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嘆きの邂逅~闇組織編~(第2回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第2回/全6回)

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 百合園女学院生徒会執行部、通称『白百合団』の団長である桜谷鈴子は喫茶店には向わなかった。
 校長の護衛を一部の白百合団員に任せ、自分は数名の白百合団員と挨拶に現れた分校長の崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)を交えて、馬車の中で軽く会議を行っていた。
「使い魔と思われる生き物の姿を何度か見かけました」
 まず、小夜子が鈴子に報告をする。
 種類や見かけた場所についても細かく説明をしてく。
「……使い魔ですか。例の組織絡みの偵察行為かどうかはわかりませんけれど、引き続き警戒しておいて下さい。知られてはならないことが知られてしまった場合を除き、手を出す必要はありません。私達は囮でもあるのですから」
「分かりました」
 内心、自分の判断が間違っていなかったことにほっとしながら、小夜子は席を立つ。向ってきたのなら応戦するつもりだったが、使い魔を含め、道中襲ってくる者はいなかった。
 このまま何事も起きなければそれに越したことはないのだけれど……。
「この話し合いの盗聴を目論む者もいるかもしれませんので、私はそれとなく周囲を回ってきます」
「よろしくお願いしますわ」
 鈴子の言葉に頭を下げた後、小夜子は馬車の外へと向っていった。
「早河綾さんが今回は一緒になりますからあの組織を刺激することは確実ですし、いくら警戒をしても足りないぐらいだと思います」
 白百合団班長のロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が、鈴子にそう切り出す。
「校長、早河さん、封印解除で消耗するマリルさんと重要警護対象が多いので、誰かの警護を専任する人以外はローテーションを組んで死角を無くす様にしたいです」
「そうですね……ロザリンドさんが名前をあげられた方全員個々に対して、護衛を自主的に申し出てくださった信頼の置ける方が複数名いますので、その方々で話し合っていただくことになると思います」
 鈴子の返答に頷いた後、ロザリンドは分校長の亜璃珠に目を向ける。
「昼間は人の出入りに注意を払い、屋内巡回者は不審物が無いかもチェック。夜間は分校からホールを監視する人も配置して、怪しい人影があるなら、その方角に合わせて笛を鳴らすなどという合図も必要でしょう」
 亜璃珠がロザリンドの言葉に頷く。
「教導団の方もいますので、警備についてはパラ実の分校としてはありえないくらいの体制になっています。が、パラ実の分校らしくない状態になっているともいえるわね」
 亜璃珠はそっとため息をつく。
「そうですね。分校と百合園の皆さんが、パーティに参加できる時間を増やせるよう、私自身は一日中外回りの警備を担当いたします」
「分校生の方も、私の補佐をしてくれている方達が、生徒会の雑用メンバーを引き連れて外の警備を担当してくれるそうよ。だけど、農家の敷地全部は無理でしょうし、分校には柵もなにもないのだから、警備担当者はいくらいても足りなさそう。寒いと思うけど、よろしくね、ロザリンド」
「何が起きても殺気看破などを駆使して、敵を警戒し、不埒者を止めます」
 言いながらロザリンドが思い浮かべるのは、大好きな桜井静香の顔だった。
 寒さに耐えて、我慢して頑張った分、好きな人の笑顔を護ることができたら……それもまた、自分の喜びだから。
 微笑むロザリンドに、鈴子が優しい笑みを浮かべた。
「よろしくお願いします。……ロザリンドさんには、期待もしていますし、色々、応援もしていますから」
「はい」
 ロザリンドは強く返事をする。
「先日、優子さんともお話させていただきました」
 続いて、亜璃珠が鈴子に語りかける。
「パラ実避けのカカシになるのはまあ……いいでしょう。ただこちらが『守ってもらう』体制を作るためには、少なくともお互いの信頼関係が必要です。やはりどうしてもこういった交流の機会は欲しいです」
「難しいことですわね……」
 鈴子は弱い笑みを見せる。
「この課外活動が、何か他の意味も含まれているんだって、プレナにもわかります……」
 馬車に残っていたプレナ・アップルトン(ぷれな・あっぷるとん)が鈴子に不安げな目を向ける。
「ヴァイシャリーでの事件や、ルリマーレン家別荘での事件のこと、プレナは少ししか関わってないので、わからないことばかりです。資料を拝見することは出来ますか?」
「本日は持ってきていませんし、分校にもそういった資料は保管されていないはずですので、学院に戻ったらご覧下さい。プレナさんは白百合団にも所属されていますので、閲覧制限などもありませんわ」
「ありがとうございます」
 微笑んだ後、プレナは特に気がかりなことを聞いてみることにする。
「農園で一緒に働いた男の子達は前の別荘を占拠してた人達だって農家の人達から聞きました。ああやって一緒に働けたってコトは、和解出来たってコトなんですよね?」
「全員と、というわけではありませんが、一部の方は農園を手伝ってくださっています。分校にも通ってらっしゃる方がいるそうですよ。占拠していた不良達のリーダーだった少年も、この分校の生徒会の手伝いをされているそうです」
「そうですか。解決はしたんですね。あと……凄く気になっていることがあります。やっぱり、綾さんのことが……」
「早河綾さんは、大きな闇の組織の幹部と思われる男に騙されて、組織の下で働かされていました。抜け出せない状況ながらも、自分が大切に思う人をどうにか守ろうと……少しでも被害を抑えようと、彼女なりに頑張ってきたのだと思います。その判断は決して正しいものではありませんでした。仕方がなかったとは思っていません。だけれど、彼女の考えを理解することは出来ます。白百合団としては彼女を責めるつもりはありませんが……納得のいかない者、特に保護者の方がいることは事実です」
「はい……」
 悲しい気持ちになりながら、プレナは頷いた。
 まだ資料を読んではいないので、詳しいことは分からないのだけれど。
 悲しいことが沢山あったこと、辛いことが沢山あったこと。
 綾にとってこの数ヶ月間は地獄の日々であっただろうこと。
 そして彼女は体の自由を失ってしまった。
 亡くなったという、サーナさんは……プレナ達に写真をくれた人だ。
 綾の母親にもプレナは会っている。
 白百合団の友人達――関わった人々の顔が、頭に浮かんでいく。
 綾のことをもっと真剣に考えてあげられていたら。そんな後悔の気持ちばかりプレナの中に湧いていく。
 せめて、学院に戻ったら目を逸らさずに資料を見ようと、プレナは心に決める。
「その組織ですが……動きがあったようです。パラ実生から得た情報によると、今回のパーティになんらかの薬を混ぜろと指示が出ているそうですわ」
 亜璃珠がそう報告をする。
 正確に言えば、パラ実生ではなくひなが得た情報をパートナーのナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)経由で聞いていたのだが、余計な心配をさせない為に情報提供者についてはあえて語らないでおく。
「素性の知れない者達にも配っているようですので、こちらに情報が漏れる可能性も視野に入れた指示と思われます。警備体制は整えてありますが……問題発生は避けられないでしょう、相手も相手ですから」
 軽く息をついて、亜璃珠は鈴子に真っ直ぐ真剣な目を向ける。
「責任は私が取りますわ。今は、築くべき信頼にひびを入れるわけにはいかない」
「どのように?」
「……パラ実送り候補がパラ実に行くだけ、そちらの方が平和でしょう」
 鈴子は亜璃珠の言葉に軽く考え込む。
 プレナは事態が把握しきれておらず、他の白百合団員達と一緒に困惑した表情で見守っている。
「優……副団長が許さないと思いますわ。あなただって、自分の部下が1人で責任をとると言っても止めるんじゃないかしら? だけど……あの堅物の副団長が納得するような方法があるというのなら、私は反対ではありません。貴女がそれだけの覚悟で臨んでいるのなら、お任せしたいと思います。分校側から校長を通じて交流会などを提案された時には、意見は出させていただきますが、反対はしないと約束いたします」
 堅物なのはこの団長も同じだな、などと考えながら、亜璃珠は首を縦に振った。
 分校の総長である神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)を納得させるような案なんて、思い浮かばないけれど。
 ……それこそ、嫌悪されるようなことでも、しない限り――。
 亜璃珠は軽く目を伏せた後、気持ちを切り替えて次の報告に移ることにする。
「それでは、警備体制について報告をいたします――」