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リアクション
ウェールズ
イギリス・ウェールズ地方。
その民俗博物館に、水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)と天津 麻羅(あまつ・まら)はやって来た。
「ここならきっと、ケルトに関する情報がいろいろあるはずだわ」
「ふむ。緋雨の選択にしては、なかなか的確な場所じゃのう」
二人は、ケルトに関する情報を追い求めていた。
「さっそく入ろう!」
博物館、という名前ではあるが、ここはいわゆる展示品をガラスケースにずらり並べているようなところではない。
「うわぁ……」
足を踏み入れた緋雨は、自分が昔にタイムスリップしたかのような感覚に陥った。
当時の建物や食料作り、工場などがそのまま再現されている、体験型の博物館なのだ。
「これはよい。まるでケルト人になった気分じゃて」
鍛冶を行っている工場をのぞいて、麻羅の声は弾んでいた。
当時と同じ方法で、作業を再現しているのだという。
金属を熱し、叩いている様子をしばらく見学する。
そこに、ケルト人の姿を重ねて。
2000年前の、ケルト人の村を再現したというエリアは、ただ歩いているだけで知的好奇心を刺激された。
ケルト人の生きた足跡、そのままなのだ。
「こんな暮らしをしてたんだね……」
原始的な鍛冶屋、屋根のとんがった住居、再現された食べ物などを見たり味わったりするたびに、見たこともないはずのケルト人たちが暮らした様子が、頭の中に映像で再生されるようであった。
少し、ケルト人についての話を聞けないだろうか。
そう思って、一人の従業員に話しかけてみると、不思議な言葉で返された。
「え? え? なに、通じないよ」
「おお、これがウェールズ語というやつじゃな」
ウェールズ語は、この地方独特の言語だ。
「英語じゃないんだね」
「英語も扱うようじゃがの。ウェールズ語も公用語なんじゃと」
ここはやっぱり、イギリスとは少し……いや、だいぶ違う。
緋雨の心は、どきどきと弾んだ。
「ああ、やっぱり売ってた」
緋雨が売店で見つけたのは、ラブスプーンである。
この地方で昔から作られている伝統的なスプーンだ。
これを手にした者は、願い事が叶うといわれており、食器としての役割を持つスプーンであるにもかかわらず、ネックレスなどのアクセサリーに加工されることが多い。
「結局……二泊三日の旅行じゃあ短すぎて、そう調べ物はできなかったけど、でも修学旅行としてはすっごく楽しかったから」
そう言って緋雨は、この旅の思い出だといって、ラブスプーンを購入した。
もちろん、麻羅のぶんも一緒に。
二人が買ったラブスプーンは、ネックレスになっていた。
さっそく身につけ、緋雨は満足して微笑んだ。
「ウェールズって、集合場所からかなり離れてるからね。もうそろそろ行かなくちゃ」
「そうじゃな。ずいぶん、遠くまできたものじゃ……」
「今度は、移動の時間を気にしなくていいように、のんびり来たいね」
緋雨は、手に入れたばかりのラブスプーンに「またここに来れますように」との願いを込めた。