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リアクション
第3章 異変
分校生と百合園生が楽しくパーティを続ける中、マリルと桜井静香、それからマリルの護衛に白百合団団長の桜谷鈴子を初めとする白百合団員と協力者達はそっとホールを抜け出した。
分校の役員には事情を説明してある。
「お嬢様と一緒にパーティの途中を抜け出すなんて、秘密の逢瀬みたいで何だかロマンチックですわね……♪」
暗い夜道をミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)は意気揚々と歩いていた。
「ミルフィってば……そんな呑気な事を言っている場合ではないですよ……」
楽しげなパートナーの様子に苦笑しながら、神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)は後ろを振り返る。
「このまま真っ直ぐでいいのですよね?」
「はい。正確な位置は分かりませんが、近づけば感じ取れると思いますので」
光精の指輪で周囲を照らしながら先頭を歩く有栖に、マリルがそう答えた。
一行は、マリルの封印を解くために、遺跡に向っていた。
有栖とミルフィの後に、マリル。
彼女の右を高月 芳樹(たかつき・よしき)とアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)が護り、左には橘 舞(たちばな・まい)とブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)が。
そして、後ろにはミア・マハ(みあ・まは)と桜谷鈴子。その隣に桜井静香、静香の護衛として真口 悠希(まぐち・ゆき)が同行していた。
蟻一匹入る隙のない万全な状態でマリルは護られていた。
「ごめんなさいね、寒いのに」
「お気になさらないで下さい。シャンバラ古王国の騎士様のお手伝いが出来て光栄です。何が起きても必ずお守りします。ですから、大船に乗った気持ちでいてくださいっ」
舞が真剣な目でマリルにそう言った。
「ありがとうございます」
「私はブリジット・パウエル。あ、これ名刺。推理研究会の代表やってるの。きちんと成功させて、仲間達にありのまま報告させてもらうわ」
ブリジットがマリルに名刺を渡す。
ありのままというか、誇張も脚色も存分にするつもりだ。とはいえ、とりあえずは成功させなければ話題にも出せはしない。
「それにしても、私達って囮のようなものなんでしょ? あのツインドリルヘア、本当に根性がひん曲がってるわよね」
「ブリジット、なんていうことを! 校長は危険を承知で、百合園生達の身を案じて胸を痛めながら、こうして自ら一番危険な場所に向ってらっしゃるのに。校長にもしものことがあったら、ラズィーヤさんもタダではすみませんもの。もちろんラズィーヤさんも苦しみながらのご決断をされたに違いありません」
舞が即座に言い返してくる。
「はいはい。そういうことにしておいてもいいわよ。ま、何らかの妨害があるにしても、相手は人身売買や物取り、身代金目的だと思うし。こっちの封印解除側で鉢合わせすることはないでしょー」
「ん?」
舞は訝しげに眉を寄せる。
封印解除が前回と同じようにうまく行くと思うのは危険。失敗すれば校長先生の責任になるし万全を期す為にもマリルの護衛についていくべき!
そんなブリジットの熱い言葉にそんなに校長のことを考えてくれるのかと感銘を受けつつ、舞はマリルの護衛に立候補したのだが……。
ブリジットとしては、実は校長のことなんてどーでもよかった。
今回の目的はとりあえず、土産話を持ち帰ることだ!
「何事もなかったとしても、マリザの時同様、封印解除にはかなり心身に負担がかかるんだろ?」
芳樹がマリザに尋ねる。
「そうですね……。でも、疲れるだけですから、大丈夫ですよ」
「他の人物が力を貸すことは不可能なのか? 残る4箇所の封印を解く際に、何か力になれたらいいと思うんだが、僕達が無理だとしてもマリルが力を貸すことは可能?」
「難しいですね。でも、疲れた体を魔法などで癒していただくことは可能ですから、同行していただければとても助かりますし、必要なら私も全ての解除に同行いたします」
マリルの言葉に頷いた後、芳樹は質問を続ける。
「パートナー契約をしたら、かかる負担は少なくなるんじゃない?」
「そうですね……多分」
「今後のことも見据えると、マリルも支え合う相手が必要になってくると思います」
頷きながらも、マリルは難しい表情をする。
「でも、そう簡単に決められることではありませんから。戦いに出ることになると思いますし」
「多分、マリルのパートナーに選ばれる人はそのようなことを笑い飛ばせるような人ですよ」
芳樹はそうマリルに微笑みかけた。
「きっと傍に居ていつでも笑いながら支えてくれる人でしょう」
続けられた言葉に、マリルが軽く笑みを浮かべる。
「もし良かったら僕とでは?」
おどけた口調で芳樹が言うと、マリルは微笑みを浮かべながらこう答える。
「もったいないお話です」
本気で話を持ちかければ、彼女も契約に踏み切りそうであった。
「マリルさんとても魅力的だし、契約したい方沢山いると思うわ」
アメリアは2人を優しく見守りながらも、周囲への警戒も忘れはしない。
会話をしながら、警戒に務めている有栖とミルフィは白百合団員だ。
マリルの反対側の隣を護っている百合園生の舞は校長を慕っているようであり。
後ろにいる悠希も、静香をとても慕っているようであり、白百合団にも所属しているそうだ。
その他、も含めて。
仲間の中に敵は混ざっていないように見えた。
それでも、アメリアは警戒は怠らないでおく。
マリル個人が狙われる可能性だけではなく、ハーフフェアリーという珍しい種族であることからも、彼女は狙われやすい存在といえる。
用心に越したことはない。
「バレンタインパーティ、皆凄く楽しそうでしたね」
後列には静香の他に、鈴子の姿もあったけれど、悠希は静香との会話に夢中になっていた。
「ボクは男の人が苦手で……あ、だから楽しめないってことじゃないですけどっ」
悠希の言葉を静香は優しく微笑み、頷きながら聞いている。
「でも静香さまは男の人だってわかっても全然平気でした……」
恋する気持ちにも変化は無かった。
静香のことが、本当に好きだった。ずっと変わらずに。
悠希は顔を赤く染めながら静香を見つめて言葉を続けていく。
「お優しいお人柄に触れていたからでしょうか……。いつもボクの話を受け止めてくれて……。よく、この間も心配もして下さって。益々大好きです……ッ」
「あ、ありがと……っ」
静香も少し顔を赤らめながら、答える。
恥ずかしげに微笑み合った後、悠希は少し表情を曇らせる。
「その分、ボク……男の子同士なのがとっても辛いです……。静香さまはどう思っていらっしゃるのでしょうか……」
悠希の言葉に、静香は戸惑いの表情を見せる。
「ボクは……魔法とかで女の子になれたらいいのにって思います……。このままじゃ……静香さまと結ばれても赤ちゃんも作れないのです……」
「あ、多分あのあたりです」
後半の言葉は、マリルの声と重なってよく聞こえなかった。
静香は戸惑いつつ、崩れた建物の場所に歩きながら……ゆっくり声を出していく。
「好きになったら、多分、まるごと好きなんだと思うから……性別が変わってほしいとかは、僕は思わないと思う。だけど、相手のために変わりたいって気持ちは大切な気持ちなんだと思う。辛い思いさせちゃって、ごめんね……」
「いいえ」
悠希は強い声で言い返す。
「それ以上に、幸せですから……!」
「ありがとう、本当に」
2人はまた微笑み合った。
崩れかけた建物の側に、皆が近づいた瞬間――。
「きゃっ」
「お嬢様!」
闇の魔法に、有栖が飛ばしていた人工精霊が襲われた。一行に動揺が走る。
「皆、マリルさんと校長をお守り下さい」
有栖は武器を構えて、魔法が放たれてきた方向に立ちふさがる。
「何者です!」
ミルフィもライトブレードを手に有栖の隣に立つ。
途端、今度は眩しい光が2方向から放たれる。
皆、目を細めながら静香とマリルを取り囲む。
「来ないで下さい、変質者!」
舞は催涙スプレーを辺りに振りまく。もう片方の手にはカラーボールを持っている。
(人数が多い。近づけないか……っ)
闇の輝石、光条兵器、バニッシュで、パートナーのレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)と共に、目くらましを試みた悠司だったが、相手の人数が多く目的の人物はしっかりと囲まれているため、近づくことが出来ない。
「そこまでだよ!」
パッと一瞬周囲が光った後、銃声が響く。
光――フラッシュの光に気付いた悠司は瞬時に建物の影に隠れて、銃弾をやり過ごす。
マリル達の護衛は、目に見える人物だけではなかった。
光学迷彩で姿を消して護衛していたレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)もいたのだ。
(マズイ、写真撮られた)
軽くフードで顔は隠してあるが鮮明に写っていたら知り合いにはバレるだろう。
カメラを奪いたくとも、多勢に無勢でどうにもならない。
「みんな逃げるのじゃ!」
ミアがアシッドミストを発動する。
「いつっ」
レティシアが小さな声を発する。
「こっちも逃げるぞ」
レティシアに声をかけた後、悠司は逃げようとしているマリルに向って声を上げる。
「仲間がガキを捕らえたはずだ。分校に戻れ。あんたが1人でコッチに来れば、ガキどもに手出しはしない。約束する」
それだけ言うと、レティシアと共に、悠司は闇の中へと走り去った。
レキもミアも、皆も追いはしない。
「子供達が……」
足を止めて動揺を見せるマリルの前に、鈴子が立った。
「大丈夫です。あの分校のトップは白百合団員です。彼女達の指示の元、本日は厳しい警備体制が敷かれていますから、信じて下さい」
「でも……」
「封印解除が遅れたら、離宮に向った者達の危険度も増します。分校には直ぐに連絡を入れますので、どうか冷静になってください」
鈴子は携帯電話を取り出すと、パートナーのミルミに電話をかけるのだった。
「封印の場所はここなのよね? 急いで戻るために、早く解きましょう」
アメリアがそう言い、マリルの手を引き、マリルは青ざめた表情で頷いた。
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