「は、早く、本当のことを話せ! 今すぐ、無実だと証明しろ!」
「……私は、お前の背後より聞こえる声を伝えているだけだ」
イグナイターはそれがエヴォルトの心の声だと否定しようとはしなかった。
すると、エヴォルト両肩がセレンフィリティとセレアナにがっちり掴まれ、部屋の外へと引っ張られていく。
「ま、待て、話せばわかる。話せばっ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁ……」
外から聞こえてくるエヴォルトの叫び。
「もう、何やってんだか……」
ファニ・カレンベルク(ふぁに・かれんべるく)は呆れてため息を吐いた。
「だめだ。このままじゃ冷却が追い付かない」
発熱が落ち着くどころか徐々に発熱を上げていくあゆむを、クロイスは忌わしげに睨みつける。
「発熱がひどくなっているのは周囲の部品が一緒になって熱を発しているからじゃないかな?」
ファニはクロイスの横からあゆむを覗き込む。
あゆむの至る所の部位が共鳴するように熱を上げていた。
「それなら、少し無理やりになるけど、一回全部取り出した方がいいかもしれないよ」
「それだ! 騨、それでいいか……あれ、どこいった?」
クロイスはファニのアイデアを実行をするために騨に承認を取ろうとするが、先ほどまで傍にいたはずの彼の姿が見当たらない。
「騨ならここにいるよ」
夏野 夢見(なつの・ゆめみ)が部屋の隅で倒れる騨を指さした。
「……何があった?」
近づき、泡を噴き出して倒れる騨を見てクロイスが怪訝そうな顔を夢見に向ける。夢見はフルフルと首を横に振っていた。
「あははははー。機晶姫をメイドにするとかなんとか、なめたこと抜かすから、お仕置きしておいたよ」
ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)がニコニコ笑いながらやってきた。
不安を感じながら夢見が質問する。
「お仕置きって何したの?」
「キャメルクラッチに垂直落下式ブレーンバスター……あとス○リューパイルドライバー」
「え!? 最後のは使えちゃだめだよ!」
「そっか。そうだよね。……ボクの旧式だからコマンド入力が難しいもんね」
「そういうことではないから!」
「あはは。ま、なんにしても大丈夫だよ! この通り辛うじて動ける程度にしておいたから!」
笑いながらロートラウトが軽く蹴りを入れると、騨は痙攣し始めた。
「…………」
「生きてるのが精いっぱいっぽいですね」
「うん。……ごめん」
そこへルーク・ヤン(るーく・やん)がやってくる。
「だ、大丈夫か!?」
医学や薬学に知識のあるルークは、騨に近づきを状況を確認する。
「これは大変だ! 早く、休ませないと!」
「そ、そんなにまずいのか!? ボクやっちまったのか? どどど、どうしよう」
慌てるロートラウトをルークは落ち着かせる。
「落ち着いて、君のせいじゃないから。彼は元々体力的にかなり消耗してたんだよ。随分寝てなかったようだし、今まで気力で耐えていたようなんだ」
体力の限界。
騨は依頼を頼む前に自分でどうにかしようとしてかなり無茶をしていた。
「ルーク、騨の看病をお願い」
「わかった。……あんた、運ぶのを手伝ってくれ」
「了解であります!」
夢見に頼まれたルークは傍にいた剛太郎に、騨を寝室まで運ぶのを手伝ってもらうことにした。
「そっちはそのまま皆の手伝いをするであります」
「かしこまりました、剛太郎さん」
剛太郎はソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)に後を任せ、騨を背負う。
その時、閉じていた扉が勢い開かれ、クロ・ト・シロ(くろと・しろ)が室内に入ってきた。
「おい、早見 騨ってのはどいつだ!?」
クロはソフィアに近づき、尋ねる。クロに気圧され、ソフィアは戸惑いながらも騨を指さした。
「あの人ですか……」
「あいつか」
「あ、こら」
「うるさい!」
「ちょ、あなた……」
制止に入った剛太郎とルークを吹き飛ばし、クロが騨に掴みかかる。
騨はボウッとした目で自分の襟首をつかみ、説教を始めるクロを見つめた。
「よく聞け、オレはおまえの理想なんて知ったこっちゃないし、ましてや他人の理想や夢をとやかく言える存在じゃねぇ。けどな猫耳にメイドにロボ? そんなことを「はいそうですか」と承諾できねぇんだよ。てめぇのやろうとしていることはそいつの存在を否定しているのと同義なんじゃねぇのか? おまえはそいつの本質をちゃんと見ているのか? てめぇはただ単に何でもかんでも三心合体すれば良いとか考えてるだけなんじゃねぇのか? そいつ価値も見ないで、てめぇの好き好みを押し付けて自分の勝手な理想を押し付けて、そんなの愚の骨頂だ。それなのに、そこまでして実現した夢を『≪猫耳メイドの機晶姫≫だけの喫茶店にご招待』とかいって他人に自分の理想と夢を分け与えようとする。……ふざけんな。てめぇがてめぇ自身の夢を軽んじてるんじゃねぇよ。自分がやり遂げたい夢ならもっと大切にしなきゃだめだろ。他人に譲るんじゃねぇ。自分の夢は自分だけのもんだ。誰にも譲るな。誰にも与えんな。お前はお前の夢と理想を胸に抱け、そして死んで逝け!! 」
騨は身体が怠くて何を言っているか理解できなかった。
それでも何か言おうとすると――
「うるせぇ。口答えすんなぁぁぁ!!」
――騨の腹にミドルキックが決まった。
「ぐへぇ……」
吹き飛ばされた騨は剛太郎を巻き込み、盛大に壁にめり込んだ。
「ざまぁwwwwwwwww」
クロは騨と剛太郎を見てニヤリと笑う。
そして、片手を上げていった。
「じゃ、帰るわwwwwwwwww」
何が何だかわからない生徒達を残して、満足そうな表情のクロは嵐のように去って行った。
「……何だったの」
「さぁ、でもとりあえず……」
ルークは気を失っている二人を見た。起き上がる気配もない。
「二人を運ぼう。あんた手伝ってくれる?」
「かしこまりました」
ソフィアは騨と剛太郎の襟首を掴んで引きずるように運ぶ。
室内を静かな沈黙が流れた。
「あれ、なんかおいしそうな匂いがしない?」
「セレンフィリティ、そんなにお腹がすいてるの?」
「違うよ、セレアナ。本当にするんだってば」
セレンフィリティに言われて、セレアナが周囲に鼻をきかせると確かにおいしそうな匂いがした。
他の生徒にもわかる匂いだった。
生徒達が周囲を見渡す。すると――
「ん? 何?」
ジャックがあゆむの熱でお湯を沸かして、塩味のインスタントラーメンを食べていた。
絵梨奈が顔を真っ赤にしてパートナーにぽかぽかと叩きかかった。
「私は醤油味がいいな〜」
「セレンフィリティ、やっぱりあなたお腹すいてるんじゃない」
「ち、ちがっ――」
その時、ぐぎゅぅぅぅ〜とセレンフィリティの腹の虫が鳴った。
なあ、作業は夜通し続いたという。
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