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リアクション
「なぁなぁ、ご主人様〜、パーティーに混ざってあったかいモンでも食べようぜ」
森猫 まや(もりねこ・まや)が、城ヶ崎 瑠璃音(じょうがさき・るりね)の服の裾をくいくいと引っ張る。
「そ、そういうわけには、参りませんっ……くしゅん。不逞の輩が百合園の要人や生徒達を狙っているかもしれませんもの!」
仕込み竹箒を振り抜く練習をしながら、瑠璃音はホールの周りをまやと一緒に警備していた。
自分も百合園の生徒だが、それ以上に神楽崎分校の一員として陰ながら役に立ちたいと思っていた。
厚手のコートをまとって、寒さを凌ぎながら、瑠璃音はパーティには混ざらずにずっと外の警備に当たっていた。校長や百合園の一般生徒には物々しさを見せたくはないので、警備をしていることは秘密にしてある。
「ったく頑固なんだから。ま、あたいもだけどな」
言って、まやは後ろから瑠璃音の体をふわりと包み込んであげる。
「まあ……ありがとうございます。ふふ」
ゆる族のまやの気ぐるみの暖かな毛に包まれて、瑠璃音は心地よさに顔を緩ませる。
「っと、そこで何をしているのですか」
瑠璃音はホールの脇に人影を発見する。即座にまやは光学迷彩で姿を消す。
淡い月明かりの下に姿を現したのは――子供だった。
「罠見に来たんだよぉ。かかってる人いるかどうかぁ」
「あ、罠を仕掛けてくださった方のパートナーの方ですね。今のところここから侵入しようとした者はいないようですわ」
「それじゃあ、また見に来るよぉ」
そのパラ実生の子供はのんびりとそう言って、のんびりとホール入り口の方へと歩いていく。
「危ないですから、もう1人で外に出たらダメですよ」
「んー……」
瑠璃音がそう声をかけるが、その子は曖昧な返事をして目を擦っていた。
眠いらしい。
「あたい達も入ろうぜ」
ホール入り口に子供を送り届けた直後、姿を現してまやがそう言う。
瑠璃音はやはり首を左右に振る。
「警備に戻りますわよ!」
そして、仕込み竹箒をぶんぶんと振る。
まやは苦笑しつつ、いつでも彼女を暖かなこの気ぐるみで覆って、護ってあげられるよう一緒に歩くのだった。
「何をしている」
喫茶店の駐輪場に人影を見つけ、ロボ・カランポー(ろぼ・からんぽー)が駆け寄った。
「チッ」
舌打ちをすると、近くに止めてあった自分のバイクに乗り込んで、その者は逃走する。
ロボは追いはしなかった。
「また悪戯か……ったく」
ロボは大きく息をつく。
ホールに入れなかった者達が集団で騒音を撒き散らしたり、パラ実生の改造バイクをパンクさせようとしたりと、そんなパラ実生らしい些細な悪戯が多かった。
誰でも入場OKにすれば、会場で問題が多発するだろうし。
こうして締め出せば評判が下がったり、腹いせに悪戯をしてくる者もいる。
全く難しい場所だ。
ロボは再び隠れ身を使って、駐輪場の脇に潜んでおく。犯罪内容によっては、逃がすつもりはない。
「ミ、ミルミ怖くなんかないんだからね! 白百合団の団長のパートナーとして、皆に護ってもら……じゃなくて、皆を護るんだからね!」
ミルミは、携帯電話を握り締めながらアルコリアと、白百合団員数人と一緒に外に見回りに出ていた。ホールの騒ぎはまだ知らない。
ライナはリナリエッタ達に預けてある。
……とそこへ。
「僕達も混ぜてもらえないかな?」
「悪い人がいないか、見回りしてるんだよね?」
ゆるいウェーブがかかったミディアムヘアの少年と、10歳くらいの少女だった。少年の方の服装は大人っぽく、キマクの少年らしくはない。
「僕の名前はジュゼッペ。賑やかだから見に来たんだけど、関係者以外は建物の方には近づいてもダメって言われちゃって」
「うん、今日はとっても可愛い子やすっごく綺麗な人が沢山来てるから一般の人お断りなんだよ〜」
そう説明するミルミを背後からアルコリアがなでなでしている。
「遠くから見てたけど、雪遊び凄く楽しそうだったね。君はみんなの先輩なんだね」
「うん、ミルミは白百合団員でもあり、子供達のお姉さま兼プリティーガールなんだよ!」
「ミルミちゃん、むぎゅ〜っ」
アルコリアがぎゅっとミルミを抱きしめだし、離さない。
「ね、さっき白百合団長のパートナーって言ってたよね? 白百合団ってどんな団体? 団長ってどんな人なの?」
少女がミルミに尋ねる。
「白百合団は百合園女学院の生徒会執行部のことだよっ。鈴子ちゃんは、強くて綺麗で優しい人。ミルミの家に伝わる魔法とか、ミルミは使えないのに、鈴子ちゃんは使えちゃったりするしねー」
少女の質問に、アルコリアにむぎゅむぎゅされながら、ミルミは答えていく。
「そのパートナーに言われて、子供達の面倒みてたのか?」
トン、と。獣人が木から飛び降りて、ミルミ達の前に着地をした。
少年、少女達の友人のようだった。
「言われたからじゃないよ、当然のことだし!」
ミルミは胸を張ってそう答える。
「ま、面倒を見るくらいわざわざパートナーに言う必要もないよな。子供じゃないんだし」
「そだね。ミルミ、立派なレディだし!」
……そんな風に、他愛もない話をしながら、周辺を見回っていく――。
「そろそろ行かなくちゃ。今日は君と出会えて嬉しかったよ、ミルミ」
数十分、一緒に見回った後、少年がアルコリアに抱かれたままのミルミの手首を自然な手つきで取った。
「今度は僕が君達をパーティに招待させてもらうよ」
そして、1枚の紙をミルミの手のひらに置いて、包み込むように両手でミルミの手を閉じさせる。
「それまでは、君達が百合園や分校で何をしているのかメールで教えてよ」
「ダメです」
アルコリアが即答する。
「ミルミちゃんは渡しません。ぎゅむっ」
「あははははっ。メル友ならいいよ〜。ミルミ男の子の知り合い少ないから嬉しいっ」
「うん。僕も連絡するから、百合園の白百合団のミルミ」
言って、少年は少女と獣人と共に足早に歩き去った。
「手伝ってくれてありがとね〜」
ぶんぶんミルミが手を振る。
――その直後。
ミルミの携帯電話が鳴った。
相手は鈴子だ。
「かなり警戒が厳しくて近づけなかったね。あの子もずっと1人にはならなかったし」
ミルミ達から離れて、帰路につきながら少女ミラジィオ・キマク(みらじぃお・きまく)が、ジュゼッペ――サルヴァトーレ・リッジョ(さるう゛ぁとーれ・りっじょ)にそう言った。
サルヴァトーレは元の姿に戻って後ろを振り返る。
子供達が無邪気に遊んでいた姿が脳裏に蘇り、死んだ息子や娘――家族を忘れつつある自分に静かに苛立ちを覚える。
「電話来ますかね」
人の姿になった、獣人マルコ・ヴォランテ(まるこ・う゛ぉらんて)は、サルヴァトーレの後ろを歩いている。
何も答えず、サルヴァトーレは闇の中を歩き出す。
「鈴子お姉ちゃんから電話があったんだけどね」
「あったんだけどね」
ホールの中で、小さな手でぎゅっと携帯電話を握り締めて、ライナはリナリエッタに一生懸命説明を始める。
鈴子からの電話は、ライナにもかかってきた。
「わたし達、ようせいの子達をね、さらおうとしてる人いるんだって!」
「いるんだって!」
ライナと手を繋いでいる眞綾がライナの言葉を繰り返していく。
「だから、ほごしゃの人からはなれないでみんないっしょにいなきゃダメなんだって」
「ダメなんだって」
「それは大変だわぁ。皆のことは、しっかり護らなくちゃだわぁ」
いつものように、にやにや笑みを浮かべながら、リナリエッタはハーフフェアリーの保護者達にライナの言葉を伝えるのだった。
「こち、この子達から目を離さないでね」
リナリエッタが、パートナーのこちにそう言うと、こちは「はい、マスター」とだけ答えて、後は何も言わずに、ライナと眞綾の前に立ち2人をじっと見つめていた。
ただ、こちの中に浮かび上がる感情は、護らなければならないという気持ちよりも、なんだかもわもわとする表現しにくい感情だった。
リナリエッタは自分のことを大好きだと言ってくれる、けれど……。
この愛らしい子供達がリナリエッタの側にいると、なんだか落ち着かないのだ。
それでも頑張って、姉としてこちはライナ達と遊んであげたり、こうして護ってあげたりしている。リナリエッタの為に。
「ったくアルは……」
シーマは電話を切って、顔を顰めた。
「アル殿はなんじゃと?」
ランゴバルトが問う。
「ミルミともう少し遊んでくるからよろしくねー、だと」
「意外とここで直接護っている我輩達より、役に立ってるかもしれんぞ?」
「ま、否定はしないでおくよ」
シーマとランゴバルトはライナと眞綾、それからハーフフェアリーの子供達を集めて、護衛をしている。
会場内は騒がしいが、百合園生や協力者に連れられて訪れた子供達には異変はない。
泣いたりわめいたり、笑い出したりと、おかしな症状を発症するのは殆ど百合園生だった。
「外も気になるが、可愛い子供達を置いてはいけないのう」
事態が良く分かっていない眞綾は、ライナと手を繋いで楽しそうな笑顔を浮かべている。
この笑顔が消えることのないよう、シーマとランゴバルトはここで皆を護り続ける。
「向うの方には誰もいなかったぜ」
「犬はいたけどな」
「いや、狼だろ」
「馬じゃなかったっけ?」
見回りをしていたブラヌと少年少女達がミヒャエル達の元に戻る。
「てめぇら、寝ぼけてんじゃねぇぞ。ゴロゴロいるだろうが」
そう不良口調で言うミヒャエルの前には、捕らえられたパラ実生が両手両足を縛られもがいていた。
「はなせー。ハーレムに行かせろー」
「ちょこれぇとぉまであとすこぉし……」
「ったく。未練がましく徘徊してるパラ実生が多くてねぇ」
アマーリエがため息をつく。
ホールに忍び込んで紛れようと目論むパラ実生が多く、捕まえても捕まえても四方八方から彼等は湧いてくるのだった。
「殺気を放っている者はおらぬが、すさまじい欲望を感じる……」
ロドリーゴは捕らえた者達が這ってでも分校に向おうとしている姿に感心を覚えていた。
「ま、てめぇらも、真面目に分校に通えば、今日みたいな日に招待してもらえるってわけさ」
べしべしとブラヌはパラ実生の頭を叩く。
「っと、またバイクの音だぜ」
ミヒャエルが、ホールに近づいていくバイクに気付く。
休む暇もなく、警備員達は動き回るのだった。
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