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リアクション
「寒い中、貧乏籤で悪いねぇ」
警備に追いやられたブラヌは、アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)の存在に癒されていた。
「だけど周りが楽しんでる中でツッパリ通すのがホントの侠気の持ち主さね。働きのあった奴にはアタシからもチョコをやるよ!」
「へっくし。チョコだけじゃ足りねぇよなー」
素直にほしい!とは言わず、ブラヌは不満そうに言う。
「何もずっと警備してろってんじゃねぇぜ! 休憩時間はホールで好きに過ごしていいんだぜ。護ってくれる野郎達に女どもはメロメロよ!」
普段は使わない粗暴な口調で、ミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)はブラヌを含め、警備に駆り出された分校生達にそう説明をする。
「心頭滅却すれば雪もまた温し、じゃぞ諸君」
ロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)は、震えているパラ実生にそう声をかけるが「そんなんで温まるかー!」と反論されてしまう。
「体が凍っちまったら、いざという時に動けねぇからな! 要所要所で暖まれるよう暖房器具を準備してあるぜ」
ミヒャエルはそう言って、ブラヌの肩をポンと叩いた。
「よーし行くかあ、美味いチョコレートを食う為に〜」
ブラヌが声を上げると、若い分校生達が「おおー」と声と拳を振り上げる。
道路に面した場所には、青 野武(せい・やぶ)とパートナー達がテーブルを設置し、業者用の受付を設けていた。
出入りの業者……といっても、普段は殆どいないのだが、今日は百合園生を迎えてパーティを行うということで、普段は必要としていないものも、色々と仕入れている。
「これは何でしょう?」
黒 金烏(こく・きんう)が食材を運び込もうとする業者に尋ねる。
「ああ、これはサービスだよ。百合園生が来るっていうからね。花束くらい必要だろ」
「こちらで預からせていただきます」
悪意は全くなさそうであったが、直接の運び入れは遠慮してもらうことにする。
お手拭や布巾は、中身を確認し変なものが紛れていなければ運び入れに許可を出すが、サービス品や花輪などは一切受け取らず、搬入許可も出さなかった。
「飲食物には全て魔法で解毒をしておきたいものですな」
シラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)は、搬入前の材料の元に、青 ノニ・十八号(せい・のにじゅうはちごう)を引っ張っていく。
「しかし、それは不可能というもの。頼みましたよ」
「え? これも!?」
十八号が目を見開いて、野武に顔を向ける。
「もちろんじゃ。持ち込む材料は全て、すーべーて片っ端ら毒見するんじゃ」
野武は深く頷いた。
「ひどいじゃないですか、何か入っていたらどうするんですか? これ小麦粉ですよ? こっちは唐辛子ですよ!? このまま食べろと食べろというんですか?」
野武は十八号の言葉にもう一度深く頷く。
「おぬし、お腹いっぱいご飯を食べるのが夢じゃろう。安心して食べるが良い。ぬははははっ」
「なんですかその根拠のない笑いは。あぅ。やめてくださいよう」
抵抗する十八号の口に、シラノが紙皿に盛った小麦粉を近づける。
「大丈夫です。全て終わったら、十八号君も解毒しますから。……精神力が残っていれば」
「うううっ。残しておいて下さい……」
涙目になりながらも、十八号は小麦粉の毒見を始める。
「な、何この建物……!」
護衛の百合園生達と一緒に、ホールへ訪れた桜井静香が驚きの声を上げる。
信長が設計したホールは、まるで城郭の1階だった。外見だけとはいえ、立派な造りであった。
屋根には見事な金の鯱が飾られて――。
「ん? 尻尾が黒……」
「校長先生のおなーーーーりいいいーーーー!」
慌てて駆けてきたニニが、手を入り口の方へと向けて静香を促す。
何故か必死なニニに、笑みを見せた後、静香は百合園生達と一緒にホールへと入っていく。
暖かな拍手と、パラ実生達の歓声で百合園生達は迎えられる。
「お手伝いのつもりだったのに、来客として凄く良くしてもらっちゃってるね……」
静香は不良達の姿に多少恐れを感じながらも、分校に通っている百合園生達に導かれて奥の席に向っていく。
「そんじゃ、校長も席についたし、楽しい会にしようぜ!」
パラ実生の1人がノンアルコールビールを注いだグラスを持ち上げると、皆も飲み物が注がれたグラスを持ち上げて乾杯をする。
特にプログラムや開会の挨拶はなく、ざっくばらん無礼講なパーティが始まる。
「料理用意しました〜♪」
ミルディアが、奥のテーブルについているモヒカン集団に料理を出していく。
「おお!? 美味そう〜。でもどうやって食うんだ?」
テーブルの上に並べられていく食べ物に、パラ実生達はフォークを使うべきか、箸を使うべきか悩む。
「これは、こっちの肉とか野菜を乗っけて巻いて食べるんだよ」
ミルディアは試しにひとつ巻いて、手伝いながらもの欲しそうにしているイシュタンに渡したのだった。
「たべていいの〜?」
「いいよっ」
ミルディアがそう答えると、イシュタンは嬉しそうに微笑みながら、ミルディア特性の、モレソースを使ったトルチーヤを口に入れるのだった。
「俺も〜。腹へってたんだ!」
「いただきっ。俺、こっちのソース」
次々に、分校生達も自分の好みの具を入れて巻いて、食べていく。
ソースはモレソースの他に、中華風チリソースと和風テリヤキソースも用意してあった。
「美味い美味いぜ……だけど……?」
にこにこ分校生達は笑みを浮かべてミルディアを見ている。
「わかってるって、ちゃんと用意してありますよ」
ミルディアは箱をひとつ、そのテーブルに置いて、蓋を開けた。
中には、大きなチョコレートケーキが入っている。
上部には、『發燈射芭蓮太隠』とホワイトチョコレートで文字が書かれていた。
「おっし、切って食おうぜ!」
「俺、射の文字んとこがいいぜ!」
分校生達が明るい声を上げる。
「太って文字のところだけ残っちゃったりして」
「いしゅたんは、もじないとこでいいよー、いいよ〜」
ミルディアとイシュタンも一緒に笑いながら、ケーキを切り分けていくのだった。
「よかったら食べて下さい」
神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)も、手作りのチョコレートを分校生が集まる別のテーブルに並べていく。
フォンダンショコラやショコラムースなど、チョコレートをふんだんに使ったケーキやタルトだ。
「食べるのもったいねぇ〜」
「それじゃ、俺がホールごと戴く」
「待て! それは俺んだ」
軽く取り合いをして、喜んで食べ始める分校生に有栖は微笑みを見せる。
「沢山ありますから。他の皆さんも用意していますし」
「チョコレートどうぞー!」
ミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)は、大きな袋から取り出してチョコレートを配っていく。
ちょっと怖そうだと思う人にも、臆せず近づいて笑顔で差し出す。
「うおおおっ、さんきゅ!」
「くはーっ、ホワイトデーにはダチ引き連れて礼に行くからなー」
「連絡先教えてくれよ!」
「今晩はここに泊まっていってもいいんだぜ」
ミネッティは分校男子生徒に囲まれてしまう。
「喜んでもらえて嬉しいっ。お礼のことなんて考えなくていいんだよ」
ミネッティが配っているチョコレートは既製品だ。
正直、手作りは面倒で、怠けてしまった。
だけれど、パラ実生達は本当に嬉しそうに受け取ってくれる。
中にはそれなりにモテそうな人も混じっているけれど、そういう人も嬉しそうに明るく受け取ってくれる。
(ちょっと困ること言う人もいるけど、明るくて楽しい人達ばかり!)
ミネッティも笑顔を溢れさせる。
「それじゃ、何か用がある時には、学校の方に連絡してね。白百合団のミネッティ・パーウェイスって言えば通じるから。送ってくれてもいいよー」
「送る送る、家まで送るぜ〜」
「やだ、そういう意味じゃないよ」
ミネッティは分校生達と楽しく笑いあった。
「あっ、校長だ!」
分校生達に取り囲まれている桜井静香の姿がミネッティの目に映った。ミネッティは「また後でね」と分校生達に言って、チョコレートの入った袋を抱えて静香の方へ駆け寄っていく。
「桜井校長、食べて下さい」
びしっと差し出したのは、皆に配っている物と同じ、既製品のチョコレートだ。
「ありがとう、ミネッティさん。本当は慰労の意味も兼ねて、僕の方から配るべきなんだろうけど、なんか沢山もらっちゃって……」
既に、静香は百合園生や分校生から沢山お菓子や贈り物を貰っており、1人では持ちきれずに白百合団員の生徒に持ってもらっている状態だった。
特に百合園生からのチョコレートはとても可愛らしくラッピングされた手作りのものが多くて、明らかにミネッティのあげたものとは力の入れ具合が違う。
「あたしも校長には自分で作ったものを渡したかったんだけど……」
ちょっと残念そうな顔をしながらも、ミネッティはこう言葉を続ける。
「でも食べちゃえば一緒じゃん!」
その言葉に、校長を取り巻いている百合園生は少し驚きの顔を見せるが、静香はいつものように優しい笑みを浮かべる。
「手作りじゃなくても、嬉しいよ」
「うん! それじゃね〜」
ミネッティが笑顔を浮かべる。
そして、大きな袋を抱えてみんなにチョコ配りに戻るのだった。
「どうぞ〜」
如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)も、小さな袋に入れたチョコレートを分校生達に配って回る。
袋の中には丸い小さなチョコレートが3つずつ入っている。
誤解されると困るからという理由で、ラッピングはシンプルにしてある。
「形はちょっと変かもしれないけど、味は保証するよ。ねっ」
日奈々と一緒にチョコレートを作った冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)も一緒に配る。千百合は料理はあまり得意じゃないけれど、チョコレート作りは基本溶かして固めるだけだから。それ以上何も手を加えなかったので、胸を張って味は保証できる。
「さんきゅー! 2人共可愛なあ。一緒に食おうぜー。あーんとかやってれよぅ」
「そういうことは彼女つくってやってね! それじゃ、他の人にも配るから」
千百合は絡まれかけてる日奈々を引き寄せて、パラ実生達から離す。
「離れないようにね」
「はい……」
目の見えない日奈々は千百合の腕に自分の腕を絡めて一緒にチョコを配って回るのだった。
「こぼさないように気をつけて下さいね」
エルシーは紙コップに入れたホットチョコレートを分校生達に配っていく。
「ビールもどきより、お体が温まりますよ」
「ありがとー! 鍋ごと飲みたいぜ!」
分校生の1人が、受け取った紙コップを両手で包み込む。
「おっ、紙コップのこの文字、俺等に合わせてくれたんだな!」
「はい。ルミさんが書いて下さいました」
エルシーの隣で、ルミが頭を下げる。
「ドラゴニュートの相棒か! 心強そうだな」
「はい」
分校生の言葉に、エルシーはにっこり微笑んだ。
「分校の人たちばかりずるいのー。ラビもチョコレートもらいたいな」
ラビはエルシーの服をぐいぐい引っ張る。
「ラビさんもどうぞ」
身をかがめて、エルシーはラビにもホットチョコレートを渡した。
「テーブルの上のチョコレートやお菓子は自由に食べていいそうですから、後で一緒に食べましょうね」
「うん!」
返事をしながら、ラビはすぐに近くのテーブルにちっちゃな手を伸ばして、焼き菓子を引き寄せるのだった。
「どうぞ。お疲れさまでした。お体冷やさないで下さいね」
次のテーブルに配りにいくエルシーの姿に、ルミはほっと息をつく。
雪遊びにも興味があった彼女を、風邪を引かないようにと飲み物作りを進めたルミだったが。
文字を間違えるとフクロにされるとかなんとか、ミルミが不穏なことを言っていたことが心配でならなかった。
でも、真心を籠めて配るエルシーと、凄く嬉しそうに受け取る分校生の姿――皆の笑顔を見ているうちに、そんなことはなさそうだと、安心感に包まれていった。
「お嬢さん、どうなさったんすか!」
分校生の方も、受身でチョコレートを待っている者ばかりではない。
「そんな足で歩いたら危険でっせ。俺等の作った椅子に座った座った」
少年達が、自分達より少し年下の女の子を席へ誘導しようとする。
その少女は、足を包帯でぐるぐる巻きにしており、杖をついて歩いていたのだ。
「大丈夫じゃ。若者の楽しむ姿を見て回りたくての」
見かけも声も少女だが、しゃべり方は老人のようだった。
「けど無理はすんなよー。倒れたら運んでやるけどよ〜」
「気が向いたら俺等とも話しような!」
少年達は少女の実年齢を感じ取ったのか、しつこくはせず、百合園生が集まるテーブルに向っていった。
「すまないのう」
礼の言葉を発しながらも少女――パートナーと共に警備を担当しているグレゴリア・フローレンス(ぐれごりあ・ふろーれんす)は、厳しい目付きで少年達を見送る。
その後、ディテクトエビルを発動し、会場内を探ってみるが今のところ反応はない。
「何も起こらねばよいがの」
携帯電話を取り出して、グレゴリアはパートナーに状況を伝えておくことにする。
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