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リアクション
グラン・サッソで撃ち合いを
「おお、ここがグラン・サッソか」
グラン・サッソ。
第40代イタリア国王ムッソリーニが幽閉され、その救出のための戦いが行われた場所である。
「サバゲーにはもってこいの場所だな」
ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)は、ここでムッソリーニ救出作戦を、サバゲーで再現するためにやって来たのだ。
「あ。もうお仲間が集まってるみたいだよ」
神矢 美悠(かみや・みゆう)の目線の先には、二人の到着を待ちわびていた、現地のサバゲー愛好者たちがいる。
ケーニッヒはあらかじめインターネットを利用して、彼らに連絡をとっていたのだ。
「ムッソリーニ救出作戦を再現しよう!」
サバゲー愛好者たちにとって、これは最高の提案だった。
事件の舞台となったアルベルゴ=リフュージオ・ホテルも「モノを壊さないなら」という条件つきで、協力を了承してくれた。
メンバーは、ドイツ軍チームとイタリア軍チームに分かれ、ルールを決めた。
ムッソリーニを救出できるかどうかで勝敗が決するのだ。
その、ムッソリーニ役に指名されたのは、美悠だ。
「では、開始!」
ケーニッヒは、ドイツ軍チームのリーダーとして、先頭に立った。
チームを二手に分け、正面と裏手からホテルに突入する作戦。
ちなみに史実では、イタリア軍はすぐに降伏して事件は片付いてしまっているのだが、それを再現してはサバゲーにならない。
それはもはや演劇である。
ケーニッヒたちは、史実とは異なる結果になろうとも、本気で撃ち合うことを約束していた。
物陰から躍り出たケーニッヒが、すばやく数発発射する。
タタタタ……。
すぐに数名が、ヒットを申請し、悔しそうに見学者へとまわった。
さすがにパラミタで実戦経験を持っているケーニッヒ。
その動きは、他のサバゲー仲間たちを圧倒していた。
そして彼は、とうとうムッソリーニが捕らえられている部屋の前までやって来た。
ばたんっ!
ドアを開けた瞬間、信じられない出来事が起きた。
救うべき相手……ムッソリーニが、ケーニッヒに向けて撃ってきたのだ!
「お、おいおい美悠! ムッソリーニが撃ってはいけないのだよ!」
「だって、つまらなかったんだもん!」
「なに?」
「あたしだって……あたしだってエアガン撃ちまくりたいよっ!」
美悠のガマンは限界を超えた。
サイコキネシスで複数のエアガンを同時に撃ち出したのだ!
「それはルール違反……」
もちろん聞いちゃいない。
タタタタタタ……。
次々と倒されていく。
ドイツ軍も、イタリア軍も、一般客も、ホテル従業員も。
この弾の雨を避けることは、まず不可能だ。
それはまさに、空から降る雨を避けるに等しい。
逃げ場が全くないまま、人々はペイント弾が自分の服に染みを作るさまを、ただ見つめるだけだった。
やがて。
アルベルゴ=リフュージオ・ホテルは、全滅した。
勝ったのはドイツ軍でもイタリア軍でもない。
ムッソリーニの一人勝ちだ。
「そんなばかな……」
サバゲーなのだから史実は覆ってしかりなのだが、まさかのムッソリーニ一人勝ちに、さすがのケーニッヒも以降の言葉が出ない。
「てへっ」
暴れるだけ暴れたムッソリーニは、ぺろりと舌を出した。