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リアクション
■ 雪の妖精たち ■
今日は1日ずっと冷えて、昨夜積もった雪が夜になってもまだ残ったままだ。
身を切るような風の寒さから逃れるように、神崎 優(かんざき・ゆう)は神崎 零(かんざき・れい)と腕を組み、神代 聖夜(かみしろ・せいや)と陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)は手を繋ぎ、寄り添うようにして家路を急いでいた。
ちょうど公園に差し掛かった頃。
「わあ雪だ」
夜空から舞い落ちてきた雪を見た零が駆け出した。
「本当ですね。今晩もまた積もるのでしょうか」
刹那も雪を見上げる。
わた雪がふわりふわりと、夜空に白く落ちてくる。
「綺麗」
零は両手を広げ、空を見上げながらくるくると踊り出した。
舞う白い雪と零の白い翼が、夜の中に幻想的な光景を描き出す。
優はその様子に微笑んだ。気持ちは零と同じだけれど、足下にはまだ融け残った雪がある。うかれて回っているのも危ないからと、優は零に歩み寄り、
「あまりはしゃぐと危ないぞ」
言いながら零の身体を優しく抱き留めた。
「大事な身体なんだからな」
何かあったら大変だという優に、零は幸せそうに頷いた。
「どうして雪が降り出すと、何とも言えないワクワクした気持ちになるんだろうな」
そんな優と零の様子を眺めつつ聖夜が言うと、刹那は微笑む。
「でも、私もその気持ち分かりますよ」
雨と雪。どちらも空から落ちてくる水分なのに、雪はなんだか特別のもののような気がする。
寒い冬にだけしか見られない珍しさの為なのか、それとも空を舞う雪に心奪われる為なのか。その理由は分からないけれど。
「ねえ優。また優のステキな話を聞かせて欲しいな。春のときや雪のかまくらで、刹那に話してくれた時みたいに」
零は優に抱き留められたまま、お話をねだった。
「そうだな……」
何の話をしようかと優は少し考えてから、ゆっくりと話し出した。
「日本の寒い地方には、冬を知らせてくれる小さな虫がいるんだ」
「小さな虫?」
聞き返した零に、優は指先をほんのわずかに開いてみせる。
「5mmくらいかな。本当に小さくて儚い虫で、体はまるで綿に包まれたみたいに見えるんだ。俺の居たところでは、ユキンコと呼ばれていたな。他にも雪虫とかしろばんばとか、色々な名前で呼ばれているらしい。初雪が降る少し前ぐらいに現れて、いつしか姿を見なくなってしまう。そんな虫なんだ」
優はユキンコの飛ぶ風景を思い出すように宙に視線をさまよわせた。
「ユキンコはまるで雪が舞っているようにふらふらと飛ぶんだ。その様子や儚さから、『雪の妖精』とも呼ばれるらしい」
「雪の妖精って、とてもロマンチックで素敵ね。私も見てみたいなぁ」
「そうだな。零にも一度見て貰いたい風景だ」
雪が好きな零なら、きっと喜んでくれるだろう。
見られるかどうかは運もあるけれど、ちょうどユキンコの飛ぶくらいの時季に日本に行ってみるのも良いかも知れない。
「空を舞う雪の妖精……」
刹那はそう言いながら、降る雪に手を差し伸べた。
「ステキですね。それに優の話を聞くと、いつも心が温まります」
手の平に雪を受けて微笑む刹那の姿に、聖夜は見とれる。
夜と雪に刹那の銀の髪が映えて、刹那の方が雪の妖精のようだ。
「……っ!」
反射的に、刹那の妖精姿を思い浮かべてしまった聖夜は顔を赤らめた。
こんな風に赤くなっているのが恥ずかしくて、慌てて妖精姿を脳裏から振り払おうとするけれど、カゲロウのような薄い羽を背に微笑む刹那の幻影はとても綺麗で……心に焼き付いて離れない。
どうかこの頬のほてりが早く引いてくれるようにと、聖夜は顔を心もち上向き加減にして降る雪を受けるのだった。