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リアクション
「……楽しもう!」
ため息をつきながら、自分で用意した火桶に張り付いていた鳥丘 ヨル(とりおか・よる)だが、静香をちらりとだけ見た後、ハーフフェアリーの子供達が集まる方へと歩いていく。
「こんにちは、皆元気そうだね!」
「んん? おんなじ羽だけど知らないひと」
「知らないひとー」
集まっていたハーフフェアリーの子供が、ヨルの姿に首を傾げる。
ヨルの背には羽がついている。
「仮装させてもらったんだ。皆の元気を分けてもらおうと思ってね! 皆楽しそうだね」
ヨルがそう答えると、子供達はこくんと頷いた。
「ん! わたしたち、いまたのしいよ」
「いろんなとこで、いろんなことしてるのー! おねぇちゃんも、いろんなことするとたのしいよ!」
「楽しいよ!」
目を輝かせてる子供達の中に、ミルミ達も加わっていた。
「たのしいよぉ」
ライナも一緒に暮らしていた皆と再会できてとても嬉しそうだ。
「ほら、ニクスも行ってらっしゃい」
高務 野々(たかつかさ・のの)が自分の腕にぎゅっと抱きついているハーフフェアリーの少女、ニクス・スティーリア(にくす・すてぃーりあ)を前に押し出した。
「うんっ。でも、ののおねぇちゃん、どこにも行かないでね」
「ここにいますよ。ニクスこそ、勝手に外に出たりしたらダメですよ」
「はあーい」
可愛らしく返事をして、ニクスは友達の輪の中に入っていく。
「こんにちは〜」
神代 明日香(かみしろ・あすか)が、ニクスを見守る野々に近づいた。
「こんにちは、皆さん楽しそうですね」
「はい〜。リリアも行ってきていいですよぉ〜」
明日香がそう言うと、パラ実生達にびくびくしていたハーフフェアリーのリリア・フローズン(りりあ・ふろーずん)がぱあっと顔を輝かせて、友人達の方へと走っていった。
「久しぶりなの。雪とかすごいの!」
「久しぶりー、リリアちゃ〜ん♪」
「お外にゆきのおうちあったよね。入ってみたいなあ」
「わたしも〜」
子供達が輝く笑顔を見せて、新たな保護者の元での生活や、遊び、雪の話にと会話を弾ませていく。
「まだ始めたばかりですので、セーターなどは編めないのですが」
「セーターは難しいですよね。マフラーから始めませんと」
「はい」
ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)は、百合園生に紛れて手芸の話や、ペットの話に花を咲かせていた。
「あ……っ」
ユニコルノの隣で俯いていた男の子が、ハーフフェアリーの子供たちの声に気付きユニコルノを見上げる。
「お友達も沢山来ているようですね。一緒に行きましょう」
ユニコルノがそう言うと、男の子――マユ・ティルエス(まゆ・てぃるえす)が首を縦に振った。
「でも、へんなかっこうのひと、たくさん……こわい……ですっ」
怯えているマユに、ユニコルノは何と言葉をかけてあげたらいいのか分からない。パートナーの早川 呼雪(はやかわ・こゆき)の指示を仰ぎたいところだが、彼はホールの外に出てしまっている。
「大丈夫です」
とだけ言って、ユニコルノはハーフフェアリーの子供達が集まっている場所に、マユを連れて行く。
「久、しぶり……っ」
子供達の元に着くと、マユは緊張と恥ずかしさで顔を赤らめながらも、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「マユちゃんだー。久しぶりっ」
直ぐに、ニクスが元気に声をかけてくる。
「マユちゃんは今、どんなことしてるの? あたしは大好きなおねぇちゃんと一緒に、百合園にいるんだよ!」
「ぼくはバラがいっぱい咲いてるおうちにいるの。楽しいけど、みんなといた頃がなつかしいな」
「うんっ。今日はいっぱい遊ぼうね!」
「うんっ」
子供達に混ざっていくマユの姿に、ユニコルノはほっと息をつく。
自分はこうして見守っているだけで大丈夫そうだ。
「微笑ましいですわね。来られなかった子のために何かお土産を持ち帰れればいいのですが」
メイベルのパートナーのフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は小さなハーフフェアリー達の姿に、微笑みを浮かべる。
「チョコレートを持ち帰れれば一番なのでしょうが、男性の分校生達が奪い合うようにかき集めていますから、難しいかもしれませんね」
ユニコルノが分校生達の様子を見ながら、そう言った。
「そうですわね……。食材は余りそうですから、戴いていって、土産話と一緒に別荘で何か作ってご馳走するのも良いかもしれませんわね」
「はい良案だと思います」
ユニコルノがそう答えると、フィリッパはユニコルノにゆったりと頭を下げて、ハーフフェアリー達に再び微笑みを向けた後、メイベルと綾達の元に戻ることにした。
「優子副団長からじゃないですけど、はい、どうぞ」
秋月 葵(あきづき・あおい)がとびっきりの笑顔を浮かべて、チョコレートを差し出すと、分校生の少年ががしっと葵の手ごとチョコレートを掴んだ。
「神楽崎総長に貰うより、ずっと嬉しいぜーっ」
「言いつけますよ」
にっこり笑って、葵のパートナーのエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)が、少年の手を葵の手から剥がす。
「冗談に決まってるじゃないですかー。はっはっはっ。うおっ、可愛いチョコっすね、作り主の可愛らしさが現れているかのようっす!」
チョコレートは青いリボンが結ばれた可愛らしい袋の中に入っている。
「ありがとー。これはね、チョコはコーティングなの。中はクッキーだよ」
「おおーっ、1個でチョコとクッキーの味が楽しめるってわけっすね! お礼にハグしてもいいっすかー!」
「ダメです。ふふっ」
エレンディラが分校生と葵の間に微笑みながら入り込んで葵を守る。
「どうぞ」
葵と一緒に訪れた秋月 カレン(あきづき・かれん)も、お菓子が入った袋を分校生達に配っていく。
「ありがと、おじょーちゃん♪ 10年後にも来てくれよ〜」
大きなごつごつした手で頭を撫でられて、カレンはちょっとびっくりしながらもにっこり微笑んだ。
「喜んでくれたよぉ」
カレンは葵にぎゅっと抱きつく。
「それじゃ、あっちの人達にも配っちゃおう! 全部配り終えたら、お友達と遊ぼうね」
「うん!」
葵と一緒にカレンはお菓子を入れた袋を持って、手作りのテーブルに固まっている分校生達の方へと向う。
2人の様子を暖かい目で見守りながら、ふとエレンディラは一方に気を取られる。
壁寄りの席に、車椅子に乗せられた早河綾の姿があった。
彼女のことは多くの白百合団員達が護衛している。自分達までも護衛につく必要はなさそうだった。
「お任せしても大丈夫そうですね。何も起きなければ良いのですが……」
心配そうに言葉を残しつつエレンディラは、葵とカレンの後を追うのだった。
それからハーフフェアリーの子供達は皆一緒に外へと出た。
外はもう真っ暗だったけれど、篝火が焚かれており、月の光と共に、薫が作った雪像達を照らし出していた。
「おすべりしよー!」
「わたし、いっちばーん」
「わたしは、かまくら入りたいな」
「なかでおはなししよ〜」
カレンも久しぶりに会った友達と合流をして、一緒にかまくらに入っていく。
葵も一緒に入りたかったけれど、子供達だけで定員オーバーのようだった。
エレンディラと一緒に、近くで見守りながら、幻想的に照らされている雪像を楽しむことにした。
「賑やかだな」
巡回をしていた呼雪も、マユや子供達が楽しそうに遊ぶ様子に顔をほころばせる。
「中も賑やかです。パラ実生が雄たけびを時々上げています」
それはチョコレートを貰った喜びの声だ。
そう報告をするユニコルノに微笑んで頷くと、呼雪は警備に戻ることにする。
子供達は時間を忘れて、雪で遊び続ける。
しかし、とても幼い子もいるため、保護者でもある契約者達は早めに室内に連れ戻すことにした。
稲場 繭(いなば・まゆ)とアユナ・リルミナルは顔を合わせて頷き合った後、バスケットを手に一緒に出陣する。
分校生達は概ね陽気で、明るかったが、声が大きく騒がしい。
外見もこわもて……というより、メイクで怖そうに作り上げている者もいるらしく、繭達にはちょっと近づきにくかった。
でも、一緒なら大丈夫、と。繭とアユナ、それからパラ実生なんて怖くもなんともないエミリア・レンコート(えみりあ・れんこーと)も一緒に、チョコレートを配って回ることにした。
「ぬおおおおっ」
「もーらいっ!」
バスケットを持って近づくと、早速分校生達が押し寄せてくる。
「みなさーん、沢山ありますからケンカしないでくださいねー」
「3人で愛情込めて作ったんだよ〜。食べてね!」
「普通のチョコだよ。普通じゃつまらないんだけどねー」
繭とアユナは微笑みながら、エミリアは少し不満げにチョコレートを配る。
「まぁ、これ捌いた後にでもこっちの特製品は繭に……」
くすりと笑って、鞄の中のチョコレートを確かめる。
「あたしも貰っていいのこれ?」
パラ実生の少女が聞いてくる。
「もちろんです。召し上がってください」
繭は快くチョコレートを差し出す。
「お、なかなか可愛い子じゃない。野郎が多いけど、可愛い女子も多少はいるじゃない」
エミリアはチョコ配りより、次第に女の子視察に熱中していく。
「ごきげんよう、ちょっとお話伺ってもいいかな?」
繭達の下に、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が近づいてきた。
「ごきげんよう。何でしょうか?」
繭は微笑んで答える。
「今日は綾さんもいらしてるけど」
歩がそう切り出すとアユナが複雑そうな表情で目を逸らした。
アユナは綾とも仲が良かったのだが、事件以来、綾には近づかなくなっていた。
「事件のことだけど、鏖殺寺院が関係してるのかな? なんだか理由もなく断定しているような気がして」
「私達も団には所属していないので、詳しい説明までは受けていないんです」
繭はアユナと共に行動しており、アユナがファビオのその後――ハロウィンパーティで連れ去られたこと、その事件についてあまり触れられたくないと思っていること、彼女が調べようとしないことから、繭自信もファビオについて調べたりはしておらず、何も知らなかった。
ファビオと会ったことがある事実や、その時のことを歩に話すかどうかはこの場では決められなくて「ごめんなさい」とだけ言って、頭を下げる。
「ううん、ありがと」
歩は礼を言った後、周りを見回してハーフフェアリー達と外から戻ってきた野々の姿を見つける。
「野々さんはラリヴルトン家のメイドをされていたんですよね? 事件のことについて少しお聞きしてもいいですか?」
近づいて、歩は野々にも尋ねてみる。
野々は快く応じてくれたけれど、彼女も事件当時、事件の真髄に迫ろうとはしていなかった。メイドとして主人の家に尽すことを第一にしてきたから。
「……ラリヴルトン家、ご当主と鏖殺寺院の繋がりについては、公になっている通りです。その後のことは私も聞いてはいません。調べることもしていないのだけれど……。息子のレッザさんがヴァイシャリー軍に入られたという噂だけは耳にしています」
野々は表情に影を落とした。レッザの軍への志願理由は、金銭的な理由もあるだろうが、責任を感じてもいるのだろう。
「そっか。物とか薬の入手ルートとか調べていけたら、何か分かるかもしれないけど……」
どう動けばいいのだろうかと、歩は考え込む。
「くしゅんっ……ののおねぇちゃん、あったかいとこ行こっ」
ニクスが野々の手をぐいっと引っ張る。
「はいはい。それじゃ、火桶の方に行きましょう」
野々は、頭を下げるとニクスと火桶の方に向っていく。
「またねー」
歩はニクスに手を振って見送りながら、考えを巡らせていく。
本格的に調査をするのなら課外活動出席よりも、離宮対策本部と協力してヴァイシャリーで調べて回る必要がありそうだ。
「はい、これはアユナさんの分ですよ」
事件の話が出たことで、少し沈んでいるアユナに、繭は微笑みながらチョコレートを渡す。
「これからもよろしくお願いしますね?」
「うん! よろしくね」
アユナは笑みを浮かべた後、肩にかけていた鞄を開けた。
「じゃじゃーん、アユナも繭ちゃんや、エミリアちゃん達用のチョコレート用意してるんだ〜」
アユナは鞄の中から取り出した桃色の包装紙に包んだ箱を、繭、エミリア、女友達達に配っていく。
「今、アユナが一番好きなのは、お友達の皆だから」
首を軽く傾げて「大好きだよ」とアユナは繭に微笑んだ。
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